震度7を記録した川口町役場周辺の被害
 
10/31(土)の,川口町震度計(川口町役場に設置)で震度7を記録していた
(地震による停電のためそれまでデータが送られてこなかった)との報道を受
け,急遽,10/31(日)〜11/1(月)と川口町役場周辺の建物被害状況の調査を行
ったので報告する.
 
震度計の位置は下図を参照

震度計は川口町役場建物↓

のすぐ裏手にある↓

周辺(半径200m以内)の建物被害調査を行う.建物全数は320棟程度.
川口町役場から周りを見渡すと倒壊した家屋がちらほら見える程度だが↓



役場の北側には倒壊家屋が集中しているエリアもある↓





そういうところでは地盤の変状の被害も大きい


その一方で,ほとんど被害がないエリアも多い.




応急危険度判定が既に行われていて,赤(危険),黄(要注意),緑(調査済
み)の紙が貼られていた.判定は非常に的確に行われていて敬服した.危険
(赤)と判定されたものから,落下物のみによる要因(屋根瓦,ガラス,エア
コンの室外機など)によるもの,隣接建物の倒壊によるもの,地盤の変状によ
るもの,地盤の変状による基礎の被害によるものを除けば,ほぼ地震動による
全壊と対応しているとの印象をもった
 
※応急危険度判定と全壊,半壊などの罹災調査は判定基準が異なる.即ち,瓦
屋根が損傷を受けていてその落下の可能性があり応急危険度判定で危険と判定
されていても,瓦屋根以外に被害がなければ,罹災調査では一部損壊となる可
能性もある.

 
全体としては,甚大な被害が生じており,他の観測点の半径200m以内の全壊
(大破),半壊(中破,小破)の写真,棟数と全棟数を調査する,という調査
方法から,一部損壊,無被害も含めて全ての建物の写真を撮り,建物種別,新
旧,被害程度を記述する調査を行うことにする.調査には3人一組で6時間余
りを要した.調査結果は膨大なので,後日,報告書という形で公開できればと
考えている.また近日中に,もう少し具体的な報告(例えば家屋ごとの写真な
ど)を行いたいと考えている.とりあえずは,調査結果の概要を報告し,感じ
たことをいくつか述べてみたい.なお,具体的な数字は速報的なものであり,
これから詳細な検討を行った結果,若干変更の可能性がある.
 
建物総計は,駐車場,倉庫なども含めて319棟,うち,木造家屋が225棟である.
とりあえず,震度と被害レベルの対応関係を見るために木造家屋の全壊率を計
算した.木造家屋と見なしたのは,用途として倉庫,駐車場のみのものなどは
除き,全体が木造であれば,1階が店舗で2階が住居というものも含めた.ま
た,雪国仕様ということで1階が鉄筋コンクリート造,2,3階が木造という
ものも非常に多かったので,そういうものは2,3階部分を木造と見なして含
めた.また,全壊の判定で地盤の変状が原因で基礎が大きな損傷を受けたもの
は対象からはずした(分母,分子ともにはずした).そうすると,対象となる
木造家屋(分母)は221棟となり,そのうち全壊家屋は38棟で全壊率は約17%と
なった

 
計測震度になる前の判定表によると震度7は「家屋の倒壊が30%以上」であり,
その数字よりは小さいことになる.判定基準が「倒壊」ではなく「全壊」なの
で「倒壊率」は更に小さくなる.ただし,この判定表は1948年福井地震の家屋
を対象として作られており,そのキャリブレーションを行う必要がある.諸
井・武村(1999)によると,全壊率と倒壊率の差,福井地震当時と1995年兵庫県
南部地震時点の家屋の耐震性能の差という2つの要因をキャリブレーションす
ると,「福井地震当時の家屋の倒壊が30%以上」は,「1995年兵庫県南部地震
時点の家屋の全壊率20%」とほぼ対応する.
 
今回の全壊率は17%なので,現在の木造家屋の全壊率20%という震度7の下限
(6.5)より若干小さいという程度であり,実際の被害レベルからは震度階で
6強相当と1ランク下とはなるが,川口町の震度7が計測震度では下限の6.5
であったことから,今回の川口町の震度7(計測震度で6.5)は,福井地震当
時の家屋の倒壊率30%にほぼ対応している
と言えるだろう.
 
ただし,川口町役場周りの全数調査を行って,あらためてまた別の問題点を感
じざるを得なかったのでここで述べてみたい.
 
木造家屋の全壊率は確かに17%にもおよび,甚大な被害だったが,そのほとん
どは非常に老朽化した木造家屋や1階を商店としていて1階が非常に剛性が低
くなっているものばかりだった.対照的に比較的新しい木造家屋は全くと言っ
ていいほど被害を受けていなかった
.老朽化した家屋の倒壊現場のすぐ隣りに
全く無被害の木造家屋が平然と建っているのは,現在の木造家屋の建設技術の
高さを実感するとともに,いわゆる既存不適格建物の耐震化対策の必要性を痛
感した.また,木造以外の鉄筋コンクリート造, 鉄骨造も,大破以上の建物は
見られなかった(非構造部材が著しい損傷を受けた中破程度の被害はあった).
震度計のすぐ脇の川口町役場建物(3階建鉄筋コンクリート造)も被害軽微だ
った

 
これらのことは,戦後の耐震技術,建設技術の著しい進歩を如実に表しており,
非常に喜ばしいし,誇りに思うことであるが,と同時に震度のあり方について
周期帯の問題とは違った課題のようなものを感じざるを得なかった.それは,
今回の地震の川口町役場における地震動がほぼ震度7相当の揺れの強さだった
とすると,もし,今回以上の揺れの強さが襲ってきた場合も「同じ震度7」で
いいのだろうか?
ということである.
 
これはとりも直さず,日本の耐震技術が進歩して建物の耐震性能が上がり,被
害レベルが下がり,そのに伴って震度の境目,例えば震度7の下限が家屋の倒
壊30%がどんどん下がり,例えば10%(倒壊率にすると現在はこの程度のレベル
だと考えられる),あるいは将来的には数パーセントとなることもあるだろう.
実際,今回の川口町役場周辺の新しい木造家屋の倒壊率は0%!だった.そうす
ると,もっと甚大な被害を引き起こす地震動との区別化ができなくなってしま
うことになる.そしてそういう今回を上回る強さの地震動が発生しないとは限
らない.いやその可能性は大いにある.

 
そのような地震動としては,具体的には1995年兵庫県南部地震のものがあげら
れる.将来起こると想定されているものでは,東海,東南海,南海のマグニチ
ュード8クラスの地震による地震動も今回以上の被害を引き起こす可能性が高
い.これらの地震動の特徴は,建物の大きな被害に直結する1〜2秒という比較
的長い周期にパワーをもっていることである.実際,1995年兵庫県南部地震で
倒壊した木造家屋は老朽化したものだけではなかったし,強震観測点があった
地点の中だけでも今回と同じ判定基準で全壊率が6割にも達するところ(JR鷹
取駅周辺)も実際にあった.福井地震当時の家屋の倒壊率に換算すると何と90
%以上が倒壊というとんでもない被害レベルである.しかしながら,現在の震
度算定法によるとJR鷹取駅の強震記録による計測震度は6.48で,今回の川口町
の震度7(計測震度で6.5)とほぼ同じかむしろ若干小さい値なのである.

 
ここからは,新潟県中越地震で発生した地震動と被害速報のまとめと同じにな
ってしまうが,上記のような点も含めて震度算定法を見直すときが来ているの
ではないだろうか?
 
今回の地震は言うまでもなく甚大な被害であり,被災された方々には心よりお
見舞い申し上げます.しかしながら,今回を遙かに上回る巨大地震の発生は大
いに危惧されることであり,震度7だったからと言ってこれが考えられる「最
大級」のものではない
,ということは声を大にして申し上げたいのです.そし
てそういう地震に備え,被害をより的確に予測できるような震度算定法の見直
しも必要だと思うのです.
 
なお,川口町役場からやや離れてはいるが,田麦山地区にも全壊,倒壊家屋が
存在しているとのことで,全数調査の合間を縫って出向いた.写真のいくつか
ここに掲載する.