4/21'07
2007年能登半島地震の被害と提案する1-2秒震度との対応について

 2007年能登半島地震について,提案する1-2秒震度,1-2秒応答の実際の被害との対応が今一ではないかという声があるような話をききましたので,ここでコメントしておこうと思います.1-2秒震度,1-2秒応答というのは,多くの建物,日本では90%以上を占める弾性周期0.2〜0.5秒程度の木造家屋,中低層建物が全壊・大破時にその周期が3〜4倍に伸びる(等価周期)ことに着目し,等価周期における弾性応答から被害を予測する,あるいは,その弾性応答から震度を算定すれば,被害と対応した震度になる,というものです.0.2〜0.5秒を3〜4倍すれば,だいたい1-2秒になりますが,1-2秒という数字は過去の強震記録+その周辺の建物被害データに基づいています.以下に示す現在の震度の問題点と代替案の提案の図1↓がその根拠となるグラフ,

図1 何秒の揺れの強さが実際の建物被害と対応しているか

使用したデータが表2↓です.

 ここでは,2001年芸予地震までのデータを使用していますが,その後,2003年三陸南(宮城県沖),宮城県北部,十勝沖,2004年新潟県中越,2005年福岡県西方沖,宮城県沖など数多くの強震記録+周辺の建物被害データ↓が得られ,

同様の解析を行いましたが,結果↓はほとんど変わりませんでした(詳しくは境有紀, 強震観測点周辺の被害データを用いた地震動の性質と建物被害の関係の検討, 日本地震工学会論文集, 第7巻, 第2号, 特集号1「震度計と強震計データの利活用」, 180-189, 2007.3.).

 1-2秒という周期帯は,弾性周期の周期帯が0.2〜0.5秒なので弾性応答スペクトルを積分するときの下限周期と上限周期を上限周期=2*下限周期としたとき,1-2秒というきりのいい数字で最も建物被害と相関がよくなるということが根拠になっています(詳しくは,境有紀, 神野達夫, 纐纈一起, 震度の高低によって地震動の周期帯を変化させた震度算定法の提案, 日本建築学会構造系論文集,第585号, 71-76, 2004.11.).

 ですから注意すべきは,1-2秒震度は,コンセプトとしては,建物が大きな被害を受けるときの等価周期という物理的なものに基づいていますが,1-2秒という数字自体は過去の強震記録+周辺の被害データから決まっているということです.図1を見るとわかるように大きな建物被害と相関係数が高い周期帯は,1.2〜1.5秒程度,範囲を広げると1-2秒ということです(現在の震度の問題点と代替案の提案境有紀, 纐纈一起, 神野達夫, 建物被害率の予測を目的とした地震動の破壊力指標の提案, 日本建築学会構造系論文集, 第555号, 85-91, 2002.).

 ただ,最も相関が高い1.2〜1.5秒という範囲を1-2秒に広げるべきかどうかはなかなか難しい問題です.範囲をあまり狭くし過ぎるとその範囲にちょうどスペクトルのピークや谷が入ってしまうと被害を過大あるいは過小評価してしまう可能性があります.そこで,範囲を広げて1-2秒としていたわけです.しかし,一方では範囲を広げれば精度は落ちることが考えられます.

 ここで,図1を改めて注意深く見てみると1-2秒の範囲で部分的に1.5〜2秒の間で相関が落ち込んでいるところがあります.これを単なるデータのばらつきと見るか,何か物理的背景があると見るかも難しい問題ですが,建物の弾性周期の分布が2つのピークをもっているとは考えにくく(例えば,境有紀, 纐纈一起, 神野達夫, 建物被害率の予測を目的とした地震動の破壊力指標の提案, 日本建築学会構造系論文集, 第555号, 85-91, 2002.の図4)等価周期のピークも1つと考えるのが自然のような気もします.

 いずれにしても1-2秒は過去の強震記録+周辺の建物被害データと弾性応答スペクトルの積分値を,積分の範囲を上限周期=2*下限周期としたとき最も相関が高くなる周期帯ということなので,過去のデータに基づいているということになります.つまり,過去にあらゆるタイプの地震動が記録されているとは限らないわけで過去にないタイプの地震動が発生し,被害と対応しない事態が生じれば修正されてしかるべきだと考えます.

 過去にあらゆるタイプの地震動が記録されているとは限らないと書きましたが,表2とそれ以降発生した地震動(表1)を見てみると,あらゆるタイプの地震動が含まれていないのは明らかで,その卓越周期は0.2秒〜1.5秒の範囲に限られていることがわかります.つまり,1.5秒程度以上の卓越周期をもった地震動が含まれていません.これらが含まれていると図1は違った結果になることは大いに考えられます.実際,1999年台湾集集地震では,石岡で地動最大速度300cm/sという長周期地震動が記録されましたが,周辺の建物被害はさほどでもなく,これを含めた解析によれば図1に対応したグラフは,境有紀, 吉岡伸悟, 纐纈一起, 壁谷澤寿海, 1999年台湾集集地震に基づいた建物被害を予測する地震動の破壊力指標の検討, 日本建築学会構造系論文集, 第549号, 43-50, 2001.の図9の「周辺」のようになり↓,1秒前後という非常に狭い範囲にピークをもつグラフとなります.

 そして,今回の2007年能登半島地震で,1.5〜2秒程度が卓越し,かつ,その周期帯にかなりのパワーがある地震動が発生しました.具体的にはJMA輪島とJMA能登がそれにあたります.JMA輪島周辺では全壊家屋が見られましたが,全壊率は5%程度ですし,JMA能登に至っては大きな被害は全くありません.

 そこで,まだ震度計のデータが公開されていないのでたった6点で被害率も暫定値ですが,ここで示した,強震記録+周辺の建物被害データを使って図1に対応するグラフを描いてみました↓.

 結果は,1999年台湾集集地震とよく似た1秒程度にピークをもつグラフになりました.ただ,この結果から大きな建物被害と相関をもつ周期帯は1-2秒ではなく1秒程度とするのは,もちろん早計です.木造家屋の地方性の影響などもあるかもしれません.実際,今回のデータを今までのデータ(表2+それ以降)に加えて図1と同様の図を描いてみると,2007年能登半島地震以前の

となり,結果はほとんど変わりませんでした.ですが,これも1.5〜2秒が卓越した非常に重要なデータであるJMA輪島とJMA能登が数多くのデータの中に埋もれてしまっただけかもしれません.

 いずれにしても,これから綿密な検討を行っていく必要があると思います.その結果によっては,1-2秒という数字は見直しが必要になるかもしれません.しかし,ほとんどの建物の全壊・大破時の等価周期における弾性応答から被害を的確に予測できるというコンセプトには間違いはないと考えています.つまり,修正が必要だとしても等価周期が具体的に何秒なのかという周期帯の微調整の問題だと考えています.

 少なくとも,大半を占める木造家屋,中低層建物に対して,(1)卓越周期0.5秒以下の大加速度極短周期地震動であまり被害が生じない,(2)卓越周期1.2-1.5秒程度のやや短周期地震動で甚大な被害が生じる,(3)卓越周期5秒以上の長周期地震動であまり被害が生じない,という3つの現象を同時に説明できるものは,「等価周期応答」しかありません.例えば,よく使われる既往の地震動強さ指標について,地動最大加速度,計測震度では(1)が,地動最大速度,スペクトル強度では(3)が説明できません.

 「等価周期応答」は,建物が大破・全壊するとき周期が伸びるという物理現象に基づいているとともに,強震記録+周辺の建物被害データという実際のデータにも裏打ちされたものです.1-2秒という周期帯を最初に提案したのはもう5年以上前ですが(境有紀, 神野達夫, 纐纈一起, 建物被害と人体感覚を考慮した震度算定方法の提案, 第11回日本地震工学シンポジウム論文集, CD-ROM, 2002.11.),その後の2003年三陸南(宮城県沖),宮城県北部,十勝沖,2004年新潟県中越,2005年福岡県西方沖,宮城県沖でいずれも的確に被害を予測することができました.そして,能登半島地震で1.5〜2秒という周期帯にパワーをもったこれまでにないタイプの地震動が観測されました.

 しかし,今回のデータを加えても強震記録+周辺の建物被害データの強震記録には,未だあらゆるタイプの地震動が含まれているわけではありません(特に卓越周期が2秒以上のやや長周期地震動,長周期地震動).強震記録+周辺の建物被害データは,実際の被害地震で得られた最も説得力のあるものですが,過去に発生したものに限られてしまうのが難点です.今まで発生していないタイプの地震動が発生して被害が生じるのを指を加えて待っているわけにもいかないので,強震記録+周辺の建物被害データ以外の研究手段を考案する必要もあるでしょう.

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