震度や地震の揺れと被害に関する基礎知識

 地震が発生したときに地震動レポートや被害調査速報を公開していますが,簡単な基礎知識について書いておこうと思います.

 まず,地震の揺れの強さを表す指標として,震度が用いられますが,これは,自治体が設置した震度計でとれた記録を基に計算して気象庁が発表しているもので,こちらに詳しく書いていますが,「人がどれだけ強い揺れだと感じるか」を測っています(現在の計測震度ができる前,人が体感で判定していたことに由来します).

 普通に考えれば,人が強い揺れと感じるのなら,建物被害も生じると考えがちですが,そうはならないことが多いです.それは,人が感じやすい周期(0.1-1秒)と,建物が大きな被害を受ける周期(1-2秒)が異なるからです.人が感じやすい0.1-1秒だけが出るケースが多い(全体の80〜90%くらい)ので,そういう場合は,震度が大きくても建物被害はさほどでもないことになります(例えば,2018年の大阪府北部の地震).

 一方,全体の10〜20%くらいは,1-2秒が出るので,注意が必要です(例えば,1995年兵庫県南部地震や2016年熊本地震の益城町).つまり,全体80〜90%の震度だけが大きくなる地震で,被害が小さくて済んでも安心してはいけないということです.

 地震が起こって,どういう周期の揺れかは,応答スペクトル(横軸が周期,縦軸が揺れの強さ)を見ればわかります.以下は,胆振地方中東部の地震(2018/09/06)で発生した地震動と過去の地震動と応答スペクトルを比較したものですが

 

(1)兵庫県南部地震JR鷹取,(2)新潟県中越JMA小千谷,(3)三陸南JMA大船渡,
(4)東北地方太平洋沖地震K-NET築館(栗原市震度計),(5)K-NET早来,(6)KiK-net追分

(6)のKiK-net追分を見ると,0.5秒付近で非常に大きな値になっていて,震度も7相当ですが,1-2秒のところを見ると((1)兵庫県南部地震のJR鷹取と比べると)非常に小さくなっていて,建物の大きな被害を引き起こすものではないことがわかります.その一方で,(5)のK-NET早来の1-2秒の大きさは,(1)兵庫県南部地震のJR鷹取の半分程度,(2)新潟県中越JMA小千谷くらいはあるので,建物の大きな被害が生じてもおかしくない特性をもっていると言えます.

 このように応答スペクトルを見ると,地震動がどのような周期成分をもっているかわかるのですが,それをもっとわかりやすく数字で示したのが,周期ごとの震度相当値です.胆振地方中東部の地震(2018/09/06)で発生した地震動の例で言うと,下の表がそうです.

 下から7つ目のKiK-net追分は,計測震度(≒0.1-1秒震度)が6.74と震度7相当ですが,1-2秒震度は,5.66と震度6弱相当,一方の,上から3つ目のK-NET早来は,計測震度(≒0.1-1秒震度)が6.44と震度6強相当であると同時に,1-2秒も6.08と同じく震度6強相当になっていることがわかります.

観測点名 計測震度 0.1-1秒震度 0.5-1秒震度 1-2秒震度 提案震度
HKD124(K-NET由仁) 4.99 4.82 4.01 3.93 4.82
HKD127(K-NET追分) 6.41 6.40 5.87 5.47 5.87
HKD128(K-NET早来) 6.44 6.32 6.11 6.08 6.08
HKD129(K-NET苫小牧) 5.25 5.10 4.40 4.54 4.96
HKD130(K-NET白老) 4.57 4.54 3.86 3.67 4.54
HKD131(K-NET登別) 4.97 4.77 3.94 3.50 4.77
HKD132(K-NET室蘭) 4.56 4.68 4.16 3.59 4.68
HKD134(K-NET大滝) 4.61 4.48 3.67 3.16 4.48
HKD158(K-NET椴法華) 4.65 4.85 4.47 3.77 4.85
HKD178(K-NET石狩) 4.63 4.69 4.35 4.35 4.69
HKD180(K-NET札幌) 5.06 5.00 4.63 4.98 5.00
HKD181(K-NET江別) 5.18 5.19 4.71 4.26 5.01
HKD182(K-NET広島) 4.76 4.78 4.20 4.14 4.78
HKD184(K-NET千歳) 5.34 5.16 4.39 4.57 4.91
HKD185(K-NET支笏湖畔) 5.25 5.25 4.69 4.31 4.97
IBUH01(KiK-net追分) 6.74 6.68 6.30 5.66 6.10
IBUH05(KiK-net白老) 4.66 4.60 3.90 3.72 4.60
IBUH06(KiK-net室蘭) 5.12 5.06 4.37 3.81 4.98
IBUH07(KiK-net大滝) 4.76 4.69 4.09 3.57 4.69
IKRH02(KiK-net新篠津) 5.21 5.17 4.68 4.25 5.00
IKRH03(KiK-net千歳) 5.03 4.97 4.49 4.70 4.97
SRCH09(KiK-net栗山) 5.56 5.54 4.91 4.32 4.91

 地震動のどの周期成分が大きいかによって,起こる現象も異なってきます.1秒以下の成分が大きいと,人が強い揺れだと感じるので震度が大きくなります.また,屋根瓦がずれる,ブロック塀が倒れる,室内物品が動く,ひび割れが入るなどの被害が増えます.斜面崩壊などもこの周期成分の影響が大きい1)という検討結果があります.

 1-2秒の成分が大きいと全壊・大破といった建物の大きな被害につながります.1-2秒の根拠は,過去の被害を説明できるということもありますが,物理的背景として,木造,10階建て以下の非木造といった多くの建物の周期は,0.2〜0.5秒程度ですが,大きな被害を受けるときに周期が伸びて1-2秒程度になる,ということがあります.

1) 神田和紘,境有紀,地震による斜面崩壊と地震動の周期帯の関係の検討,第13回日本地震工学シンポジウム論文集,2010.11.

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