日本で同じ揺れが発生したときに予想される被害 
−ニュージーランド クライストチャーチ直下の地震−

 今回の地震で観測された強震記録を用いて,被害と対応した地震動強さ指標による被害関数,および,非線形木造,RC造建物群による地震応答解析を行って,同じ揺れが日本で起こった場合の被害を予測しました.

 用いた被害関数は,1-1.5秒平均速度応答(2方向ベクトル和,減衰定数5%)を説明変数とし,過去の強震記録と被害データに基づいて構築されたもので,日本の平均的木造家屋,中低層鉄筋コンクリート造建物を対象とした以下のものです(新井,2011,熊本,境,2007, 2008).


↑木造,中低層RC造建物の被害関数(Dw: 木造建物全壊率,Dl: 中低層RC造建物大破率,V1-1.5: 1-1.5秒平均速度応答(cm/s),Φ: 標準正規分布の累積確率

 非線形木造建物群は,木造建物の挙動(復元力特性)をモデル化し(修正Takeda-Slipモデル,飯塚,境,2009↓),建物の周期や強さ(ベースシア係数)を実際の木造建物の微動測定結果から定めて,現存する日本の木造建物群を構築したものです(境,飯塚,2009).非線形RC造建物群は,平面図から実耐力を算定する方法(熊本,境,2008)でベースシア係数分布をモデル化したもので,復元力特性は,Takedaモデルを用いています.


↑修正Takeda-Slipモデル


↑非線形木造建物群モデル(飯塚が作ってパワポで使ってる奴)

 推定した被害率(全壊・大破率)を以下に示します.

   観測点名  木造建物   中低層RC造建物
         全壊率(%)    大破率(%)
       被害関数 建物群 被害関数 建物群
    CCCC   8.69  4.84   3.77  0.85
    HVSC   3.53  0.00   1.67  0.74
    LPCC   0.44  0.00   0.29  0.00
    PRPC   4.62  2.21   2.12  0.07

 日本の現存する建物でも数%程度の建物が全壊・大破する大きな破壊力をもった地震動であることがわかります.

参考文献

熊本匠, 境有紀, 非木造建物の被害と相関を持つ地震動の周期帯−2007年能登半島地震、中越沖地震の非木造建物の被害状況との対応−, 日本建築学会大会学術講演梗概集,構造II, 675-676, 2008.9.

熊本匠, 境有紀, 鉄筋コンクリート造建物の余剰耐力を考慮した実耐力分布の地震応答解析による検証, 日本地震工学会大会−2007梗概集, 264-265, 2007.11.

熊本匠, 境有紀, 鉄筋コンクリート造建物の非構造部材を考慮した実耐力分布, 日本建築学会大会学術講演梗概集,構造II, 311-312, 2007.8.

境有紀, 飯塚裕暁, 非線形地震応答解析による地震被害推定を目的とした平均的な木造建物群モデルの構築, 日本地震工学会論文集, 第9巻, 第1号, 32-45, 2009.2.

飯塚裕暁, 境有紀, 木造建物における一自由度系地震応答解析のための復元力特性モデルの提案, 日本地震工学会論文集, 第9巻, 第1号, 113-127, 2009.2.

新井健介,構造種別や層数を考慮した地震被害推定システムの開発に関する研究, 筑波大学大学院修士論文, 2011