コラム

 地震防災を対象とした研究という仕事をしていると,学術的なこと以外にもいろいろ思うこと,考えることがあります.そこで,ここでは,主として地震防災を対象としていろいろ思うこと,考えることを書いていこうと思います.個人的なページと違って,研究室のページの中に置きますので,私の知識,能力の範囲で責任をもって書きますが,あくまで個人的な意見,見解です.

とは言え,現実には
1995年兵庫県南部地震が発生して29年
2024年能登半島地震の被害調査を終えて
2007年能登半島地震と2024年能登半島地震
耐震補強は進んでない?
阪神・淡路大震災から26年
研究成果の解説
10回に1回
もう20年も
メキシコ・モレロス州の地震
それ「だけ」ではだめ
東日本大震災から5年
阪神・淡路大震災から21年
津波警報と避難について
避難計画
スリットを入れるな!
6/1放送の直撃LIVE グッディ!について
この20年は何だったのか(阪神・淡路大震災から20年)
結局,自己責任なのか
御嶽山噴火
あの日から3年
1995年兵庫県南部地震から19年(あまりに近視眼的)
津波対策としての救命胴衣
10回に1回の防災システムの問題(伊豆大島の斜面崩壊被害)
東京オリンピック招致について
東日本大震災から2年
阪神・淡路大震災から18年
悲惨な被害への「準備」が始まった
悲惨な被害が繰り返される理由
既にもうそうなってる
津波は怖くない
誰を守ってる?
追記: 共振???
共振???
阪神・淡路大震災から17年
やばい雰囲気
安全情報?
津波警報ありき?
安全側なら大丈夫?
災害のダメージ
進化しないもの
研究者がやるべきこと
早くも心配なことが現実に
どうして建物には「車検」がない?
想定外?
心配なことが...
心配していたことが起こってしまった
数字のマジック?
ニュージーランド クライストチャーチ直下の地震
1995年兵庫県南部地震から16年
震度6でも大丈夫?
津波警報が出ても大丈夫?
チリ中部の地震による津波に対する対応
地震防災のプライオリティ
阪神・淡路大震災から15年
サモア諸島沖の地震による津波注意報への対応
本能で防災してはいけない
静岡県は耐震先進県?
スマトラ島沖地震による津波の映像を見て
地震災害の3つの特質と問題点

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1/18'24
とは言え,現実には

 とは言え,現実には,それが難しいこともわかっています.実際,1995年兵庫県南部地震から30年近く経ったのに今回の被害なわけですからね.

 一番大きな要因は,木造建物のほとんどが個人所有ということでしょう.学校などの公共の建物は,耐震化が進んだことと対照的で,最終的には,個人の責任なので,国や自治体がどうしろと強制することは,今の法体系では,できません.

 実際,交通事故に遭う確率があるとわかっていても,人は自動車に乗るわけですし,事故や災害などのリスクを完全に排除しようとすると,今の世の中,生活できなくなってしまうということもあるでしょう.

 ただ,事故に遭うリスクがあっても車に乗ることについては,気をつけて運転したり,保険に入ったり,安全性が高い車に乗ったりということをしている人が多いのに比べて,地震が来るリスクに対して,対策をしている人は少ないと思います.防災グッズを買ったり,家具を固定したりするのは大事なことですが,家が倒壊してしまえば,防災グッズを使うことすらできませんし,家具の固定も関係ありません.

 じゃあ,費用をかけて対策をすることがリスクに見合ってるか,即ち,大きな地震が起こって,どういう家に住んでいて,命を落としてしまう確率と,その確率をどれだけ減らすのにかかる費用はどれだけなのかは,計算できて,非常にざっくり言うと,耐震補強した方が得になることが多いです.そして,経済面だけではなく,「安心」というお金で買えないものが手に入ります.

 とは言え,私もそうですが,なかなか腰が重いですよね.でも,そういうことだけではなく,人間,確率が低い巨大なリスクに目をつぶってしまう(津波警報が出たけど津波は来ない,火災報知器が鳴ってるけど検査か何かで火事ではないと思ってしまう)という正常化の偏見があるので,そういうことも加味して判断する必要があると思います.

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1/17'24
1995年兵庫県南部地震から29年も経ったのに

 今日は,29年前,1995年兵庫県南部地震が発生した日です.先日,2024年能登半島地震が起こり,またしても古い木造家屋の倒壊で多くの人命が失われ,あれから29年も経ったのにと思ってしまいます.

 今回,現地に入って被害を見て思ったのは,被害の甚大さとともに,今の基準で建てられた新しい建物の被害の少なさです.つまり,今の基準で建てられていれば,1995年兵庫県南部地震レベルの揺れに対しても大丈夫だったわけで,それは,目を見張るものがあるのですが,30年近く経っても,そのような建物は,まだ少なく,耐震化は,充分に進んでいないとも思いました.

 日本全体では,いわゆる耐震化率,即ち,1981年以降に建設された建物,あるいは,1981年以降に建設された建物相当に耐震補強された建物の割合は,8〜9割と言われていますが,裏を返せば,1〜2割は,耐震化されていないということで,1〜2割の建物が全壊・大破すれば,甚大な被害ですし,耐震基準は,1995年兵庫県南部地震の木造建物の甚大な被害を受けて,2000年にも改正されているので,1981年以降に建設されたものの中にも今の基準を満たしていないものもあります.

 今回の地域の耐震化率は,全国平均よりかなり低いと言われてますが,地方でそういうところは,たくさんありますし,都市部でも古い木造建物が残っているところもたくさんあって,都市部だと被害率は同じでも,数が多いので,1995年兵庫県南部地震のように甚大な被害になってしまいます.新しい建物は味気ないということなら,古い建物を耐震補強することもできます.

 首都直下地震や南海トラフの地震もそうですが,今回のようなマグニチュード7クラスの直下地震は,日本全国,いつどこでおこってもおかしくなく,今回のような甚大な被害が生じる前に,対策をしておくことを考えないといけない,いや,行動を起こさないといけないのではないでしょうか.

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1/11'24
2024年能登半島地震の被害調査を終えて

 1/7〜10と強震観測点回りの建物被害全数調査を(一部回りきれないところもありましたがほぼ)終えました.結果は,宇都宮大学の中澤先生のウェブサイトにあるように,事前に地震波形から推定(懸念)された通りの甚大な被害でした.

 具体的には,大きな1-2秒応答が出ていた,穴水や輪島の観測点周辺では,多くの木造建物が全壊しており,一方では,震度7を記録したものの短周期が卓越して1-2秒が出ていない観測点周辺に大きな被害建物はありませんでした.

 穴水は,1-2秒が最も大きかったところですが,2007年能登半島地震で,既に18.8%の木造建物が全壊して撤去,あるいは,建て替わっていて,建物群としては,耐震性能が高い状態だったのですが,それでも,22.8%の木造建物が全壊していて,2007年の時と合わせると41.6%ということになって,まさに1995年兵庫県南部地震のJR鷹取周辺や2016年熊本地震の益城町震度計周辺並みの甚大な被害ということになります.

 輪島の2点も甚大な被害で,どちらも30%程度の木造建物が全壊しました.こちらも2007年能登半島地震で被害を受けたのですが,こちらは,5%程度なので,今回の被害と合わせると,1995年兵庫県南部地震のJR鷹取周辺や2016年熊本地震の益城町震度計周辺に近いレベルの被害ということになります.

 このような甚大な被害の一方,倒壊して道を塞いでいるような建物の横で,何ともない状態で建っている建物も多く,その差は,耐震性能の違いにあることは明らかでした.つまりは,大きな被害を受けた建物のほとんどが1階に大きな開口があったり,古く老朽化した建物であったりする一方,築年が浅い新しい耐震基準で建てられたものは,ほとんど被害を受けておらず,地震被害を減らすために何をすべきかも明らかだと思いました.

 また,震度7を記録した志賀町の地震波は,極短周期で1-2秒はほとんど出ておらず,観測点周辺は,建物数は少なかったのですが,大きな被害はなく,震度の大きさだけではなく,1-2秒が出るか出ないかが建物の大きな被害に結びつくことがまたしても証明されることになりました.

 今回は,道路の状況が非常に悪く,渋滞もひどくて,移動に時間がかかり,2日目に積雪もあった上に,雪や雨の荒天のことが多く,今までで一番大変な調査になったかもしれません.それでも,計画していたところは,珠洲以外は,ほぼ回ることができました.

 このように,今後の地震防災に繋がる貴重なデータを得ることができたと思いますが,地震発生直後の被災されて苦しんでおられる中での調査は,正直,申し訳なく心苦しいもので,もう少し時間をおいて現地に入るべきだったとも感じています.

 あらためて,亡くなられた方々,被災された方々にお悔やみ,お見舞い申し上げます.

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1/4'24
2007年能登半島地震と2024年能登半島地震

 能登半島地震ですが,1/4の時点で,死者,行方不明者を合わせると数百人以上という甚大な被害になってしまいました.阪神・淡路大震災の6千人以上や東日本大震災の2万人以上と比べたら,と言う人もいるかもしれませんが,神戸とは,住んでる人や建物の数が全然違いますし,非常に広範囲に渡って巨大な津波が押し寄せたわけでもありませんからね.

 つまり,いかに地震の揺れが破壊的だったか(震度が大きかったからではなく,1-2秒の成分が大きかったか)ということなんですが,1-2秒が一番大きかったところは穴水で,ここは,2007年能登半島地震の時も1-2秒が大きく,周辺で20%近くの木造家屋が全壊しました.で,気づいたんですが,ということは,今回は,当時の地震で生き残った建物と建て替えられた建物という耐震性が高い状態になっていると考えられ,今回の被害がどうなったかを当時と比較,分析することで,見えてくることがあると思いました(こういうケースは,おそらく初めて).

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1/18'21
耐震補強は進んでない?

 建物の耐震化はそれほど進んでないと書きましたが,いやいや,自分の学校や大学の建物は,ブレースが入って耐震補強が行われたし,他にもそういう建物は結構見るし,大分進んだんじゃないの?と言う人もいると思います.

 そうですね.そういう建物(主としてRC造)はそうだと思います.でも,そういう建物は元々耐力が高いですし,潰れても人はそんなに死なないと思います.やや専門的になりますが,例えば,学校建物なら,腰壁,垂壁という非構造部材が付いているので,柱が潰れても生存空間が残ることが多いからです.

 ↓は,1993年グアム島地震で,コンドミニアムの2階の柱が潰れた部屋の中の写真ですが(思わずもぐりこんで撮りました),腰壁の分,生存空間が残っていて,実際,地震の時,人がいて,見る見る天井が下がってきて,死ぬと思ったそうですが,ここで止まって,揺れが収まった後,抜け出したそうです.

 街中のオフィスビルもそういうものが多いです.実際,1995年兵庫県南部地震のときに三宮の多くのオフィスビルが潰れましたが,腰壁垂壁は付いていたものは,生存空間は残ったので,地震が起こったのは早朝で,中には人はほとんどいなかったと思いますが,もしいても多くの人がそこで亡くなることはなかったと思います.

 ↓は,JR三ノ宮駅のすぐ北にあるNビルの震災直後の様子で,4階が潰れていますが(窓の部分が完全になくなっていて,その分看板もずれている.このようなビルが他にも多数あった),↑の建物のように,腰壁,垂壁の分だけ,中に生存空間が残っています.

 じゃあ,建物が倒壊すると生存空間が残らない建物は何かと言うと,木造ということになります.↓は2004年新潟県中越地震で潰れた木造住宅ですが,生存空間もほとんど残っていないのがわかります.

 もちろん,木造建物も1995年兵庫県南部地震以降,研究や技術が進んで,耐震性が高い建物が造られるようになりましたが,問題は,今の基準を満たしていない既存不適格建物(要は,古い建物)で,そういうものが大量に放置されたままになっていて,何と未だに1000万棟以上存在するという試算もあり,これらの耐震補強が一向に進んでいないのが現状です.

 しかも,その多くは住宅ですから,まさに1995年兵庫県南部地震のように,寝ているときに地震が来れば,下敷きになって命を落とすことになってしまいます.

 耐震補強できるのならした方がいいに決まってますが,いつ来るかわからない大地震に対してそこまでしないというのが人の性(さが)なのでしょう.でも,安い大衆車くらいの値段で耐震補強はできるわけで,車検が何回か来れば車は買い替えるのに,自分の命を奪うかもしれない家の耐震補強はしないのは,バランス的にどうかとは思います.

 抜本的な解決法ではないですが,寝室は2階にする(1階では寝ない)というのは,一つの考えです.1995年兵庫県南部地震のときもそうでしたが,多くの場合,潰れるのは1階だからです.↓は,2007年新潟県中越沖地震で1階が潰れた木造建物ですが,2階はほとんど何ともありません(もちろん,2階で寝れば必ず大丈夫ということではありません).

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1/17'21
阪神・淡路大震災から26年

 阪神・淡路大震災から26年が経ちました.でも思うことは毎年変わりません.

 それは,このままでは,あの時と同じとは言いませんが,あの時のように多くの尊い命が失われることになってしまうということです.

 地震防災と言っても非常に多岐に渡りますが,私が関係したところで言うと,建物の耐震化はそれほど進んでませんし,防災システム,例えば,震度算定法は,ずっと被害と対応しないままですし,それは津波警報も同様です.

 精度の低さを安全率でカバーしている,即ち,震度は大きめに出るし,津波警報も然りですが,そうすると,震度6とかの大きな震度を記録しても被害がそれほど出ない,津波警報が出ても大きな津波は来ないということが10回中8回も起こることになり,そうすると,人々は,震度6でもこの家は(ほんとは大丈夫でないのに)大丈夫と思ったり,津波警報が出ても津波は来ないと思って,避難しなかったりで,結果的に被害を拡大させることになってしまっているのです.

 どうすればいいかは明らかでしょう.少なくとも,震度については,被害と対応する算定法が20年前から提案されています.でも,逆に言えば,20年もの間,変わらなかったわけですから,変わらないということなのでしょうが,それでいいのでしょうか.

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7/28'20
研究成果の解説

 論文だけではなく,このサイトを研究成果の公表の場として活用して行くということで,研究成果の公表というページを作っていましたが,研究成果の公表は,論文という形でしているので,ここでは,よりわかりやすく,かつ,論文では書けないもっと本質的なことも書けるようにということで,「研究成果の解説」という名前にしました.

 第一弾は,津波警報が出て津波が来るのは8回に1回です.

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7/16'20
10回に1回

 水害がひどいんですが,今の技術では10回に1回しか豪雨を予測できないと言っています.つまりは,10回中9回は空振りってことですが,これって津波警報と同じですよね.

 つまりは,そういう情報が出ても10回中9回は何事もなくて避難しなくても大丈夫とオオカミ少年になり,10回目で大きな被害になってしまうという悪循環なわけです.

 もちろん,予測精度を上げることができればいいですが急には無理でしょう.だとすれば,現状でできることをするしかありません.つまり,ここで書いたように10回中9回を「避難訓練」だと思って避難するということです.

 津波警報では,10回中1回しか津波は来ませんとは言えないでしょうが,大雨の警報は「10回に1回」しか当たりませんと公言してるわけで,だったらあとは,それを地元の自治体がどう運用するか,住民を「10回中9回は避難訓練」という意識にもって行けるかということでしょうか.

 「10回中9回」と言っても,年に1回あるかないかでしょうし,そのくらいの頻度で避難訓練はした方がいいですし,それは津波警報も同じです.

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6/19'18
もう20年も

 大阪北部の地震ということで,いろんなところから取材とかがあるんですが,今回の地震は,0.5秒以下の極短周期が卓越した地震動で,震度は大きくなるけど,建物の大きな被害を引き起こす1-2秒は小さく(こういうケースが全体の8〜9割),震度の割に被害が少なかった,自分の家が震度6でも大丈夫だったからといって,決して建物の耐震性能が高いわけじゃないですよ,という同じことをもう20年くらい繰り返していて,なにやってんだかって感じです.

 でも,そういう物理的背景がちゃんとわかってる人は,ほとんどいないわけで,私が言うしかないんですが,要は,20年経っても何も変わらない,具体的には,震度算定法が変わらない,少なくとも,震度に対する正しい理解が定着しないってことなんですが,後者については,多分,100年かかっても無理でしょうから,結局,ちゃんと勉強した人が得をするというか,具体的には,今回の地震で自分の家が大丈夫だからと言って安心してると,痛い目に会うということなのでしょうか.

 致し方ない面もありますが,こういう状況を放置している国の責任は重いでしょう.そういう空振りを何度も繰り返していると,具体的には,津波警報が出ても津波なんか来ない,大きな震度を記録しても建物は壊れない(というのがくしくもどちらも全体の8〜9割)を繰り返していると,津波が来たとき,1-2秒が出たとき,却って被害を拡大させてしまうのは,何度も指摘してる通りです.

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9/22'17
メキシコ・モレロス州の地震について

 メキシコ・モレロス州の地震ですが(メキシコ地震という言い方は,よくない,と思う.日本地震とは言わないでしょう?),何とあのミチョアカン地震と同じ日ということで,そんなこともあるのかと驚いています.1985年なので,もう30年以上前ですね.私が大学4年のときということになりますが,起こった当時のことは,あまり憶えてません(1986年の三原山の噴火はよく憶えてるが).でも,この地震は,震源から300km以上離れた(今回も100kmくらい離れている)メキシコシティーで長周期地震動が発生して,甚大な被害を引き起こし,1万人以上の死者を出したので,その後の解析対象として,よく参照しました.

 当時の被害の多くは,地盤が軟弱な地域に建つ,非常に耐力が低い中高層建物で,パンケーキ状の完全に潰れた建物が多く見られて,過剰に靱性能に依存して耐力を低減した当時の耐震基準の抜本的な見直しがされたと思います.そして,もちろん,テレビ画面を通してなので,何とも言えませんが,同じような壊れ方をしている建物が多いのですが,日本と同じように既存不適格でそのまま放置されていたということでしょうか.だとすると,他人事ではないですね.

 死者数は,現在のところ,数百人ということで,大きな被害ですが,1985年は,1万人以上ですから,その時に比べれば,少なくて済んだと言う人もいるかもしれません.でも,1985年の地震と同じ日ということで,午前中に避難訓練をしていたこととか,地震動の強さも,当時と違うでしょうから,ちゃんとした定量的な検討は必要でしょう.

 倒壊の瞬間を捉えた動画を見ると,揺れてる最中ではなく,揺れが収まって後に突然,倒壊しているのが意外な感じがする人もいるかもしれません.でも,これも揺れてる最中は,カメラなんか回せないってこともあるでしょうし,揺れが収まってから倒壊するのも充分にありうることなので,別に不思議なことではないと思います.

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3/12'16
それ「だけ」ではだめ

 重要なのは,二度とこのような悲惨な災害を繰り返さないようにすることと書きました.でも,既に被災している人がいたら,まず助けるべきというのは,(これも既に書いたように)その通りです.でも,それ「だけ」ではだめということです.

 そもそも,復興できるのなら,立ち直れるのなら,被災してもいいですか? 人生にある程度の挫折は必要なのかもしれませんが,自分が命を落としたらそこで人生が終わりますし,家族や大事な人を失うような挫折は,したくありませんよね.つまり,被災なんかしない方がもっといいですよね.

 だとしたら,被災しないようにしましょう,そうであるように行動しましょう,ということです.既存不適格建物の耐震補強は,お金もかかるし,なかなか大変だと思いますが,多くても年にせいぜい1,2回,津波警報が出た時に,避難訓練だと思って,高台に避難することくらいできませんか?

 でも,そういうことは,東日本大震災の前からずっと言ってることですし(例えば,ここ),私が何を言おうが,ここで何を書こうが,何も変わらないんだと思います.何だか虚しくもなってきますが,結局は,自己責任ということでしょうか.

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3/11'16
東日本大震災から5年

 あの日から5年が経ちました.メディアでは,この災害がいかに悲惨なものであったか,そして,復興が進んでいないことをさかんに報道しています.この日の記憶が薄れてきている人がいるというのなら,そういうことも意味はあるとは思いますが,何度もこのサイトで書いていますが,重要なのは,二度とこのような悲惨な災害を繰り返さないようにするにはどうしたらいいか,です.

 そして,そういう観点から見れば,このままでは,また確実に(と顰蹙を買っても敢えて言わせていただきます)悲惨な災害は繰り返されるでしょう.だって,ほとんど何も変わってませんから.

 例えば,津波警報が出た時,みなさん,ちゃんと(8回に7回は空振りということをわかった上で避難訓練だと思って)高台に避難されてますか? 驚いたことに,あんな悲惨な被害だったのに,以前より避難率が下がっているというデータがあります.あの災害があまりに大きかったので,津波警報くらいでは,危機感を感じないということなんだそうです.

 これも既に書きましたが,悲惨な被害を「忘れない」というだけでは,被害は減りません.「対策」をすることです.つまり,被害の前と後で,「行動」が変わらないといけないということです.自分や大切な家族の命を守るのは,最終的には自分自身です.

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1/17'16
阪神・淡路大震災から21年

 またこの日が来ました.でも,思うことは,昨年と変わりません.というか,ずっと変わっていません.つまり,ほんとはこうしないといけないことは,ほとんど対策がとられていないということです.結局,「事が起こってから」しか対策がとられないということでしょうか.「事が起こる」前に「事が起こらないように」するのがとるべき行動なのではないですか? というのも何度も書いてることですね.

 では,どうしたらいいか? ですが,これも再三ここで書いていることです.まずはハードの整備,具体的には,既存不適格建物の耐震補強です.阪神・淡路大震災のときもそうでしたが,大地震で被害を受ける建物は,古くて耐震性能が低い建物です.そして,そのような建物がまだ大量に放置されたままで,その数は,1000万棟近くにものぼります.

 しかしながら,既存不適格建物の耐震補強は,特に民間の建物について,遅々として進まないのが現状です.そういう中,明日大地震が来るかも知れない状況を考えると,ハードだけではなく,ソフト,具体的には,防災システムの整備を進める必要があります.

 しかし,こちらも20年前からほとんど進んでいません.具体的には,例えば,救助に必要な,大地震が発生した時に大きな被害がどこで生じているかを調べるシステムに使われる震度は,被害と対応させる方法があるのに,ハードと違って,ソフトを更新するだけで済むのにも関わらず,実際の被害と対応しないままです.

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1/16'16
津波警報と避難について

 朝日新聞に私のコメントが掲載されたので,いい機会なので,私の考えをまとめておこうと思います.

 まず,津波は怖くありません.どういう意味かは,リンク先を見ていただければわかりますが,家は流されてもちゃんと避難すれば,最も大事な命が助かる可能性が高いからです(対照的に,揺れによって建物が倒壊した場合,80%は即死なので,そうは行きません).

 ですから,海岸近くで大きな揺れを感じたら,あるいは,津波警報が出たら,「どうしよっかな,この間も津波警報出たけど,大したことなかったからまあいっか」じゃなくて,即刻,高台に避難です.でも,現実には,避難率はとても低いのが現状です.

 東日本大震災では,多くの人が避難しましたし,避難しても想定を超える津波高さで尊い命を失われた方もいらっしゃいますが,亡くなられた方の多くは,(残念ながら)避難をしていただけなかった方々でした.

 どうしてそんなことになってるかについても,既に書きました.人間には,巨大な恐怖に本能的に目をつぶってしまう「正常化の偏見」という性質があり,これは,何事もない日常を気持ちよく暮らすプログラムでもあるのですが,極稀に起こる巨大リスクに対しては,大きくマイナスに働きます.つまり,そういう本能を乗り越える知能が必要なのです.

 そして,その知能が,津波警報などの防災システムなのですが,相手は地震という自然,地球が相手ですから,その精度はまだ充分ではありません.具体的には,1952年以降のデータを分析した結果,津波警報が出て実際に津波が来るのは8回に1回程度です(もっと具体的には,大津波警報が出て3m以上,津波警報が出て1m以上の津波が観測される確率は1/8ということです.ここでは,感覚的に10回に1回と書いてますが,きちんと調べたら8回に1回だったということです)

 津波警報が出ても実際に大きな津波が来ることはそんなにないと感じてらっしゃる方も多いと思いますが,8回に1回というのは,まさにそれを定量的に表しているということです.そして,このことが避難率が低いことに大きく影響していることは否定できません.実際,津波警報が出たのに実際には大きな津波は来なかったという「空振り」が繰り返されるうちに避難率が低下していったという事例もあります.

 でも,これが今の科学の限界なのです.一番避けなければならないのは,津波警報が出ずに津波が来ることですが,そうすると,どうしても,現状ではこういう結果になってしまいます.中には,ほとんど揺れを感じずに津波だけが発生する場合(津波地震)もありますが,そういうときも津波警報は出ますので,とても重要な情報なのです.

 問題は,そういう現状の中でどうしたらいいか,です.8回に1回じゃあ,避難しなくてもいいや,ってなりますか? いやいやいや,8回に1回は来るんだから,避難すべきですよね.じゃあ,残りの7回は,無駄足ですか?

 いやいやいや,これって立派な避難訓練ですよね.ですから,8回中7回を避難訓練だと思って,8回に1回という定量的な数字を正直に住民の方々に説明して理解してもらって,しっかり高台に避難しましょう,というのが私の考えというか提案です.実際に,津波警報が出るのは,年に何回もはないと思いますから,そんなに負担にはならないと思いますし,3/11に避難訓練やりますよー,というのとは違って,まさに実践的な避難訓練にもなると思うのです.

 そして,そういう実践を通して,いろいろ問題も出てくるでしょうし,例えば,普通の避難訓練なら,避難して,はい解散,でしょうが,実際の津波警報なら,警報が解除されるまでは,高台に留まる必要があるということを学ぶこともできるでしょう.そういったことを修正して行けば,8回中1回の本番の時に劇的に被害を減らせると思います.

 問題は,8回に1回という数字を気象庁や自治体が言うのは,立場上,やはり難しいということでしょうか(だから,私が悪者になって敢えてここで書いている).ですから,住民や現地の方々がそういうことをしっかり勉強していただいて,自主的にやるというのが「まずやるべきこと」なのかもしれません.いざとなったら,国や自治体が何とかしてくれる,ではなく,自分や家族の命は最終的には,自分達で守る,という意識は大事なことです.そして,それが広がっていけば,何かが変わるかもしれません.

 少なくとも言えるのは,津波警報が出たら津波が来ますから避難してください,といくら声高に叫んでも,実際は,8回に1回しか来ないのですから,このままでは避難なんかしていただけないでしょうし,そうすると,また,東日本大震災のような大惨事が繰り返されてしまうということです.

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11/24'15
避難計画

 東日本大震災の津波被害,あるいは,原発の再稼働を受けて,避難計画が議論されています.もちろん,必要なことですが,何か大事なことを忘れてませんか?

 大きな地震が起こったら津波が来るかもしれないから高台に避難,あるいは,原発事故が起こったらどうやって避難するか,の前に,家が倒壊して人が下敷きになってたらどうしますか? 避難できますか? 地震の揺れによって建物の大きな被害は生じてないのが前提になってませんか?

 何度も同じことを書きますが,東日本大震災で,建物の揺れによる被害がそれほどでもなくて,多くの人が避難できた,避難しようと思えばできたのは,「たまたま」です.1-2秒周期の揺れが来れば,多くの建物が倒壊して,多くの人が下敷きになり,そこに津波や放射線がやって来ることになります.

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9/6'15
スリットを入れるな!

 日本建築学会大会@東海大学(9/4〜6)の2日目の午後,RC構造設計の現状と課題−阪神・淡路大震災から20年の歩み というPDをききました(最初は,振動のPDの方にいたけど,プログラムを見て虫の知らせ?でなぜかこっちに来た).いろんな話がきけて面白かったのですが,一番気になったのは,二次壁の話です.2007年(だったかな)以降,二次壁をちゃんと計算に入れて設計すべしとなったというのは,進むべき方向に進んでると思ったのですが,それを受けて討論のところで,構造設計の人が二次壁を計算に入れるのは大変だから,スリット入れて,二次壁が効かないようにしてるというのは,とんでもないことだと思いました.

 RCというか,構造設計の人達がどのくらいちゃんと認識してるかはわからないのですが,1995年兵庫県南部地震で新耐震で設計されたRC建物で大破以上の大きな被害を受けたものが非常に少なかった,つまり,新耐震以降の設計規準の妥当性が示されたということなんですが,実は,二次壁の存在が大きく寄与しています.

 具体的には,10階以下の中低層RCについて,ベースシア係数(建物の強さ)を設計規準通りの0.3とか0.4といった二次壁を考慮に入れないフレームのみにして,1995年兵庫県南部地震の記録(JR鷹取とか大阪ガス葺合)を入れて地震応答解析をすると「吹っ飛び」ます.つまり,設計規準だけでは,1995年兵庫県南部地震の被害は説明できないのです.

 じゃあ,1995年兵庫県南部地震の被害を説明するベースシア係数はいくらかと逆算したのが,長戸・川瀬モデルで,低層RCの実際のベースシア係数は,設計規準の2〜3倍のベースシア係数をもってないといけないことになります.もちろん,RCなので相互作用というか,建物への実際の入力がどのくらいあったかというのもあるんですが,それだけではとても説明できません.

 私の研究室でも,実際の構造図面から二次壁や腰壁垂壁が付くことによる柱が負担できるせん断力の上昇を丹念に計算していって,実在するRC建物のベースシア係数分布を作った研究があるのですが,ほぼ長戸・川瀬モデルと一致しました.

熊本匠, 境有紀, 鉄筋コンクリート造建物の余剰耐力を考慮した実耐力分布の地震応答解析による検証, 日本地震工学会大会−2007梗概集, 264-265, 2007.11.
熊本匠, 境有紀, 鉄筋コンクリート造建物の非構造部材を考慮した実耐力分布, 日本建築学会大会学術講演梗概集,構造II, 311-312, 2007.8.

 つまり,スリットなんか入れて二次壁が効かないようにしたら,1995年兵庫県南部地震クラスの地震動で中低層RC建物は甚大な被害を受ける,非構造部材の被害を抑えるためにスリット入れて,肝心要の構造部材が被害を大きな受けて建物が倒壊でもしたら一体何やってんだ?ってことです.PDの中で東大の塩原先生が「そこだけ」見て全体を見ずに設計するととんでもないことが起こるとおっしゃってたんですが,まさにそういうことが起こってるわけです.まずいんじゃないですかねー.

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6/1'15
6/1放送の直撃LIVEグッディ!について

 大学の広報から連絡があり,研究室のホームページにある動画を使いたいということで,こういう申し出はものすごく多いので,クレジットを入れてもらってどうぞお使い下さい,ということにしているのですが,今日たまたま午後健康診断で部屋に帰ってきてテレビを付けたらちょうどやっていたので一応見てみました.ひどい内容でした.私の名前がクレジットで出てきたので,私が監修したと思われると非常に困るので,ここで書いておきます.

 おとといの地震を取り上げていて長周期地震動について説明しているのですが,地震動には,短周期地震動と長周期地震動があって,長周期地震動の例として東日本大震災をあげていましたが,全く間違っています.東日本大震災は(被災地では),短周期地震動です.短周期地震動の例としては,阪神・淡路大震災をあげていたのですが,少なくとも東日本大震災よりは阪神・淡路大震災の方が長周期です.周期の説明もめちゃくちゃでしたし,動画の使い方もとんちんかんでした.

 そして,極めつけは,免震の話です.超高層建物は長周期地震動で揺れるというところまでは問題ないですが,それは,超高層建物が耐震構造だからで,免震構造は,長周期地震動では揺れないという説明はほんとにひどいです.別の番組で,池上彰さんも同じことを言っていましたので,それをそのまま鵜呑みにしたのかもしれません.

 正しくは,長周期地震動で揺れるのは,超高層建物と免震建物です.つまり,超高層建物が揺れるのなら免震建物も揺れます.免震というのは,地震を「免」れるものではなく,積層ゴムを敷くなどして建物の周期を伸ばして,短周期の揺れを低減させるもので,長周期地震動に対しては,むしろ大きな変位が生じるものです.

 免震は絶対安全などと事実と異なる情報を流して,長周期地震動で免震建物が大きな被害を受けたら誰が責任とるのですか? 免震建物は,発生するほとんどの地震動,具体的には,長周期地震動以外の地震動に対しては,有効に働きます.でも決して万能なものではありません.

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1/17'15
この20年は何だったのか(阪神・淡路大震災から20年)

 阪神・淡路大震災から20年が経ちました.ここ数年,毎年,ここで阪神・淡路大震災から○年という記事を書いてきましたが,今年は20年ということで,あらためて感慨深いものがあります.きっかけは,建築防災から,当時のことやこの20年を振り返って欲しいという原稿依頼が来たことでした.そして,思ったのは,この20年は何だったのかということです.

 詳しくは,建築防災に書いたので,そちらを(見られる人は)見ていただければと思うのですが,要は,あらためてこの20年を振り返ったとき,地震工学や耐震工学は劇的に進歩したけど,街中の建物の耐震性は,20年前とほとんど変わっていない,ということです.つまり,あのときと同じ揺れが日本のどこかを襲えば,あのときと同じようなことがまた起こるのです.それが東京ならもっとひどいことになるかもしれません.一体この20年は何だったのかと思ってしまいます.

 もちろん,技術は進んでいますので,新しく建てられる建物には,その成果が反映されますが,地震で大きな被害を受けて人命を奪うのは,そういう建物ではなく,いわゆる既存不適格の古い建物で,そういう建物がまだ大量に放置されています本能的に行動すればそうなってしまいますし,多くは民間の建物なので自己責任ということになってしまうのかもしれませんが,それにしてもプライオリティの考え方がおかしくないですか.

 でも明日とまで行かなくても,数年後,大地震が来たらもう間に合いません.せめてそういう地震が来たときに迅速かつ的確な救助活動ができるように,と思うのですが,どこでどの程度の被害が生じているかを判断する震度も被害と対応しないままです.震度は体感を測っていて,被害とは必ずしも対応しないけど,東日本大震災のように大きめに出ることが多いということで問題ないと考える人もいますが,ほんとは安全ではないのに「安心情報」になっていて逆に被害を拡大させることになります.それどころか,1-2秒応答が大きい地震動が発生すれば,震度は5なのに震度6相当の被害が出てしまうといったことにもなりかねません.

 震度そのものを変えることは難しくても,被害を正確に推定できる情報を付加するなどの次善の策はないものでしょうか.例えば,日焼け止めのSPF50+++みたいに,震度6弱(木造全壊率1-8%),6強(木造全壊率8-30%),7(木造全壊率30%以上)の被害が出る場合をそれぞれ+,++,+++として震度情報に付加することで,震度6強だけど大きな被害はなさそうな場合は,単に震度6強,逆に,震度6弱だけど,震度6強相当の被害がある場合は,震度6弱++というような感じでしょうか.

 でもやっぱりちょっとわかりにくいですよね.日焼け止めですら,SPFと+++(PA値)の違いを認識してる人はごく僅かでしょう.でもやらないよりやった方がいいですし,被害が起こってから近視眼的に対応するのではなく,事前に対応して被害を未然に防いだり減らしたりするのが賢い人間だし,とるべき行動だと思います.

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10/3'14
結局,自己責任なのか

 御嶽山噴火ですが,10/3現在,47名が死亡,16名が行方不明という戦後最悪,即ち,あの普賢岳の火砕流よりひどい大惨事となってしまいました.ほんとなんとかならなかったのかと思ってしまいます.

 気象庁での会見で予知連の藤井先生は,水蒸気爆発は予測が非常に難しい,活火山に登る人はそういう危険が常にあるということをしっかり認識していて欲しいとおっしゃってました.そうだと思うのですが,これをきいた一般の人,特に遺族の方は,そんなことこの期に及んで言われても,とか,そんなこときいてないよと思ったかもしれません.

 でもおそらく(これは予想ですが),水蒸気爆発は予測が非常に難しい,活火山に登る人はそういう危険が常にあるという情報発信は,なされていたんだと思います.でもそういうことが国民の隅々まで行き渡ることはありませんでした.そして,とても残念なことですが,こういう形で大惨事が起こったときにやっと耳目を集めるわけです.でも,それではもう遅いのです.

 津波警報や震度も同じです.津波警報が出るということは,津波が来る可能性がありますよ,ということです.それを過去に何度か津波警報が出ても津波は来なかったという勝手な判断で避難しないで被害に遭ってしまうのは,自己責任と言われても仕方ないかもしれません.

 現在,津波警報が出たら何回に1回実際に津波が来るのか,そして,人は何回,津波警報が出ても津波が来ないという「空振り」を経験すると避難しなくなるかを,研究室の学生に分析してもらっていますが,結果が出次第情報発信をしたいと思っています.

 しかし,こういう情報発信も,私があらん限りの声を上げたとしても,全体からすると極々一部の人にしか伝わらないのでしょう.

 それは,震度も同じです.このサイトで再三書いているように,東日本大震災で非常に広い範囲で震度6以上を記録したにも関わらず,揺れによる被害が限定的なものであったのは,揺れの性質,即ち,短周期が卓越して,震度や加速度が大きくなるものの構造物に被害を及ぼす成分(1-2秒)が非常に少なかったからで,決して構造物の耐震性能が高かったからではありません.

 でも,世の中の認識の大半は,阪神・淡路大震災から20年近く経って,耐震工学の成果が出たというものです.そして,驚いたことに専門家の中にも勝ち誇ったようにそういう間違ったことを平気で言う人がいます.

 そういう状況で,自分の家は,東日本大震災で震度6強でも何ともなかったから,震度6強でも大丈夫と勝手に思ってしまってる人も非常に多いことは容易に想像できます.でも実際は違います.同じ震度6強でも阪神・淡路大震災のような1-2秒が卓越したキラーパルスがくればひとたまりもない家は全国にまだ1000万棟近くあります.

 私は,そういうことを,メディアも含めていろんな場で情報発信してきましたが,これも残念ながら極々一部の人にしか伝わってないんだと思います(でも少なくとも震度をつかさどる気象庁には伝わっています).そして,おそらく実際にそういう被害が起こったとき,お前の言う通りになったなと「評価」されるんでしょう.でもそれじゃ間に合わないのです.

 どうしようもないんでしょうか.でも私としては(行政官ではないので),これまで通り,とにかくできる範囲で情報発信を続けるしかありません.そして,それは届く人のところには届くが,届かない人のところには届かない.そして,届くか届かないかは,私の声の大きさもありますが,聴く人がどれだけ耳をすますか,即ち,ほんとはどうなんだということをしっかり調べたり勉強したりするのか,ということで,結局,自己責任ということになってしまうのでしょうか.

 被害に遭ってからきいてないよとか,日本の耐震工学はどうなってんだ?とか文句を言うことはできますが,失われた命は決して戻ってきません.

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9/28'14
御嶽山噴火−防災システムの安全率

 御嶽山噴火は大変なことになってしまいました.地震予知と違い,火山噴火予知はもう非常に高い精度でできるということだったはずなんですが...

 ここで思うのは,既に何度かこのサイトで書いている「防災システムの安全率」です.津波警報,緊急地震速報,震度情報などの防災システムには,津波警報が出ていないのに津波が来るということを避けるために安全率が入っています.でもそうすると,津波警報が発令されたのに津波が来ないという「空振り」が起こり,人々は「津波警報が出ても津波なんか来ない」というオオカミ少年のようなことになってしまって,却って避難率が落ちて,結果的に多くの尊い命が失われる,ということが起こってしまっています.

 火山噴火予知の場合はどうでしょうか? 火山の場合は,入山規制をしてしまうわけで,規制をして噴火しないという「空振り」が起こっても,その後,規制がかかって無理矢理入山する人は,津波警報が出て避難しない人より格段に少ないでしょうから,津波警報のような「空振り」による被害拡大の心配はあまりないように思います.

 今回も9/10頃に火山性地震が増えたというデータはあったそうなので,火山噴火予知には(他の防災システムとは逆に)もっと安全率を考えてもいいのかもしれません.

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3/11'14
あの日から3年

 あの日から3年が経ちました.と言っても,私はあの日のことを知りません.海外にいて,ただ呆然と見守るしかありませんでした.

 数日後に帰国し,原発から漏れる放射線,深刻なガソリン不足や食糧不足など日常生活に支障をきたす中,被害調査に出かけたりして,少し落ち着いたのは半年くらいしてからでしょうか.

 そして,3年が経ち,思うことは1年前2年前と変わりません.もちろん,復興は必要です.でも復興と対策は全く違います.

 津波で被害が出たから,まず津波対策,で大丈夫ですか? 首都直下地震で津波は来ますか? 津波や長周期地震動や天井の落下だけ考えていれば大丈夫ですか?

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1/17'14
1995年兵庫県南部地震から19年(あまりに近視眼的)

 毎年この日に思うことをこのコラムに書いてきました.そして,今強く感じるのは,1995年兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)から19年も経ったのに,耐震対策はまだまだ進んでいない,むしろ,2011年東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)で揺れによる被害が少なかったことで後退しているとすら感じます.このままでは,例えば,首都直下地震のような1995年兵庫県南部地震と同じタイプの直下地震が起こって,1-2秒が卓越したキラーパルスが発生すれば,ものすごい数の木造家屋や中低層建物が倒壊し,何万人という尊い命が失われるでしょう.

 東日本大震災では,大津波により甚大な被害が生じましたが,地震の揺れては,1-2秒が卓越したキラーパルスは発生せず,このコラムで何度も書いているように,東日本大震災による揺れの建物に大きな被害を与える成分はとてもとても「小さかった」,つまり,この地震に耐えたから建物の耐震性が充分とは全く言えないのです.

 人間は確かに忘れるものですが,その傾向は,大きな出来事があるとその前の大きな出来事を忘れることにおいて顕著のような気がします.津波で被害が出たから津波対策,天井が落ちたから天井対策というのでは,あまりに近視眼的だと思いませんか?

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11/18'13
津波対策としての救命胴衣

 東日本大震災による大津波から2年以上が経ち,津波やその対策に対していろんなことが言われてきました.そういう中で,私が思うのは,津波が地震の揺れと違うのは,津波に対して木造家屋を耐「震」的に作ることは,非常に困難なので避難するしかない,でも逆に言えば,地震の揺れのようにいきなり来るのではなく,避難する時間がある(正確には,ほとんど揺れずにいきなり来る津波地震もある)ので,避難すれば,建物は壊れても最も大事な人命は守られるということです.つまり,ハード面よりソフト面の対策が重要かつ有効ということなのですが,実際のところは,対策はほとんど進んでいないどころか,悲惨な被害への「準備」が着々と進んでいるという非常にまずい状況です.

 ハード面での対策として,例えば,何人か乗り込むことができて,津波が来ると浮いて瓦礫にぶつかっても大丈夫なシェルターのようなものも開発されて売り出されているようですが,非常に高価でとても普及するとは思えません.そこで,もし私がやむを得ない事情で,海岸近くに住まないといけないが,近くに避難する高台も津波避難ビルもなく,シェルターのようなものを買うお金もないという状況でどうするかを考えてみました.

 もちろん,揺れを感じたり,津波警報が出たら,即座に高台に避難,高台はなくても海岸から離れる方向に避難するのは当たり前ですが,即座に避難しても,震源が近くて間に合わないことあるでしょうから,そういうときのためにどうしておくか,ということです.

 私だったら,救命胴衣を準備しておきます.もちろん,大量の瓦礫に巻き込まれることもありますから,救命胴衣を着けていれば,大丈夫ということはありません.でも,少なくとも溺死する確率は確実に減らすことができます.人間は,たった5分息ができないだけで死んでしまうのです.

 実際,救命胴衣を考えた人は多いと思いますし,東日本大震災の後,地震防災関係者の間で,いろんな話をしたときもそういう話も出ましたし,普通に考えれば,救命胴衣が有効なことは明らかでしょう.でも,そういうことがテレビなどのメディアで報道されることはほとんどありません(インターネットでは少し議論されているようです).なぜでしょうか?

 それは,やはり「責任問題」になるからだと思います.救命胴衣を薦めて助からなかったら,薦めた人の責任が問われるでしょうし,テレビなど多くの人が見られるメディアで,そういうことを言ったら,無責任なことを言うなと騒ぎになるかもしれません(もちろん,もし津波のときに救命胴衣で助からなかったとしても,私も責任はとりません.でも,私自身は,救命胴衣を着けます).

 でも,そういうことが意味することは,要は,テレビなどのメディアでは,(責任問題になるので)ほんとのほんとのことは,報道されないということ,つまり,自分で自分の身を守るためには,そんな誰でも手に入る情報だけではだめで,もっとしっかり調べること,そして,究極的には,しっかり自分の頭で考えることでしょう.

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10/21'13
10回に1回の防災システムの問題(伊豆大島の斜面崩壊被害)

 伊豆大島の斜面崩壊被害では,50名近くの死者,行方不明者を出すという大惨事になってしまいました.大島は,前任地(東大地震研)にいたときに,何度も訪れたことがありますが,こんなことになってしまって,ほんとに残念で仕方ありません.

 当初は,真夜中突然の記録的な豪雨で,二次災害を考えて避難勧告を出せなかったのは,仕方なかったということでしたが,その後,実は,前日には,土砂災害警戒情報が出ていたなど,問題点が指摘されるようになってきました.過去に大島に土砂災害警戒情報は,7回出ており,いずれも土砂災害は起こらなかったので,今回も大丈夫と思ったということだそうです.つまり,まさにこのコラムで再三指摘してきた「10回に1回の防災システムの問題」が今回も起こってしまったことになります.

 10回に1回の防災システムの問題とは,例えば,津波警報が出ても実際に津波が来るのは,10回に1回,大きな震度を記録しても実際に大きな被害が出るのは,10回に1回だと,10回中9回で狼少年状態になってしまって,津波警報が出ても高台に避難せずに10回中1回津波が来たときに大きな被害が生じてしまう,大きな震度で被害を受けなかったからといって耐震補強を怠ると,10回中1回のキラーパルスで阪神・淡路大震災のような大きな被害が生じてしまうということです.

 対策としては,やはり,土砂災害警戒情報や津波警報や震度算定法の精度を上げることでしょう.でも,震度算定法の精度を上げることは可能ですが,土砂災害警戒情報や津波警報は,現状では,まだ難しいと思います.つまり,そういう状況で,何よりも大事な人の命をどうやったら守れるかということです.

 これもこのコラムで既に書きましたが,土砂災害警戒情報や津波警報は,まだ精度が高くはないが,10回中1回は,実際に土砂災害が起こる,津波が来ることを周知して,残りの9回を空振り前提でしっかり避難するしかないでしょう.つまり,今回のケースも,10回中9回は大丈夫だけど,10回中1回は,実際に被害が起こるかもしれないからと住民を説得して,事前に避難させておく必要があったということになります.津波警報や避難勧告が出た時,住民側も10回中9回は空振りになるけど,残りの1回に備えて避難するという意識をもつことです.

 これも既に書きましたが,避難して無駄足になったとしても,被害が起こらなかったのだから,それでいいじゃないですか.でも,避難せずに失われた命は,二度と戻ってきません.

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9/15'13
東京オリンピック招致について

 2020年に東京でオリンピックが行われることになりましたが,それまでに大地震が起こって大きな被害が生じる可能性がある中で,とても諸手を挙げて万歳というわけには行きません.最近,世の中の動きを見ていると,将来や次世代の人達のことを棚に上げて,目先の経済だけを優先しているような感じがします.そんなことでいいのでしょうか?

 このサイトで再三書いて来たように,日本は地震活動期に入っていて,これから7年の間に大地震が発生する可能性は大いにあります.首都直下地震が,オリンピック開催前に起こってオリンピックまでに復旧ができなければ,大変なことになります.

 そういう意味で,東京から離れたところに代替地を準備しておくという意見もあるでしょう.でも,どうでしょうか.東日本大震災のときのことを考えれば,わかりますが,日本のどこかで何万人という人が命を落としているときに,オリンピックなんかやってる場合じゃないでしょう.

 オリンピック関連施設を耐震的に造っておく,というのも同じ理由でそれだけではだめでしょう.いくら施設だけが残っても,東京の街が大きな被害を受けた状態でオリンピックなんかできるわけありません.

 ここまで来ると,どうすればいいかは明らかで,それは,東京の街自体を地震に強くしておくことです.建物で言えば,既存不適格建物の耐震補強ですね.でもこれが一向に進みません.現在の耐震化率は80%ですが,80%では,全然足りないというのは,既に書いた通りです.

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3/11'13
東日本大震災から2年

 あの日から2年が経ちました.いろいろ思うことがあるというよりは,思うことは,ただ1つと言ってもいいかもしれません.それは,一体何やってんだ?ということです.

 復興が進まないということもありますが,とにかく対策が進まない.対策が進まないというよりは,どんどんおかしな方向に行っている.こんなことでは,同じ過ちをまた繰り返しますし,もっと他に対策すべきことを忘れて,足元からひっくり返されることになってしまいます.

 津波であれだけの甚大の被害を受けたのだから,その対策をすることはもちろん必要です.でも,それだけで大丈夫ですか? 羮に懲りて膾を吹いてませんか? 津波ってそんなに怖いですか? もっと大事なことを忘れてませんか?

 結局,守ってるのは,被災者や国民ではなく自分達自身ということなのでしょう.何か事が起きれば,それに対処するという後手後手の対応しかできないのが今の社会のシステムです.でも,何度も同じことを書いていますが,ほんとの対策は,事前に手を打つことのはずです.

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1/17'13
阪神・淡路大震災から18年

 阪神・淡路大震災から18年が経ちました.もう18年も経ったのかと思うと,ちょっと信じられません.つい先日のことのように,歩道橋の上から見た三宮の惨状が目に浮かびます.

 一昨年,東日本大震災が起こり,阪神・淡路大震災も記憶を風化させることなく,語り継ぐことが大事,と報道されています.それはそうなのですが,語り継ぐだけではだめです.対策をしなければ,同じ惨状が繰り返されます.そして,阪神・淡路大震災も東日本大震災も充分な対策はされていません.

 東日本大震災については,揺れたら,津波警報が出たらとにかく高台へ避難,では,実際に津波が来るのは,10回に1回ですから,人々は,そのうち避難しなくなります.再三,ここで書いているように,10回に1回に備えて,残りの9回の無駄足を踏む,という意識,10回に1回という定量的で正しい情報を伝えることが不可欠でしょう.

 阪神・淡路大震災について言えば,やはり,既存不適格建物の耐震補強です.耐震化率80%という数字は,とても「低い」ことを認識すべきです.首都直下地震が起こり,これも10回に1回の確率で1-2秒の成分が卓越して20%の建物が全壊したら3万人以上の方が亡くなります.つまり,10回中9回のケースである東日本大震災で,揺れによる被害が少なかったからと安心してると津波と同じことになるのです.

 しかし,耐震補強は,なかなか進まないのが現状で,明日来るかもしれない大地震に対処するには,まずとにかく,地震直後にどこでどのくらい被害が生じているかを迅速かつ正確に把握するシステムの開発が急務でしょう.テレビで,阪神・淡路大震災が起こった前年に産まれた高校生が,地震防災に役立ちたいから消防士を目指していると言っていました.いいことだと思うのですが,地震が起こったとき,どこに救助に行ったらいいかわからないのでは,どうしようもありません.倒壊した建物の下敷きになった人は119番なんかできませんし,現地の自治体でも,どこに倒壊した建物があるのかしばらくわからない状況でした.

 下敷きになって生きられるのは,72時間がリミットと言われています.地震は夜中や荒天の日に起こるかもしれません.人工衛星やヘリコプターで広大な土地を上から俯瞰しても被害分布の正確な把握は,非常に難しいと思います.

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12/7'12
悲惨な被害への「準備」が始まった

 今日の夕方17:18に発生した三陸沖の地震で,宮城県に津波警報が発令されました.昨年,東日本大震災が起こったばかりですから,多くの方々が避難していただいたと思うのですが...結果的に,大きな被害はなかったようで,それはよかったのですが,これで,このコラムで再三書いている「10回中9回」の1回目,つまり,悲惨な被害への「準備」が始まったのかと思うと...

 何度も同じことを書いていますが,津波警報が出る→大きな津波は来ない を何度も繰り返していると,人々は,「津波警報が出ても津波なんか来ない」と思ってしまい,津波警報が出るたびに避難する人はどんどん減って行き,「10回目」で,ほんとに大津波がやってきて悲惨な被害となってしまいます.東日本大震災は,まさにそうでした(想定以上の津波高さだったから,ということだけではなく,多くの方々が避難していただけずに尊い命を落とされたことが調査でわかって来ています).

 いくら去年,東日本大震災があったからと言って,これから何年,何十年にも渡って辛抱強く,避難訓練だと思って10回中9回の無駄足を踏んでくださるでしょうか? 私は厳しいと思っています.もちろん,津波警報の精度を上げることが重要ですが,現状では,難しいでしょう.同じようなものに震度がありますが,こちらは,もっと精度よく被害を推定する算定方法があります.

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11/13'12
悲惨な被害が繰り返される理由

 私が無力感を感じる,なんてことはどうでもいいことです.そんなことより大事なのは,悲惨な被害を繰り返さないことです.でも,東日本大震災以降いろんなところで話したり仕事をしたりして来ましたが,なるほど,こうやって悲惨な被害は繰り返されるのだな,と思うことの連続でした.

 例えば,ある自治体での委員会で,被害想定をするのですが,想定が出てしまうとハザードマップではなく,それ以上の津波は来ないという「安全」マップになってしまう,つまり,逃げてくれない,残念ながら東日本大震災でも亡くなった人のうち多くの方々が避難をせず,尊い命を失ってしまった,そして,そうなる理由も述べました.

 そうしたところ,突然声を荒らげて,「逃げてますよ,逃げたのに亡くなった人もいるんです,私の親戚や知り合いでも亡くなった人がいるんですよ」とおっしゃる方がいました.でも実際のところは,逃げていない人の方が圧倒的に多いのですが,被災者の方や身内を亡くしてしまった人にとっては,そんなことは関係ないですし,そういう人を目の前にすると,返す言葉がありません.

 これ以外にも,講演に呼ばれたとき,聴衆の中に親族を亡くした方がいるので,表現に気をつけて下さいと講演前に釘をさされたこともありました.NHKのサイエンスZEROに出たときも,とにかく被災者の方の心情に気をつけて話して下さいと言われましたし,そういう風に話しました.

 よくわかります.肉親や知り合いを亡くされた方々は,ほんとに辛い思いをしたと思いますし,被害を受けた役場を残すかどうかということが議論になったとき,見ているだけで辛いから取り壊してくれ,と言われたら,返す言葉がないでしょう.辛く嫌な思い出は,みんな忘れたいのです.

 でも,これがまさに悲惨な被害が繰り返される理由だと思います.ですから,少なくとも私のような立場の人間は,どんなに嫌われ者になっても,どんなに辛くても(もちろん,表現に気をつけながらも)「ほんとのこと」を言っていかないといけないんだと思います.

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11/12'12
既にもうそうなってる

 昨年の東日本大震災で大津波が発生して多くの尊い命が奪われ,そういうことが起こるとこのコラムで再三警告したにもかかわらずそうなってしまって無力感を感じていると書きました.今回は,私は津波関係者ではなかったが,もし,私の専門分野である震度算定法で同じようなことが起こったら,精神的に耐えられないかもしれないとも書きました.でも...

 既にもうそうなってるんだと思います.何度も書いているように,東日本大震災では,震度は大きくなるが建物の倒壊は生じない短周期地震動が発生したため,震度6弱や6強でもほとんど建物の倒壊は生じず,世の中のほとんどの人は,自分の家や建物は,震度6弱や6強でも大丈夫と思い込んでいます.でも,そんな状況で,阪神・淡路大震災のような1-2秒が卓越した地震動が発生すれば,ひとたまりもありません.

 そのような地震動が発生するのは,10回に1回ですが,首都直下地震は,直下のM7クラスという点で阪神・淡路大震災に似ていますし,実際,過去に1-2秒が発生した地震は全て直下地震です.東海・東南海・南海は,東北地方太平洋沖地震と同じ海の地震ですが,同じ海の地震だから1-2秒が発生しないという保証は全くありませんし,東海地震は,震源域が陸地にかかっているので,性格的に直下地震に近いと思います.

 現状で私ができることはしてきたと思います.一時期,震度算定法を変えようと頑張ったこともありましたが叶わず,精神的にも疲弊して,現状では,震度が同じでも揺れの周期成分,具体的には,1-2秒がどれだけ含まれているかで,被害の大きさは全然違う,東日本大震災では,短周期が卓越して1-2秒が非常に少なかったから震度6強でもこのくらいの被害で済んだが,同じ震度6強でも1-2秒が出たらとてもこんなものじゃ済まない,今回震度6強で大丈夫だったからと言って,耐震補強などの対策を絶対に怠ってはならない,という説明をメディアや新聞や様々な講演でしてきました.

 でも,多分,世の中のほとんど人には,伝わってないんだと思います.そもそもこんな説明をしなければならないこと自体まどろっこしい,震度算定法を震度6弱以上では被害と対応するようにするのが一番手っ取り早いと思いませんか? 震度はこのままで被害と対応した指標を作ったらいいという人もいるのですが,一般の人からしたらまさにダブルスタンダードでこれもわかりにくいことになるでしょう.

 悲しいかな,世の中の動きを見ていると,実際に被害が生じてからしか動かないのが現状です.でも,実際に被害が生じてからじゃあ遅いですよね(とずっと書いて来ました).ほんとに賢い人間なら被害が生じる前にしっかり対策をして被害を未然に防ぐのではないでしょうか.東日本大震災の大津波は,人智の想定を越えていたのかもしれませんが,震度算定法に関しては,被害と対応させる方法が既にもう10年前から提案されています.

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3/11'12
津波は怖くない

 あの日から1年が経ちました.当日,私は,海外にいましたが,あの日からあまりにいろいろなことがあったので,もう1年経ってしまった,あるいは,まだ1年しか経っていないのかわかりません.今日は,追悼式典も行われていますし,ほとんどのメディアで,復興が進まない様子や当時のことを振り返ったり,何が問題だったのかなどを1日中流しています.そういう中で,私が批判を承知で敢えて言いたいのは,「津波は怖くない」ということです.

 今回,津波でこれだけの犠牲者が出てしまったことについて,津波警報の発表方法だとか,想定を越える高さだったとか言われていますが,もちろん,そういうこともあるでしょうが,もっとも大きな原因は,(まだ1年しか経っていないのにこういうことを書くのは被災者の感情を逆撫ですると言われるかもしれませんが,ほとんどの人はほんとのことを言わないし,大事なのは今後なので,敢えて言いますが)多くの人が避難しなかったからです.そして,そうなってしまうのには,理由があることは,既に書きました

 しかし,この点に関しては,まだ全く対策がとられていません.具体的には,津波警報が安全側に設定されていて,警報が出ても10回に1回しか津波が来ないこと,しかし,10回に1回は,必ず来るので,残りの9回の避難を怠ってはいけないことをしっかり伝えることでしょう.人間には,「避難しない本能」があるのですから,やはり「仕組み」が必要です.

 そして,ほとんど場合,津波は,地震が起きてから来るまでにかなり時間があるので(少なくとも今回の場合は30分はあった.しかし,震源域が近い東海地震は10分くらいしかないと言われているし,1993年北海道南西部地震の奥尻島のように数分しかない場合もある),ちゃんと避難さえすれば,命をとりとめることはできるのです.津波が来るかもしれないことは,津波警報などなくても,地震の揺れが教えてくれます(中にはほとんど揺れないで津波だけがくる「津波地震」というものもあります.そのために津波警報があるようなものです).それが「津波は怖くない」という理由です.

 対照的に,地震の揺れは,突然やってきます.海岸から遠く離れていれば,つまり,海に囲まれた日本でもそのほとんどのエリアで津波は来ませんが,地震の揺れはいつどこで起こってもおかしくありません.そして,建物が倒壊して命を落とす場合,その80%が即死です.つまり,ほんとに怖いのは,揺れによる被害なのです.

 もちろん,ちゃんと避難しても津波が来れば,家や施設などは,流されてしまいます.でも,命さえ確保できれば,「もの」は,再建できます.でも,一度失われた命は決して返ってきません.

 いや,今回ほどの災害だと自力ではとても無理だと言うのなら,みんなで支えていきましょう.例えば,日本全国,海岸から*kmの全てのエリアは,津波の危険性があるのですから,津波保険[というものを作ってそれ]に入る,あるいは,それを義務づけるというような仕組みも必要でしょう.そういう意味では,今回,津波被害を受けた地域で高台移転や元の場所での再建が議論されていますが,それ以外の海岸エリアでも,全く同レベルでそういうことを進めて行くべきです.「まだ」被害は受けていないというだけで,事情は,被災地と全く同じなのです.

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3/11'12
誰を守ってる?

 東日本大震災で,津波による犠牲者の数を拡大させてしまった理由として,津波警報が安全側に設定されていて,警報が出たにも関わらず,津波は来ない,あるいは,地震で激しく揺れたにも関わらず津波は来ない,ということを繰り返して来ていて,狼少年のようになってしまったということがあるということを何度も書いてきました.後者は,これも何度も書いたように,そういうものだという防災教育が必要ということに尽きると思うのですが,前者については,防災システムのあり方に問題があると思っています.

 津波警報に関わらず,震度算定法や緊急地震速報など全ての防災システムには,安全率がかかっています.これは,工学でよく用いられる考え方で,例えば,建物を設計するのに安全率を見込んで少し強めにするというのは,よくわかりますし,問題ありません.でも,防災システムにそれを適用するのは,とても危険です.理由は,上述したように,相手が人間であって,建物のような「もの」ではないからです.では,どうして,そんなことになってるのでしょうか?

 それは,津波警報が出ていないのに津波が来た,あるいは,震度5なのに建物に大きな被害が出た,緊急地震速報が出ていないのに大きな地震が来た,ということを避けるためです.こう書くともっともなように思えますが,よく考えてみると,そのようなことが起こると,責任問題になるでしょうから,そういうことを避けていると見ることもできます.つまり,守っているのは,国民ではなく,自分達ということです.

 ほんとに国民を守ろうとするのなら,津波警報や震度算定法などの防災システムがまだ充分な精度がないこと,例えば,津波警報が出ても10回に1回しか津波が来ないが,1回は必ず来るし,それがいつなのかはわからないので,残り9回も避難訓練だと思ってしっかり避難することを周知する,つまり,これも防災教育の問題ということになります.

 もし,国が国民を守ってくれないのなら,自分や家族の命は自分達で守るしかありません.つまり,こういうことをしっかり勉強することです.

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2/20'12
追記: 共振???

 と書いたのですがこのときと同じことかもしれません.つまり,このページや学会や論文やいろんなところでの講演や原稿を書いたり,メディアで情報発信しても,まだまだわかっていない人がほとんどということでしょう.つまり,これからも頑張って,地道にコツコツと情報発信して行くしかないですね.

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2/13'12
共振???

 いつもは,この時間は,大学に戻っているのですが,先週,卒論発表が終わって一息ついてたまたま家にいて,NHKのクローズアップ現代で「建物に潜む未知の揺れ〜“地盤との共振”の脅威〜」をやるというので,どうも気になって観てみました.

 内容は,地盤の周期と建物の周期が一致すると共振が起こるという,「建物に潜む未知」でも何でもない当たり前の話のように見えるのですが,長周期地震動による超高層建物の共振の話はともかく,東北大の建設系建物の被害をこれで説明しているのは,大きな誤りであることを指摘しておく必要あると思い,(よく知る先生も出ておられたので気が重いのですが)筆をとっています.

 建物が被害を受けると周期が伸びるのは,建築構造の世界では常識です.1〜2秒の地震の揺れで木造,中低層建物といった日本のほとんどの建物が大きな被害を受けるのは,これらの建物の周期(0.2〜0.5秒程度)が伸びるからです(詳しくは,ここの12〜19ページ).つまり,1秒の周期の建物に1秒の周期の地震の揺れが来ても建物は,共振しませんし,壊れもしません

 翻って,長周期地震動に対する超高層建物についても同じことが言えます.超高層建物が共振を起こして大きく揺れるのは,その建物が大して損傷を受けていないからと言えます.もし,かなりの被害を受けて周期が伸びれば,周期がずれるので,そこで共振は収まります.つまり,長周期地震動で危惧される被害というのは,「その程度」の被害ということです.

 むしろ,周期0.2〜0.5秒の木造,中低層建物に対して,1〜2秒の波が怖いように,地盤の周期と建物の周期がぴったり一致するのではなく,地盤の周期がやや長い方が大きな損傷に繋がる可能性があります.長周期地震動に対して,これに該当する建物は,現代技術の粋を集めた超高層建物よりやや低い,やや高層程度の建物で,これらの高さの鉄骨造建物には,減衰が小さいものも多いので心配です.

 いずれにしても,ほんとに怖いのは,長周期地震動などではなく,世の中のほとんどの建物を根こそぎなぎ倒す1〜2秒の波(俗に言うキラーパルス)です.

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1/17'12
阪神・淡路大震災から17年

 阪神・淡路大震災から17年が経ちました.今年は,昨年,東日本大震災が起こったこともあり,これまでと違った捉えられ方をしている人もいるようです.

 よく言われているのは,阪神・淡路大震災から16年が経って,耐震補強などの対策が進んだおかげで,東日本大震災における揺れの被害は,劇的に減ったということです.でも,これは,全く違います.

 耐震補強などの対策が進んだのは,確かにその通りですが,「そのおかげで」揺れの被害が劇的に減ったのではなく,揺れが「弱かった」ということです.地震の揺れの建物に被害を与える成分を見ると,東日本大震災は,阪神・淡路大震災の1/4程度しかありません.

 つまり,東日本大震災の揺れは,耐震補強してない建物ですら大丈夫なほど小さいものだった,揺れに対する建物の耐震補強効果を見ることができないほど小さいものだったということです.ですから,現状でもう大丈夫なんてことは,絶対に言えません.

 日本の建物の耐震化率は,80%弱です.一見高いように見えますが,20%強は,規準を満たしていないということです.首都直下地震が来て,20%の建物が全壊したらどうなりますか?

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11/9'11
やばい雰囲気

 2011年東北地方太平洋沖地震,いわゆる,東日本大震災から8ヶ月が経とうとしています.その間,メディアや様々な講演会,学会などで,地震の揺れによる被害について,「ほんとはどうだったのか」「どうしてそうだったのか」について,話してきました.平たく言えば,地震の揺れによる被害は,非常に小さかった,そして,それは,揺れが「弱かった」からであって,建物の耐震性が高かったからではないということです.

 専門家,一般の人,メディアなど様々人達とも話をしてきました.そういう中で感じたのは,「揺れによる被害が小さかったのは,耐震対策が進んできたから」と言う人がとても多いことです.私は今大学で就職委員をしていて,某大手メーカーの人が挨拶に来られたときに,「工場が一時稼働停止するほどの被害が出たんですが,今回ほどの大きな地震でこのくらいで済んだんですから,対策としてはもう充分ってことですよね」とおっしゃっていました.それに対して,私は,それは全然違うということを申し上げましたし,そういうことを機会あるごとに話してきましたが,話す相手が(いくらメディアを通しても)限定的になってしまうのは,どうしようもありません.

 一般の人ならまだしも,専門家の人の中にもそういうことを言う人がいます.まさか,自分達がやってきたことの成果が現れたと我田引水的に言ってるなんてことはないと信じたいですが,専門家がそういうことを言うと,一般の人はそれを信じるので,社会的(悪)影響は,大きいです.

 繰り返しになりますが,今回の地震の揺れによる被害が非常に小さかったことのは,揺れが「弱かった」からであって,建物の耐震性が高かったからではありません.いや,建物の耐震性は,確実に向上している,という人もいるでしょう.それは,そうだと思います.でも,それが今回,揺れによる被害が小さかった(主たる)原因ではないということです.揺れが「弱」ければ,建物が強かろうが弱かろうが被害は出ません.つまり,今回の地震の揺れは,建物が弱くても被害が出ないほど「弱かった」ということです.地震動の被害を与える成分を見ると,最大震度7を記録したK-NET築館ですら,1995年兵庫県南部地震の1/4程度しかありません.そんな「弱い」地震に耐えたからと言って,耐震性が充分だったとは絶対に言えませんし,ましてや,それを理由に耐震対策を怠ることがあってはなりません.

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6/9'11
安心情報?

 津波警報とも関係するのですが,警報が逆に「安心情報」になってしまってる気がします.もし,津波警報が出なかったら,どうでしょうか? 情報がないので,海岸近くにいて強い揺れを感じたら,とにかく着の身着のままで高台に避難するしかないですよね.津波警報が出るから逆に安心してる,強い揺れを感じても高台に避難しないでまずテレビを付けて警報が出てるか確認して逃げ遅れる,津波高さが3mとか出るから逆に安心してしまう,津波警報が出ても津波が来ないことが多いから避難しない,なんていう逆効果になってる側面も否定できません.ハザードマップも確かに必要なものですが,逆に「安全」マップになってしまっている面は否定できません.

 でも,海岸近くにいて強い揺れを感じたら,とにかく着の身着のままで高台に避難という知識なしに津波警報もなかったら,2004年のスマトラ島沖の大津波のようにもっと大惨事になってしまいます.つまり,重要なのは,防災教育,地震や津波や津波警報に対する正しい知識です.

 今回の大地震では,もちろん,ちゃんとすぐに高台に避難した人も多いし,避難しても津波が想定以上の高さで亡くなられた方もいらっしゃいます.でも,これだけの巨大地震で,津波が到達するまでに30分もの時間があったにも関わらず,避難を怠って(と敢えて言わせていただきます.理由は後述)命を落とした人はとても多いでしょう.今回の地震で避難して助かった人の中でさえすぐには逃げなかった人が38%もいるというデータがあるということは,助からなかった人ですぐに逃げなかった人はこれより遙かに多いことは容易に想像できます.

 亡くなられた方は,ほんとに気の毒なのですが,こんな悲惨な被害を二度と繰り返さない,彼らの死を無駄にしないためにするべきことは,同じ過ちを繰り返さない,即ち,海岸近くにいて強い揺れを感じたら,とにかく着の身着のままで高台に避難です.今回の大津波は確かに想定以上の高さでしたが,地震発生直後にみんな高台に避難していたら,こんな死者数・行方不明者数にはならなかったはずです.

 でも今の悲惨な状況では,誰も本当のことは言えない雰囲気です.でも防災関係者ならみんなわかってる.まだ3ヶ月しか経ってないのに,こんなこと言うのは,時期尚早かもしれません.でも,ひょっとしたら明日また大地震が起こって大津波が来るかもしれない.2011年東北地方太平洋沖地震は,1000年に1回の地震と言われていますが,これは,これだけの大地震,大津波があと1000年来ないということではありません.本震がM9ですからM8クラスの余震だってありえますし,茨城県沖が割れ残ってるという人もいますし,東海・東南海・南海連動地震(日向灘まで連動する可能性があるという人もいます)だって発生の可能性があります.つまり,これで終わりでこれから復興すればいいのではなく,大地震が襲ってくるのは,まだまだこれからなのです.

 確かにまだ大災害から3ヶ月しか経っていなくて,被災地の状況は悲惨なままで,大地震が起これば,みんないっせいに避難するだろ,と言う人もいるかもしれません.でも,やっぱり,それでも現状では,まだとりあえずテレビを付けて津波警報を確認する人が多いと思います.そんな時間はありませんよ! 揺れて数分で津波が来ることもあります海岸近くにいて強い揺れを感じたら,津波警報なんか確認してないで,とにかく着の身着のままで高台に避難です.

 もちろん,津波警報もハザードマップも必要なものです.でも,その目的は,あくまで防災,減災なわけですから,そこまで考えて,防災する必要があるでしょう.つまり,繰り返しになりますが,重要なのは,防災教育,地震や津波や津波警報に対する正しい知識です.確かに自分の身を守るのは,自分自身ですが,最低限の教育は,国が責任をもってやる必要があるのは言うまでもありません.

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6/9'11
津波警報ありき?

 今回の大津波被害を受けて,津波警報のあり方が検討されているそうです.津波警報が伝わらなかったとか,津波高さの情報の出し方が問題だったとか,いろんな意見が出ているようですが,そもそも津波警報ありきなのでしょうか?

 このコラムでも再三書いているように,海岸近くにいて強い揺れを感じたら,とにかく着の身着のままで高台に避難です.今回は,たまたま震源が遠くて津波が来るまで30分かかりましたが,1993年北海道南西沖地震の奥尻島のように震源が近ければ津波はたった数分で到達します.津波警報が出てるかどうかなんて確認してる時間はないですよ!

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5/29'11
安全側なら大丈夫?

 先日,生命環境の八木先生が部屋に来られていろいろ話をしたときに思ったのですが,私がここで書いたようなことを話したら,彼が安全側だとそうなっちゃいますよねー,ということを言われました.彼は,いわゆる理学系の人なので,工学系とは発想がかなり違っていて面白いと思ったのですが,これもそうです.

 工学系の人達は,とにかくまずものを造ることが必要,そのためには,よくわからなくても造らなければならない,そうなるとどうなるかというと,いわゆる安全率をかけます.これは,安全側ならいいだろうという発想です.震度算定法にしても,津波警報にしても,緊急地震速報にしても,放射能の人体に与える影響についてもそういう形で運用されています.

 安全側だからいいじゃないかという意見もあるでしょうが,津波警報が出ても10回に1回しか津波が来ないんじゃどうしても狼少年になってしまいます.震度も緊急地震速報も同じです.ですから,精度を上げて訳のわからない安全率を小さくすることは必要ですし,とにかく安全側なら大丈夫という考えでは,逆に被害を拡大してしまうことがある,ということは,今回の大災害の教訓の1つだと思います.

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4/25'11
災害のダメージ

 今回の大災害であらためて思ったことがあります.それは,災害のダメージは大きいということです.何を当たり前のことを...ということでしょうが,当たり前という以上のダメージでした.

 実際に生じた被害は言うまでもありません.大津波による何万人という死者,行方不明者,押し流された建物や施設.地震動による構造物被害は,短周期地震動だったためさほどではありませんでしたが,非常に広範囲で非構造部材の被害や室内被害が生じ,人々の社会生活,企業の経済活動に大きな影響を与えました.遠く離れた東京でも電車が止まって夥しい帰宅困難者が生じ,地盤の液状化による被害も生じました.更に,原発が津波による被害を受け,放射線漏れという2次災害まで起こってしまいました.電気ガス水道というライフラインも被害を受けたのですが,原発を失うことによる電力不足は,社会生活に計画停電という深刻なダメージを与えることになりました.

 ただ,ここまでは,実際に生じた被害のダメージです.私があらためて災害のダメージは大きいと思ったのは,それが人の心に与えた影響です.実際に被災した人は言うまでもありませんが,そうでなくても,今回の大津波災害の悲惨な状況を見て,心にダメージを受けた人はとても多いという印象をもっています.私もその一人ですが,正直,ここまでとは思ってませんでした.

 これは,どういう形になって現れるかと言うと,みんな元気がなくなって,活動しなくなります.いろんな行事が中止になり,様々なものが自粛され,出かけなくなり,観光地は閑散とする.当然,消費は低迷し,経済はしぼんで行きます.

 私は,もうここまで来たら,しゃかりきになって経済成長しなくてもいいと書きました.でも,それは,元気がなくなって活動しなくなってもいい,ということではありません.活動するのに「お金を使う」必要はないということです.でも今の状況は,みんな心にダメージを受けて,いろんな活動そのものが低迷していて,非常にまずい状態です.もちろん,これではいけないとみんな頑張ってると思うのですが,どこか震災で受けたダメージを引きずってると思います.

 じゃあ,どうすればいいでしょうか? もちろん,頑張るしかないのでしょうが,あまり無理をしないことも重要です.そして,忘れてはならないのは,「これで終わり」ではない,ということです.大地震は,必ずまた起こります.30年以内に何%という確率の問題ではありません.必ず(100%)です.いつ起こるかという時間の問題なのです.明日かもしれません.つまり,ここから復興,回復するだけでは不充分で,次に来る大災害に備える必要があるということです.なかなかしんどいことだと思いますが,もうこんな思いはしたくありませんよね.だったら,しっかり備えるしかありません.

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4/16'11
進化しないもの

 今朝,爪を切りながら思ったんですけど,爪切りってほとんど進化してませんよね.少なくとも50年くらいはほとんど変わってない.もちろん,詳しく調べれば,いろいろ工夫したものはあるとは思うのですが,多分そんなに変わらないし,少なくともそういうものを使っている人はごく少数でしょう.

 でも,別に特に不便はない.もし,全自動でだだだだーって,爪を切ってくれる機械があったら便利ですか? そんな機械を開発するのは超難しいし,できてもペイしないでしょうし,そもそも,そんなものなくても別に構いませんよね.そして,既に多くのものがそうなんだと思います.

 世の中を便利にすること,これ以上経済成長することは,もう別にいいんじゃないかと(個人のページで)再三書いて来ました.そんなことより,今の生活をしっかり守ることが大事とも書きました.そして,今回の大災害が起こり,ようやくそういう機運が出てきたような気がします.災い転じて福となすではないですが,そういう方向に行くでしょうか? でも,こういう大災害が起こらないと,そういうことに気づかないのは,賢くないし,何より悲しいことだと思います.

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4/12'11
研究者がやるべきこと

 10回中9回の「無駄足をしっかり踏めるか」が重要と書きました.つまり,津波警報が出て津波が来ないことが多いとしても,10回中1回でも来る可能性があるのなら,90%の無駄足をしっかり踏むべきということです.それは,確かにそうなのですが,現実問題としては,なかなか難しいかもしれません.

 例えば,津波が来るから海の近くではなく,高台に住むようにと言う人もいますが,漁業を営む人にとって,100年あるいは1000年に1回来る,つまり,自分の一生のうち来ないであろう津波に対して,普段の生活を著しく犠牲にすることは,あまりに非効率です.実際,過去の事例を見ても,津波の被害を受けて一度は高台に住んだとしても,20年30年すると下に降りてきてしまって,また津波被害に遭うということを繰り返しています.

 あるいは,最近,地震が短い時間間隔や近い震源位置で頻発するようになり,緊急地震速報の精度が落ちていて,速報が出ても地震が来ないことが多くなっています.速報が出ても地震は来ないと思ってしまうのは,とても危険なことなのですが,やはり,どうしてもそうなってしまいます.

 ですから,先日の,NHKのサイエンスZEROの収録の時,東大地震研の古村先生とも話したのですが,やはり,津波警報の精度を上げることが必要かつ急務なのだと思います.津波警報が出たら必ず津波が来るのなら逃げない人はいないでしょう.具体的には,今の震源位置とマグニチュードの大きさから計算する方法ではなく,直接沖合で津波を測るという方法も考えられますし,計画もあるようです.

 震度についても同様で,今回の地震で揺れによる構造物被害が小さかったのは,発生した地震動が短周期だったからで,建物の耐震性が高かったからではなく,同じ震度6強でも1-2秒が卓越していたら大きな被害になってしまうといくら説明しても,発生する地震動の90%は短周期ですから,どうしても震度6強でも大丈夫と思ってしまうのが人間でしょう.そして,狼少年になり,耐震対策が遅れ,1995年兵庫県南部地震のような10回に1回の1-2秒が卓越した地震動によって甚大な被害が発生してしまう.ですから,震度を少なくとも構造物被害が出るような震度6〜7でちゃんと被害と対応させることが必要だと思うのです.

 こうして,考えてみると,津波警報にしても,緊急地震速報にしても,震度算定法にしても,その精度を上げることが地震災害軽減に繋がるし,それこそが研究者がやるべきことでしょう.ですから,私は,震度の精度を上げるべく研究をしているわけです.そして,それを採用するのかしないのか判断するのは,私ではありません.私はあくまで,地震発生直後にどこでどのくらいの被害が生じているかを迅速かつ正確に推定する方法を探究していくだけです.

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4/1'11
早くも心配していたことが現実に

 今回の東北地方太平洋沖地震で,構造物被害が少なそうということで,マグニチュード9.0,最大震度7にも関わらず,震動による構造物被害が少なくなったからと言って,それは,建物の耐震性が高いからではない,と書いたのですが,今日届いた日本地震工学会ニュースの巻頭言を見て唖然としました(私は理事なので,事前に内容を見ることができるのですが,この巻頭言だけはいきなり発送されます).何とそこに「今回の地震では、阪神大震災と比較すると構造物の被害 は少ないように見え、ある意味、地震被害軽減に取り組んできた研究者の成果が表れた形ですが、」と書いてありました.もうびっくりです.

 私が心配していたのは,一般の人がそういう認識違いをしてしまうことでしたが,なんと,この分野に身を置く人の中にそう思ってしまう人がいるのに,正直がっかりしています.まさか,自分達の手柄というか都合のいいようにそういうことにする,などということはないですよね.

 いずれにしても,これでは,1995年兵庫県南部地震の二の舞です.思えば,1993年釧路沖地震で気象台で0.9g,震度6という大きな地震動であったにも関わらず,構造物被害がほとんどなかったことで,もう日本の建物は大丈夫という雰囲気が蔓延しました.このときも,今回と同じ短周期地震動だったに過ぎず,日本の建物は大丈夫というわけではないことは明らかだったのですが,所詮駆け出しの若造だった私が何を言ってもきいてもらえませんでした.

 今回の東北地方太平洋沖地震の地震動の性質については,いろんなところで言ってますし,そもそも,地震動の周期と被害の関係については,もう10年以上同じことを言い続けていて,大分認知されるようになってきたと思っていたのですが,まだまだ私の努力が足りないということでしょうか.何だか虚しくなってきました.

 と,書いたのですが,そんなもんかもしれない気もしてきました.昔から思ってるんですが,建築構造の人達の中に,耐「震」設計をしているのに,地「震」とか地「震」動のことがほんとわかってない人が結構いるんですよ.というか,興味がないんだと思います.

 でも,構造設計って何のためにするものですか? 自重に耐えるためですか? 少なくとも日本の建物なら,ほとんど場合,地震に耐えるためですよね.Ai分布で決まる静的荷重に耐えられればそれでOKですか? あまりに盲目的で近視眼的では? もっとちゃんと勉強してください.

 とも書いたのですが,私が言ってることって,最新の(と言っても10年経つが)最先端の研究成果で,そこまでフォローするのは,無理という声も聞こえてきそうな気もしてきました.でも,そうなんですかね? 等価周期や等価線形の概念は,非線形の振動論でやりますし,私が言ってることの背景自体は,ごくごく当たり前の初歩的なものだと思うんですが,違うんですかね? 私がそう思ってるだけ?

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3/22'11
どうして建物には「車検」がない?

 以前から不思議に思っていることですが,どうして建物には「車検」がないのでしょうか? ガソリンがなく足がないとこれだけみんな困っている状況で,未だに車は贅沢品という位置づけですか?

 (故障した)車は凶器で人の命を奪うからですか? 耐震性が低い建物だって地震で倒壊すれば人の命を奪います.今は,1000万棟近くの故障車(既存不適格建物)が公道を走っている状態です.いやそれは,住んでる人の自業自得だからそれでいいのですか? それなら,今回の2011年東北地方太平洋沖地震の大津波で亡くなった人達の多くは,津波警報が出ていたにも関わらず避難しなかった人達だから自業自得だなんて言うことができますか?

 もっと,国や政府がリーダシップを発揮すべきではないですか? 自主性やインセンティブでは,建物の耐震化は絶対に進みません.車検のような法的枠組みが必要です.

 首都直下地震も南海トラフの地震も必ずやってきます.必ずです.何をやるべきか,プライオリティをちゃんと考えた方がいいのではないでしょうか? 今回亡くなった何万人という人の死を絶対に無駄にしてはいけません.

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3/21'11
想定外?

 今回の2011年東北地方太平洋沖地震では,甚大な津波被害が生じてしまいました.そのことに対して,今回発生した津波は,想定外の高さだったと多くの津波の専門家が述べています.実際,高台に避難したにも関わらず,そこまで大津波が到達して命を落とした人も大勢いたそうです.でも「想定外」という言葉は,一般の人から見れば,言い訳がましく聞こえるでしょうし,想定外のことまで考えて準備しておくべきだったのではないか?との意見もあると思います.でも...

 何かを想定しなければ,何もすることができません.そして,その想定をどこに置くかは非常に難しい問題です.例えば,今回のマグニチュード9.0という1000年に1回の超巨大地震,大津波を想定せよ,ということなら,それこそ,海の近くには住むな,ということになるでしょう.1891年濃尾地震のように,直下でマグニチュード8.0という,もし都市部で起こったらと想像するだけで身の毛もよだつような巨大直下地震を想定せよ,ということなら,莫大な費用をかけて窓もなにもない要塞のような建物にしなければなりません.

 そして,それを決めるのは,専門家や国ではなく,そこに住む人自身です.国の規準は「最低ライン」を示したものに過ぎません.1000年に1回の地震が怖い,日常生活の不便さを犠牲にしてもそういう超巨大地震にも耐えられるような家に住みたいという人はいくらでもお金をかけて要塞のような建物を建設して住むことができます.

 とは言え,今回の大災害を契機に,想定をどこに置くかも含めて,いろんなことを見直す必要は出てくると思います.東海・東南海・南海が連動して起これば,今回の規模に匹敵するでしょうし,これは,可能性があると既に指摘している専門家もいるわけですからね.

 建物の耐震設計に関しては,想定外の大きな揺れが来て建物が大きな損傷を受けても,倒壊は何とか免れて人命だけは守り抜く,というような設計も行われるようになっています.でも,そういうことが考慮されているのは,ここ20年くらいの話で,少なくとも30年以上前に建てられた建物の多くは,「想定内」の地震動に対しても倒壊して人命を奪う危険性があることは,再三,このサイトで書いている通りです.そして,どうするか決めるのは,繰り返しになりますが,そこに住む人自身です.

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3/17'11
心配なことが...

 今回の地震は,津波で沿岸部は大変な被害となってしまいました.福島原発も予断を許さない状態です.一方で,発生した地震動が短周期で,震動による構造物被害がそれほどでもなさそうなのは,不幸中の幸いでした(でも地震学的には謎が多い).ただ,これで心配なことが...

 マグニチュード9.0,最大震度7にも関わらず,震動による構造物被害が少なくなったからと言って,それは,決して建物の耐震性が高いからではありません.発生した地震動の性質が「たまたま」1秒以下という短周期が卓越して,震度や加速度は大きくなるが,建物の大きな被害には結びつかないというものであったからに過ぎません.

 ここで「たまたま」と書きましたが,「たまたま」というのは,その本来の意味に反して,10回中9回くらいのことです.発生する地震動のほとんどは,震度や加速度は大きくなるが被害は生じない短周期地震動です.そうです.まさに,今回の津波被害のケースなのです.これも何度も書いてきましたが,とても「狼少年」になりやすいケースなのです.

 繰り返しになりますが,マグニチュード9.0,最大震度7にも関わらず,震動による構造物被害が少なくなったからと言って,それは,決して建物の耐震性が高いからではありません.ただ,津波のケースと違って,この場合は,震度の算定法を被害と対応するように修正すれば解決する問題です.でも,少なくとも今回の地震には間に合いませんでした.

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3/13'11
心配していたことが起こってしまった

 ニュージーランドのクライストチャーチに地震被害調査に行っていました.現地で調査1日目の夕方,いっしょに調査していた東大地震研の纐纈先生の携帯電話が鳴ります.「宮城県沖地震」が起こったとのこと,そして,しばらくして,マグニチュードが8.9とか茨城県沖とか言っています.どういうこと?

 ホテルに着いて,インターネットに繋いだりして情報収集すると,だいたいの様子はわかりました.大変なことになってしまいました.M8.8(その後9.0に修正)というのは,日本の近くでは史上最大ですし,南海トラフではなく,三陸沖から茨城県沖まで全部割れるなんてことは,地震学者は誰も予想してなかったそうです.

 ニュージーランドのテレビもCNNもトップニュースで,「JAPAN EARTHQUAKE」と題して,ずっと津波被害や福島原発や市原の石油タンク火災のことを取り上げてました.海外から見ると東洋の1つの小さな島国が...という扱いでは全然なかったですね.

 実は,私と飯塚君がクライストチャーチに行ってる間に地震が起こったら,という話を学生達の間でしていたそうです.でも慌ててもしょうがないです.調査はあと1日ですし,すぐに帰っても1日早く帰れるだけです.それに,まずやることは,K-NETの記録を分析して,どこでどのくらい被害があるのか把握し,被害推定を行って,調査計画を立てることです.これは,学生達はもう何度も経験してますから大丈夫でしょう.そもそも,1995年兵庫県南部地震のときもそうでしたが,これだけの巨大地震だと,逆にすぐに被害調査というわけには行きません.

 しばらくして,研究室の林君から電話がかかってきました.なんと大学が全て停電でなんとか電気が繋がってる汐満君の家で作業しているそうです.そして,K-NETそのものがダウンしているとのことでした.電話の向こうではかなりパニクっていて,とにかく調査に出かけるとか言っていたのですが,それをやめさせて,K-NETが繋がったらまずしっかり分析するように指示しました.

 そもそも,これだけ大きな地震だと当分は被害の分析とかいうことにはならないと思います.ていうか,K-NETの記録がないんじゃ何の分析もできません

 その後,インターネットなどで情報収集していたのですが,驚いたのは,宇都宮で震度6強,東京でも震度5強,そして,なんとつくばで震度6弱ということでした.茨城や福島は大きな地震はないところという認識だったんでしょうが,日立でも震度6強です.心配になって,家にメールしようとしたのですが,インターネットには繋がってもメールが繋がりません(このときは,もう日本への電話は全く繋がらなくなっていた).

 そっか,大学が停電ということは,メールサーバが落ちてるってことですね.こういうときのために,メールを全てYahooに転送してるのですが,そこを開けると「15:40」を最後にそれまで嵐のように入っていたメールがぱたっとなくなっています.Yahooからメールを入れて,しばらくして妻から返信が来てみんな無事ということを確認しました.でも,就職委員で,3/11の正午が学校推薦の本調査の〆切でその結果を他の就職委員の先生方に送ることになっていたのですが,大学のメールサーバが落ちたのでは,彼らにメールの送りようがありません.

 3/12時点での情報では,死者,行方不明者が1000人を越えるということですが,地震の規模からするともっと増えるのではないでしょうか.ほんとどうしようもなかったのでしょうか.心配したことが現実に起こったなんてことはなかったんでしょうか.

 今回は,奇しくも海外でこういう経験をして(でも,2000年鳥取県西部地震のときもスロベニアにいたのでこういうのは2回目),世界中の目が日本に注がれていると感じました.2日目の調査中は,被災された住民の方々から逆にお悔やみの言葉をもらうほどでした.巨大地震で大津波が発生したが,先進国でシステムが完備しており,事前に津波警報が発令されて住民はみんな避難していてほとんど無事だった,となったら「すごい国だ」となったと思うんですが...遠くの巨大地震に威力を発揮する(はずの)緊急地震速報は,どのくらい機能したのでしょうか?

 あと,気になるのは,その後,内陸直下地震が相次いでいることです.もう完全に地震活動期に入ったかもしれないですね.前回の活動期は,1940年代でこの10年で東南海,南海,三河,鳥取,福井など1000人以上の死者を出した地震が5回起こっています.70年周期説によれば,次は2010年代ということになります.

 トランジットでシンガポールに着き,インターネットにアクセスできたので情報収集しました.

 つくばは,ライフラインが止まっていて思った以上に深刻で,大学も立ち入り規制されていて,後期入試も中止になったようです.つまり,つくば自体,筑波大自体が被災してしまったわけです.ただ,成田からの交通は何とか動いているようです.でも学生からのメールを見るとK-NETが動かずまだ何もできない状況のようでした.つまり,慌てて帰ってもどうしようもなかったわけです.

 被害情報については,犠牲者数万人という数字も出てるようです.やっぱり,何とかならなかったのかと思ってしまいます.地震が起こって津波が来るまで最短30分とありますが,逆に言えば,30分はあったということです.結局,このコラムで再三警告してきたことが現実になってしまいました.震度6もの揺れを感じて海岸近くにいたらとにかく高台に避難です.平地で避難する場所がないなら造っておくべきだったでしょう.でも,多分,2008年岩手宮城内陸地震のときと同じような揺れで今回も大丈夫と思ってしまったんでしょうね.

 そうです.だいたい,5回中4回,いや,10回中9回は大丈夫かもしれません.でも10回中1回は今回のようなことが起こります.そのために,10回中9回の「無駄足をしっかり踏めるか」なんですけど,そこまでは防災教育が行き届かなかったということでしょうか.返す返すも残念で仕方ありません.

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2/28'11
数字のマジック?

 今回のニュージーランド クライストチャーチ直下の地震で,私もメディアを通して何度も言いましたが(でも,使われたのは1-1.5秒のところばかり),倒壊した建物が今の規準を満たしていないというのは,日本でも同じことが言えます.そのことについては,メディアでも取り上げられているようですが,その時,よく使われている数字が,国交省の住宅の耐震化率79%というものなんですが,これがまずいなーと感じています.ちなみにこの数字自体ですが,東大のK田先生は,ほんとですかね?とおっしゃってましたが,間違いはないと思います(私が調べた数字では2〜3割が既存不適格ですから).

 耐震化率79%というと,どう感じますか? 結構,耐震化進んでるじゃん,って思いますよね.でもほんとですか? 79%耐震化ということは,20%以上は,既存不適格建物ということです.20%という数字は,小さいですか? もし,首都直下地震が来て20%の木造家屋が全壊したらどうなると思いますか? おそらく何万人という人が命を落とすことになると思います(糸井川先生の1995年兵庫県南部地震における死亡率=0.0175*全壊率という関係に基づけば死亡率は0.37%となり,1000万人中死者数は3.7万人となります).

 今回の地震で既存不適格建物がどのくらいあったかは,わかりませんが,少なくとも倒壊して人命を奪った建物は,全体の中でもごくごくわずかです.それでもあの大惨事です.つまり,耐震化率79%という数字はとても低いということを認識すべきです.残りの21%は,現在の規準を満たしていないわけで,言わば「無法者」です.それが全体の2割以上もいる社会は,社会として成立していますか?

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2/23'11
ニュージーランド クライストチャーチ直下の地震

 昨日(2/22)起こったニュージーランドのクライストチャーチ直下で起こった地震ですが,大きな被害になってしまいました(2/22時点で,死者数十人,行方不明者数百人).昨年9月の地震(は死者0)の余震と言われていますが,震源が近くて浅かったことが大きな被害となった原因でしょう.強震記録の概要を見ると水平で1g,上下で2g程度を記録しているところもあるようです.

 個人的には,ニュージーランドは,今から20年前,私が初めて国際会議(Pacific Conference on Earthquake Engineering)に行ったところで,会議の後,恩師である東大の青山先生夫妻,ニュージーランド カンタベリー大学のPauley先生,Park先生とクライストチャーチで何日かを過ごした思い出深い場所です.ほんとに綺麗で美しい街で,あの大聖堂が無残に崩壊してしまった姿を見ると心が痛みます.

 ニュージーランドは,単に地震国というだけでなく,その耐震工学の先進性でも知られています.世界の中で耐震工学をリードしているのは,日本,ニュージーランド,アメリカの3国と言えるでしょう.つまり,今回の地震で被害が出たのは,耐震規定がお粗末だからで,日本では大丈夫とは,言えないということです.

 でも,今回の地震で倒壊した建物を見ると,古い煉瓦造やあまり耐震的とは言えないものもあります.どういうことでしょうか? それは,研究レベルは最先端でもそれが社会に還元されていないということがあります.耐震規定が改訂されても法は遡って適用されないので,古い耐震性能が低い建物がそのまま放置されているのです.

 ここで,気づかれた人もいると思いますが,事情は,日本と酷似しています.日本の耐震工学のレベルは世界一であり,その耐震規定の厳しさも世界一ですが,その一方で,今の耐震規定を満たしていない大量の「既存不適格建物」が放置されています.その数は全体の1/3の1000万棟とも言われています.1995年兵庫県南部地震では,そういう建物が大きな被害を受けてしまいました.

 M6〜7クラスの直下地震は,日本のいつどこで起こってもおかしくありません.つまり,今回の地震は,対岸の火事では全くないということです.

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1/17'11
1995年兵庫県南部地震から16年

 1995年兵庫県南部地震から16年経ちました.もちろん,当時現地に入って目のあたりにした光景は昨日のことのように憶えています.この悲惨な災害を忘れないようにといろんな催しが行われています.でも「災害を忘れないように」ってどういうことでしょうか?

 何度も言っているように,地震災害は,自然災害ではなく人災です.神戸の記憶を風化させないように,というだけでは意味がありません.対策をしなければ,必ずまた繰り返されますし,言い方を変えれば,対策さえすれば,災害は劇的に減ります.そして,対策をするのは,あなた自身です.

 これも繰り返しになりますが,1995年兵庫県南部地震で明らかになったのは,現在の日本の耐震規定の妥当性です.調査の結果,耐震規定が大きく変更された1981年以降に建てられた建物はほとんど大きな被害を受けてませんでした.その一方で,1980年以前に建てられた建物は甚大な被害を受けました.何をすればいいかは,明らかでしょう.それでも対策をしないと言うのなら,(厳しいことを言うようですが)被害に会ったときの責任はあなた自身にあります.

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3/17'10
震度6でも大丈夫?

 震度についても同じことが言えます.ここ10年,数多くの大地震が起きましたが,震度6というとても大きな震度でも全壊といった木造建物の大きな被害がほとんどない,というケースが多々ありました.例えば,2009年駿河湾を震源とする地震2008年岩手県沿岸北部の地震2008年岩手・宮城内陸地震2005年宮城県沖の地震2005年福岡県西方沖地震2003年宮城県沖を震源とする地震(三陸南地震)2001年芸予地震 などがそうです.これ以外の地震でも,震度6で大きな被害が出たところもあれば,ほとんど被害がないところもある,ということがありました.震度6というのは,本来的には,10%程度の木造建物が全壊するという揺れの強さです.

 こういう事実を前にして,日本の建物は耐震性が高いから震度6でも大丈夫なんだな,と思われる人も多いでしょう.でも,実際は全く違います.これは,このサイトで再三,書いてきたことですが,地震の揺れ(地震動)には,様々な性質があり,その中で揺れの大きさ(振幅)と並んで重要な周期特性(ゆっくり揺れるか素速く揺れるか)によって,同じ震度6でも,甚大な被害が出たり,ほとんど被害が出なかったりするのです.

 つまり,被害との対応という点において,震度の計算方法自体にまだばらつきがあるのです.でも,今の震度の計算方法が決められたのはもう15年ほど前ですが,当時のこの分野の最先端の研究成果をもとに決められました.ですから,これが現在の最先端の技術ということです.地震だ!と思ってテレビを付けると,ものの数分で各地の震度が表示されるのは画期的なことで,これほどの迅速さと密度をもったシステムがあるのは世界でも日本だけで,これはすごいことです.でもまだ完璧ではないのです.

 その後,気象庁や自治体,国(防災科学技術研究所)によって地震計が全国に設置され,大地震が頻発して,多くの貴重なデータが得られて,被害をより正確に推定する算定法も提案されてはきました.でも,これは,最先端の研究結果とは言えるでしょうが,まだ,一研究者の出した答えに過ぎませんし,この計算法自体にもまだ改善の余地があります.

 ですから,現在の震度に対する正しい認識としては,最近の技術に基づいた,地震の揺れの強さや被害を「かなりの」精度で推定できる指標である,ただし,現状ではまだばらつきがあるので,同じ震度6でも地震の揺れの性質によっては,被害が出たり出なかったりするので注意が必要,ということになります.つまり,震度6で大丈夫な「こともある」が,それは「たまたま」であって,決して現存する日本の建物の耐震性が充分なわけではありません

 そして,注意を要するのは,その「たまたま」は,津波警報と同じように80%くらいあるということです.つまり,5回に4回は,震度6でも大丈夫ということで,災害は忘れた頃にやってくる,あるいは,狼少年にとてもなりやすい状況なのです.でも5回に1回は,やや短周期地震動が発生して全壊してしまうこともあります.そして,その「5回に1回」がいつ来るかはわかりません.ひょっとしたら明日かもしれません.そういう状況でどうすべきかは,津波警報と同じです.

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3/17'10
津波警報なんか出ても大丈夫?

 先日のチリ中部の地震による津波に対する対応サモア諸島沖の地震による津波注意報への対応は,ほんとにひどかったと思います.このままでは,「津波警報なんか出ても大丈夫」ということになってしまいます.そして,そういう誤解が定着してしまった頃に,被害を引き起こす津波がやってきて大惨事になります.まさに,災害は忘れた頃にやってくる,です.いわゆる「狼少年」ですね.でも,技術はどんどん進歩しています.技術と言えるほどではないまでも,現地ではいわゆる経験も蓄積されてきました.それなのに,人類は,この過ちを何度も繰り返しています.どうしてこんなことになってしまうのでしょうか?

 経験の蓄積もあまりに頻度が低いと充分に伝わっていない,ということはあるでしょう.再三ここで書いているように,人間は怖いものに蓋をする本能があって,自分に都合のいいように考える性質があることもあります.これはとても厄介な性質です.

 そして,技術が発達してきた現代社会で言えることは,確かに技術は進歩してきたが,まだ完璧ではないということです.津波警報というのは,「かなりの確率」で津波が来ますよ,ということですから,実際には大きな被害を引き起こす津波は来ないこともあるわけです.そして,その精度ですが,津波の高さが1mになるのか3mになるのか,1時半に来るのか2時に来るのか,というところまではまだ来ていません.そうするとどうなるかと言うと,そのばらつきを考慮に入れて,警報を出すことになります.つまり,津波警報が出る,ということは,大きな被害が出る津波が来る「可能性がある」,ということです.

 ですから,実際にはそれほど大きな津波は来ない「こともあります」.現状ではこれは仕方のないことです.でも,1960年のチリ地震のときは,地震の揺れもないのにいきなり大津波が来たわけですから,やはり長足の進歩です.地震が発生したとき,その震源位置や規模や海底地形,海岸線データからほんの数分でどこにいつどの位の高さの津波が来るのか計算できるようになるなんて50年前誰が考えたでしょうか?

 でもまだ完璧ではないのです.上で「かなりの確率」で津波が来ますよ,と書きましたが,その確率が20%なら5回に4回は大きな被害を引き起こすような津波は来ないということです.でも,逆に言うと,5回に1回は来るということです.そして,それがいつなのか,今回なのか,5回先なのかはわかりません.だったら,(命が惜しいのなら)とにかく避難するしかありませんつづく)

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3/8'10
チリ中部の地震による津波に対する対応

 先日のチリ中部の地震による津波に対する対応ですが,ほんとひどかったですね.警報が出ているのに避難しない(例えば,なんと全国で1000人以上のサーファーが警告を無視してサーフィンを続けた),過去に大きな被害を経験していて防災意識が高いと思われていた釜石でさえ,避難していても第一波が数十cmということがわかると警報が解除されていないにもかかわらず半分もの人が勝手に帰る(その後,第二,第三波で第一波を越える津波が観測).つまり,このときと何ら変わらなかったわけです.こんな状態では,間違いなく悲惨な被害が繰り返されます.

 これは,既存不適格建物の問題と似ているのですが,私の家は大丈夫,数十cmの津波くらい大丈夫という事実誤認があります.これだけの地震大国でまともな防災教育もなされていないのも問題ですが,にも関わらず,つまり,防災の知識もないのに勝手に間違った自己判断をして行動してしまうのが大問題です.防災の知識がないのなら,知識ある人の判断(津波警報)に従うしかありません.本能で防災してはいけません

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1/17'10
地震防災のプライオリティ

 新たに書くことは特にないと書いたのですが,やっぱりちょっと気になることが....

 阪神・淡路大震災から15年ということで,メディアなどでいろんな番組が放送されているのですが,その報道の仕方が「地震は天災なのだから大惨事になるのは仕方がない,問題は来たときどうするのかだ」という風潮になってきたのが気になります.地震災害は天災ではなく人災です.ちゃんと対策をすれば防げる(劇的に軽減できる)ものです.

 繰り返しになりますが,日本の耐震技術は世界一です.技術的には「防ぐ」(劇的に減らせる)ことが可能です.でも既存不適格建物の耐震補強は一向に進まない.理由は,事実誤認ということもありますが,一言で言えば,「いつ来るかわからない大地震に対して100〜200万円なんていう大金をかける気になんかならない」ということでしょう.

 でも,家ですから何十年も住むものです.例えば,これから15年住むとすると,耐震補強に150万円かかっても1年に10万円です.30年住むならたったの5万円です.つまり,車の維持費の方が遙かに大きな額なわけです.それでも耐震補強なんかせずに車をもっていたいし,車検が何回か来れば新車に買い換える.車がなければ生活ができないからでしょうか?ほんとにそうですか?地震で家が倒壊したらほんとに生活できなくなりますよ.

 結局,生活全体の中に占める地震防災のプライオリティの問題だと思います.大地震は滅多に来ませんから,本能的に判断すれば,普段の生活の方を優先してしまうのが人間です.でも,本能のみで動く動物とは違って,知能をもった人間なのですから,それではあまりに情けないと思いませんか?

 私が地震防災の専門家だから,我田引水的に地震防災が重要だと主張してるだけではないか?と思われるかもしれません.でも,社会全体を見たとき,その中での様々なことのプライオリティがおかしいと感じているのは私だけでしょうか?

 工学は,一言で言えば,世の中を便利にするために発展してきました.でも,もうそろそろ「いい線」まで来てると思います.車ってこれ以上必要ですか?カラーテレビが普及してから40年経って地デジになって,劇的な変化があったでしょうか?10兆円近くかけて中央リニアが計画されているようですが,それだけのお金をかけて,東京〜大阪間の2時間半を1時間にする意味があるのでしょうか?

 そもそもこれ以上経済発展なんかする必要があるのでしょうか?夢が必要?もっと足下をしっかり見た方がいいのでは?こんなに便利な世の中になったのに,その一方では,地面が30秒揺れただけでそれが水泡に帰す.バランスがおかしくないですか?

 莫大なお金をかけて,今よりほんの少し世の中を便利にすることより,もっと大事なことがあるのではないでしょうか?もっと便利にすることばかりを追い求めて,何の対策もしていない状態で,ある日突然,大地震がやってくれば,足下から全部ひっくり返されます.世の中をこれ以上ほんの少し便利にすることより,何があっても今の生活をしっかり守ることの方が遙かに重要なのではないでしょうか?

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1/17'10
阪神・淡路大震災から15年

 あの1995年兵庫県南部地震,阪神・淡路大震災から15年が経ちました.1つの節目ということで,学会やメディアなどでいろんなことが企画されています.10年経ったとき,即ち,今から5年前にも書きましたが,あれほどの大惨事が時とともに急速に忘れられるのは驚くべきことで,そうならないために,そういう企画がなされるのは重要なことです.でもそれだけでは厳しいと思います.

 15年ということで,私も今思うことを書いておこうと思って書き始め,5年前に書いた記事を読み返してみました.そして,5年前と状況がほとんど変わっていないことに,新たに書くことはそんなにないことに気づき,愕然としました.いったいこの5年間,何をやってきたのでしょうか?

 現状では,1995年兵庫県南部地震と同様の地震がまた発生すれば,残念ながら,あのときのような大惨事が繰り返されます.場所が今後30年以内に発生する確率が70%(驚くべき高い確率です)とされている首都直下ならもっと大変なことになります.高速道路の橋脚のように1995年兵庫県南部地震を契機に補強されたものもありますが,阪神・淡路大震災で大半の命を奪った既存不適格建物(現行の耐震規定を満たしていない建物)は,大量に放置されたままで,その数は1000万棟以上と言われています.つまり,2棟に1棟近くの木造建物が大地震が来れば倒壊の危険性があるという驚くべき現状なのです.

 しかし,アンケート調査を見ると多くの人は自分の家は大丈夫と思っていることに驚かされます.つまり,「事実誤認」しているのです.

 ここで新たに書くことは特にないのですが,5年前に書いた記事の中で,特に何を強調するかというと,あえて,地震災害は天災ではなく人災ということを繰り返し申し上げておきたいと思います.厳しいことを言うようですが,対策する術があるのに対策しないのは,そこに住んでいる人の責任です.日本の耐震技術は世界一です.でも使わなければ宝の持ち腐れです.

 あのときの大惨事を忘れないように記憶に留めておくことはもちろん重要なことですが,じゃあどうするのかという具体的な対策をとらない限り大惨事は繰り返されます.戦争は人間が起こすものですが,地震は自然が起こすもので,ある日突然,容赦なく襲いかかってきます.ひょっとしたら明日かもしれません.

 これは,結局,本能で防災してはいけないということに繋がるのだと思います.滅多に来ない非常に大きな恐怖を無視しようとする本能に従えば,対策は絶対に進みません.

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9/30'09
サモア諸島沖の地震による津波注意報に対する対応

 サモア諸島沖の地震で,津波注意報が発令され,東北地方の沿岸では迅速で適切な対応がなされたようなのですが,それ以外のところ,例えば,先月,駿河湾の地震があった静岡県ではどうだったのでしょうか?実際に観測された津波は最大で20cmだったようですが,そのくらいなら避難する必要なんてなかったのでは?と考えるのはあまりに浅はかです.

 津波注意報というのは,高いところで0.5m程度の津波が予想されるということですが,津波は波ではなく流れなので,そのくらいの高さでも人的被害が出る可能性があります.

 もし仮に,津波注意報が発令されて実際に人的被害が生じる確率が数%だとしたら(実際にはもっと高いと思います)どうしますか?数%だからまあいいやと思って避難しませんか?そういうことを繰り返しているうちに,確率数%の人的被害が生じる津波が必ずやってきます.そして,それは今回なのか,次回なのかはわかりません.

 つまり,人的被害が生じる可能性が少しでもあるのなら,何を差し置いても避難しなければならないのです(命が惜しいのなら).避難して津波が来なかったら避難して損したと思いますか?津波は来なかったんですから,それでいいじゃないですか.

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9/01'09
本能で防災してはいけない

 今日は防災の日ということで,いろんなところで防災訓練が行われているようです.災害は滅多に来ないので,そういう形で訓練も兼ねて災害が来ることをしっかり意識してもらうのはいいことだと思います.地震災害に限らず,災害は滅多に来ない.でも来たらとんでもないことになる,という対処が非常に難しいものです.

 人間は,滅多に来ない非常に大きな恐怖を無視しようとするという性質があることが心理学的にわかっています.「正常化の偏見」とか「正常化のバイアス」という用語をきいたことがある人もいらっしゃるかと思います.例えば,津波警報が発令されても自分の家「だけ」は大丈夫と思って避難しない,火災報知器が鳴ってもどうせまた訓練か機械の故障だと思って避難しないのがそうです.

 人間がそういう性質をもつことはわかっているのですが,なぜそういう性質をもつようになったか解明されているのかどうかは(専門外なので)私はよく知りません.でもこういうことなんじゃないかと考えています.生きていく上でほとんどを占める日常生活を心穏やかに過ごしていくためではないか.

 例えば,人間の最大?の恐怖として,死があります.人間は必ず死にます(現時点では).でも,日頃生活していく上で常に死を意識していたのではさすがに気が滅入りますよね.そういう恐怖「感」(恐怖そのものではなく恐怖「感」です)から本能的に逃れるように脳がプログラムされているのだと思います.

 でも,怖いものにただ目をつぶっていたのでは,突然災害のようなものがやってきたときに甚大な被害を被ってしまいます.それこそ命を落とす場合もあるでしょう.でも,人間の脳は,その人がサバイブするように,ではなく,人類全体がサバイブするようにプログラムされている(遺伝子に書いてある)のだと思います.つまり,災害などで「その人」が命を落としても,残りの大部分の人類が生き残れば,人類としてはOKなわけです.

 火災報知器が鳴っているのに大丈夫と思ってその人が焼死しても,大地震が来れば倒壊するとわかっている古い木造家屋に住んでいても,津波が来て何百人あるいは何万人という命が奪われても,人類全体からすればごく一部です.どんなに大きな災害でも,人類全体が危険にさらされるようなものは滅多にあるものではありません.実際,人類が誕生して今日までの何百万年もの間,人類は(人類全体としては)生き延びてきました.

 でも,人類としてはそれでOKでも,その人,即ち,個々の人間としての我々自身はそうは行きません.人類がサバイブすればいいというのは,人類という得体の知れない化け物の身勝手な考えであり,人の命は地球より重いものです.では,どうすればいいでしょうか?

 少なくとも人の命より人類のサバイブを優先するようにプログラムされた「滅多に来ない非常に大きな恐怖を無視しようとする」本能に逆らって行動するしかありません.本能に逆らうのですから,かなり大きなエネルギーがいると思います.防災というのはそういうものなのです.でも,本能に逆らえるのが高度な知能をもった人間でもあります.

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8/27'09
静岡県は耐震先進県?

 先日,駿河湾を震源とする地震が発生しました.震度6弱という非常に大きな震度を記録したのですが,建物の大きな被害はほとんどありませんでした.原因としては,ここで,あるいは,過去の同様の地震で何度も繰り返し述べているように,発生した地震動が極短周期地震動であったため,震度や加速度は大きくなるが,建物被害は大きくならなかった,ということです.

 これに対して,静岡県は東海地震の発生が危惧されているため,耐震対策が進んでおり,県民の防災意識も高かったためだ,というコメントがちらほらきかれているのがとても気になります.私の知りうる範囲において,そして,今回,現地被害調査を行った印象でもとてもそうは思えません.

 まず,静岡県の木造建物の耐震性能ですが,決して高くありません.これは耐震診断などいろんなデータがありますが,なんと全国平均より低いというものもあります.建築学会だったか地震工学会だったか,そのような講演があったとき,びっくりしてほんとにそうなのか?という質問をしたほどです.

 今回は,屋根瓦の被害がとても多かったのですが,原因としては,屋根瓦のずれは地震動の極短周期と相関があるということもあるのですが,これもなんと施工グレードは全国平均より低いとのことです.屋根瓦「だけ」グレードが低いということは考えにくく,当然建物全体の耐震性能も連動しているでしょう.これは,上記の耐震診断結果が全国平均より低いということとも整合します.

 住民の方の防災意識についてもこんなことがありました.被害調査の1日目,当初の予定では,1日目に静岡市以西の強震観測点の調査は終えて,静岡市内に宿泊する予定だったのですが,最初,震度6弱を記録した牧之原市静波震度計が,役場のすぐ近くにあるK-NET榛原によって兼ねられているということだったのですが,波形を元に計算した震度が5強となっておかしいと思い,役場に問い合わせたところ,役場に別途設置されているということでした.しかしもう日が暮れてしまって,急遽,翌日の早朝調査をすることになり,牧ノ原で宿を探すことになりました.

 近くに宿はほとんどなくて,宿泊したのは,海岸近くのいわゆるサーファー宿でした.そこで,宿のご主人と地震発生当時の状況についていろいろお話ししたのですが(インターネットがなかなか繋がらず,でもとても丁寧に対応してくださりとてもいい方でした),とにかくものすごい揺れだったそうです.人体感覚は短周期と相関があり,震度は短周期と対応していますから,これも整合します.それで,地震発生直後どうしたのかきいてみたのですが,テレビをつけて津波警報の予測値が50cmだったので,様子を見ていたそうです.

 海岸近くでものすごい揺れを感じたら,着の身着のままでとにかく海岸から離れた高台へ避難するのは,地震防災の常識です.テレビを付けて津波高さ予測値を確認している暇などありません.今度からはそうしてくださいね,と話したのですが正直驚きました.

 もう何十回も現地に被害調査に出かけている経験から言うと,地震防災意識が一番高いと思うのは東北地方です.これは,宮城県沖地震のように将来高い確率で大地震が発生することが危惧されていることがあるというよりも,頻繁に被害地震が起こっているということがあると思います.今回の駿河湾を震源とする地震では,幸いそれほど大きな被害はありませんでしたが,これを機に地震災害対策が進むことを切に願っています.間違っても,震度6弱でもこの程度の被害で済んだのだから,「本番」の東海地震でも大丈夫とは決して思わないでください「本番」の東海地震は,全く違うものです.

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