長周期地震動と短周期地震動の違いを
簡単な模型を使ってわかりやすく?示したデモンストレーション

 「簡単な模型と振動台を使って,長周期地震動と短周期地震動の違いをわかりやすく?示したデモンストレーション」を振動台を使わず,机の上でもデモンストレーションできる模型を作成しました.

 地震動(地震による揺れ)は,単に強い,弱いと言った単純なものではありません.素速い揺れ(短周期),ゆったりした揺れ(長周期)が複雑に混ざっています.そしてその混ざり方は,震源や表層地盤の影響などによって,素速い揺れが卓越する場合,ゆったりした揺れが卓越する場合があります.具体的には,例えば震源がプレート間の場合や表層地盤が軟らかい場合などには比較的長い周期が卓越し,震源がプレート内の深い地震の場合や表層地盤が固い場合などには短周期が卓越すると言われています.地震動の周期帯は次のように呼ばれています.

 極短周期  : 0.5秒以下
 短周期   : 0.5〜1秒
 やや短周期 : 1〜2秒
 やや長周期 : 2〜5秒
 長周期   : 5秒以上

 ここでは,極短周期地震動(0.5秒以下),やや短周期地震動(1〜2秒),やや長周期地震動(2〜5秒)の比較をデモンストレーションします.動画で,真ん中の小さい(アンパンマン)人形が人間,右の4本柱でできたものが木造家屋,左が30階建ての超高層建物を模擬しています.人形(人)は,人が揺れが強いと感じる極短周期で倒れるように,木造家屋は,実際の木造家屋および中低層鉄筋コンクリート造建物(これで建物全体の80%以上を占める)が壊れるときの周期とほぼ同じ周期になるように,超高層建物は実際のものと周期が同じにしてあります.木造家屋は全国に1000万棟以上あるとも言われる現在の耐震規定を満たしていないいわゆる「既存不適格」の古い木造家屋を想定しています.左の液晶ディスプレーには震度(相当値)が表示されます(5−は5弱,5+は5強,6−は6弱,プログラム上の問題で1秒ほど遅れて表示されます).


動画1 極短周期地震動(4Hz,周期0.25秒)↑

動画2 やや短周期地震動(1Hz,周期1秒)↑

動画3 やや長周期地震動(0.33Hz,周期3秒)↑

 ※うまく行かない場合は■極短周期■■やや短周期■■やや長周期■をそれぞれ右クリックして対象をファイルに保存(A)」を選びファイルをダウンロードしてください.Windows Media Playerで再生できます(スタート→プログラム(P)→アクセサリ→エンターテイメント→Windows Media Player).

 これを見ると極短周期地震動(動画1),やや短周期地震動(動画2)ともに震度6弱程度と震度は同じくらいにもかかわらず,極短周期地震動は人形は倒れる(人は強い地震と感じる)が建物は無被害,やや短周期地震動は,人形は倒れない(人は強い地震とはあまり感じない)のに建物はあっと言う間に倒壊する,という具合に,震度が同じでも地震動の周期特性によって人の感じ方や建物被害が大きく違ってくることがわかります.このことは気象庁震度階級関連解説表にもはっきり明記してあります.そして,言うまでもないことですが,怖いのは「やや短周期地震動(1〜2秒)」です.どんなに震度が大きくて(震度7でも)人が強い揺れだと感じても,構造物が倒壊しなければ人が死ぬことはありません.やや短周期地震動は動画で見ても,ものすごい振幅で揺れていることがわかります(でも震度は極短周期地震動と同じ程度).

 甚大な被害を引き起こした1995年兵庫県南部地震2004年新潟県中越地震の川口町ではまさにこういう地震動が観測されました.1995年兵庫県南部地震では震度6弱でも周辺で16%の家屋が全壊したところ(JR神戸駅付近)もあります.同じ震度7相当を記録したところでもやや短周期地震動が発生したところで甚大な被害が生じています.つまり昨今の,震度6弱,6強で被害が小さい場合が非常に多いのは,発生したのが極短周期地震動だったというだけで,建物の耐震性が充分というわけではなく,決して安心してはいけないということです.ここで示したデモンストレーションでも古い木造家屋は震度6弱の極短周期地震動に対してはびくともしませんが,同じ震度6弱のやや短周期地震動に対してはあっさり倒壊しました.対照的に超高層建物は,極短周期地震動(動画1),やや短周期地震動(動画2)のいずれに対してもびくともしていません(実は高次モードの影響などがあってそれほど単純なものではないのですが).

 これに対して,やや長周期地震動の場合(動画3)は,人形,木造家屋はなんともなく(人はほとんど感じないし,一般の建物は全く無被害),震度も4以下(震度表示は「−」)であるにもかかわらず,超高層建物は激しく揺れていることがわかります.超高層建物と同程度の周期をもつ免震建物,大規模構造物についても同様の現象が起こることが予想されます(もちろんこれはデモンストレーションなので,わかりやすく大きな変位が出るようにしてあります.実際の建物はこんなに大きな振幅で揺れるわけではありません).2003年十勝沖地震で石油タンク火災を引き起こした長周期地震動はこれより更に周期が長いですが,発生する現象は同様です.

 このようなやや長周期地震動,長周期地震動は,関東平野,大阪平野,濃尾平野などの堆積盆地で発生が危惧されていて,実際に観測もされています.長周期地震動が発生する堆積盆地に長周期の超高層建物や大規模構造物をわざわざ?建てるのは,平野に人が集まる→住むところがなくなって高層建物を建てる→平野では長周期地震動が発生する,という流れからすると,ある意味,最悪の巡り合わせと言えなくもありません.発生する長周期地震動の周期は,盆地の大きさによります(関東平野は7秒,大阪平野は5秒,濃尾平野は3秒程度).2003年十勝沖地震の際,苫小牧で記録されたもの程度なら超高層建物を倒壊に至らしめるようなものではありませんが,ある程度の被害は引き起こす可能性は高く,何らかの対策が必要だと考えます.

 以上のことから,地震動(地震の揺れ)の周期によって,起こる現象や震度との関係が全く異なってくることがわかります.そして,繰り返しになりますが,ほんとに怖いのは,長周期地震動や大きな震度を記録する極短周期地震動などではなく,1〜2秒というややゆっくりした周期で揺れる「やや短周期地震動」です.振幅の大きな長周期地震動はある条件が重ならないと発生しませんが(遠方で大きなマグニチュード(M8クラス)の地震が起こったとき,かつ,大きな堆積盆地で発生する),やや短周期地震動は,直下地震が起これば,M7クラスでも震源のメカニズムによって発生します.そして,M7クラスの直下地震は日本国中いつどこで発生してもおかしくありません.

謝辞

 このような机の上でもできるデモンストレーションは,名古屋大学の福和伸夫先生が既に行われているもので,そのアイデアに触発されてこのデモンストレーションを思いつきました.福和先生にお話ししたところ,快くお許しをいただきました.

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