5/31'2003
updated on 6/ 1'2003
updated on 6/ 3'2003
updated on 6/ 4'2003
updated on 6/27'2003
2003年宮城県沖を震源とする地震の被害調査速報
−大きな震度を記録した強震観測点周辺の被害状況−
境有紀(筑波大学機能工学系),田中崇博(筑波大学第三学群),
坂上実(東京大学地震研究所),中村友紀子(新潟大学工学部),
纐纈一起(東京大学地震研究所)
2003年5月26日に発生した宮城県沖を震源とする地震の,主として建築物を対
象とした初動的被害調査を行った.調査対象は,主として大きな計測震度を記
録した強震観測点(震度6弱を記録した全ての点と5強を記録した点の一部)
とその周辺(地震計設置地点から半径およそ200m以内)の建物被害度である.
震度6弱を記録した震度計が11地点もあり,K-NET, KIK-NETの強震記録が翌日
には公開され(拍手そして感謝),その中にも震度6弱を記録した地点が3点,
震度6強を記録した地点が1点あった.
しかしながら,K-NET, KIK-NETの強震記録による応答スペクトル(下記)を見
るといずれも0.3秒程度以下の極短周期が卓越した地震動であり,地動最大加
速度は大きいものの,建物に被害をもたらす1-2秒応答は非常に小さく,被害
は少ないことが予想された.建物被害と対応する提案算定法による震度を計算
してみると,これらは全て震度5弱〜5強程度となった.

今回の地震で計測震度5.0以上を記録した
K-NET, KIK-NETの強震記録による弾性加速度応答スペクトル
(2方向合成,減衰定数5%)
よって,高震度を記録した強震観測地点周辺の被害状況を調査し,提案する震
度算定法の妥当性を検証するデータを収集することが調査の主たる目的となっ
た.
地動最大加速度(PGA),計測震度,体感と被害の両方を考慮に入れた提案す
る算定法による震度(提案震度),建物被害に最も影響を与える1-2秒応答を
基に提案する算定法による震度(被害震度)を以下に示す.
これを見ると現行の計測震度では,震度6弱以上の領域が点在しているが,提
案震度では全て震度5強以下で,被害震度に至っては,ほとんど5弱以下とな
っていて,PGAや計測震度の大きさの割りには,被害は少ないことが予想され
た(そして調査の結果,その通りであることが確認された).なお,下記の震
度マップは,その後,震度計のデータも公開されたため,それらも加えて更新
しているが,全体の傾向は大きくは変わっていない.


(1) 地動最大加速度 (2) 計測震度
(主として体感のみを考慮)


(3) 提案する算定法による震度 (4) 1-2秒応答を基にした
(体感と被害を考慮) 提案する算定法による震度
(被害のみを考慮,被害震度)
K-NET, KIK-NETの強震記録を基にした
地動最大加速度,計測震度,提案する算定法による震度のマップ
※本報告は暫定的なもので随時更新していきます.ご意見等がございましたら
境までお知らせいただれば幸いです.連絡先はトップページ(リンクが一番
下に貼ってあります)にあります.
■調査地点位置

■日程および調査速報(各地点の写真一覧にジャンプします)
○5/28(水)
16:30 東大地震研の坂上実氏と合流し,筑波大学を出発.
・仙台に向かう途中で,纐纈一起氏より,地方公共団体の震度観測点の本震
記録の吸い上げができなかったとの情報が入る.
21:30 仙台市内に入る.
・地方公共団体の震度観測点の本震記録吸い上げができなかったとの情報を
受け,調査地点を見直す.記録がないと提案算定法による震度の算定がで
きないため,地方公共団体の震度計で6弱を記録した7点を調査対象から
はずし,調査地点をいくつか補充する.
・仙台市内のホテル泊.
○5/29(木)
7:30 仙台市内のホテルを出発.
8:10 JR仙台駅で新潟大の中村友紀子氏が合流.
10:00 KIK-NET小野田(震度6弱(5.51),提案算定法による震度: 5.14)
・周辺は建物の数は多くない.
・すぐ近くの体育館の外壁が剥落.
・やや離れてはいる(3km程度)が墓石が33/93=35.4%が転倒した墓地あり.
・しかしながらこの墓地に向かう途中の墓地の墓石はほとんど倒れておらず,
局所的なものか?
・屋根瓦の被害が散見.
・その他は周辺に特に被害無し.
12:00 JMA涌谷(震度6弱(5.56),提案算定法による震度: 5.51)
(JMA: 気象庁震度観測点,以下同じ)
・涌谷町役場西庁舎の入口の土間にひび割れ.
・町中にあり,周囲に建物(主として民家)の数は多い.
・周辺に特に被害なし.
13:15 JR石巻駅で東大地震研の纐纈一起氏が合流.
13:30 JMA石巻(震度6弱(5.57),提案算定法による震度: 5.25)
・地震計は,高台の上にある石巻合同庁舎の浄化槽の入った小屋の中とのこ
と.
・周辺に特に被害なし.
13:45 K-NET石巻(震度5強(5.32),提案算定法による震度: 5.05)
・地震計が設置してある石巻市立大街道小学校のガラスが22枚破損とのこと.
・大街道小学校は,1m程度の盛土の上に建設されており,地震計はその端部
に設置.
・周辺に特に被害なし.
15:40 K-NET牡鹿(震度6強(6.19),提案算定法による震度: 5.50)
・地震計は,牡鹿町立鮎川中学校の敷地内にあり,鮎川中学校は,崖上にあ
る.
・周りには特に建物なし.学校は窓ガラスの破損もなし.備品のテレビが机
から落下したとのこと.
・地震計は崖っぷちに設置.崖の高さは14,5m程度.
・地震計を設置しているコンクリートがやや傾いていた.
19:00 K-NET歌津(震度5強(5.43),提案算定法による震度: 5.03)
・地震計は崖上に設置.
・周辺に特に被害なし.
20:30 気仙沼着.
・気仙沼市内のホテル泊.
○5/30(金)
6:00 気仙沼市内のホテルを出発.
6:10 K-NET気仙沼(震度5強(5.30),提案算定法による震度: 5.05)
・地震計は気仙沼市立気仙沼小学校敷地内になり,気仙沼小学校は,高台に
ある.
・地震計設置地点の向かいの石垣に損傷があった模様.
・その他は周辺に特に被害無し.
7:30 KIK-NET陸前高田(震度5強(5.44),提案算定法による震度: 4.92)
・高台の上にある.
・周辺に特に被害なし.
8:35 JMA大船渡(震度6弱(5.84),提案算定法による震度: 5.19)
・震度計は,大船渡測候所の建物内にあり,大船渡測候所は,高台にある.
・周辺に特に被害なし.
10:15 KIK-NET住田(震度6弱(5.89),提案算定法による震度: 5.12)
・近くの畜産研究所の牛舎のブレースのボルトが破損.
・その他は周辺に特に被害無し.
11:20 遠野市役所
・正面玄関左側の柱2本が非常に高い腰壁により短柱化し,せん断ひび割れ.
・裏手の柱1本がせん断破壊.
11:40 K-NET遠野(震度5強(5.21),提案算定法による震度: 5.07)
・消防署敷地内に設置.
・周辺に特に被害なし.
12:55 KIK-NET花巻南(震度5強(5.45),提案算定法による震度: 5.27)
・地震計は田んぼの真ん中の笹間地区コミュニティ消防センター建物の横に
設置.
・敷地内の建物および隣の人家には被害無し.
・周辺は田んぼなので,建物は少ないが,やや離れると周囲に屋根瓦の被害
が散見.
15:30 KIK-NET玉山(震度6弱(5.59),提案算定法による震度: 5.04)
・地震計は,玉山村立藪川小学校亀橋分校の敷地内に設置.
・敷地内の建物に被害なし.
・周囲は森で建物はほどんとない.
17:20 新幹線高架橋
・鋼板を巻き付けて溶接する補修が進行中で,せん断破壊した柱の様子はも
う見ることができなかった.
・補修方法は,エポキシ樹脂を注入し,鋼板を巻き付けて溶接し,隙間にモ
ルタルを流し込む,とのこと.
18:55 JMA栗駒(震度6弱(5.53),提案算定法による震度: 5.40)
)
・地震計は,みちのく伝創館の敷地内に設置.
・敷地内の建物に大きな被害なし.
・周囲に建物は少ないが,特に被害なし.
20:30 仙台市内に入る
・仙台市内のホテル泊.
○5/31(土)
8:30 仙台市内のホテルを出発
9:00 JR仙台駅で東大地震研の纐纈一起氏,新潟大の中村友紀子氏と別れる.
13:30 筑波大学着.東大地震研の坂上実氏と別れる.
■まとめ
主として,大きな計測震度を記録した強震観測点(震度6弱を記録した全ての
点と5強を記録した点の一部)とその周辺(地震計設置地点から半径およそ20
0m以内)の建物被害度を調査した.
K-NETおよびKIK-NETの記録は,いずれも0.3秒程度以下の極短周期がした地震
動で,計測震度が6弱であっても,1-2秒応答相当震度は5弱程度であったた
め,被害は非常に小さいことが予想された.調査の結果,予想通り被害度は非
常に小さいものだった.
やや被害が見られたのがKIK-NET小野田(すぐ近くの体育館の外壁が剥落,や
や離れてはいるが墓石の3,4割が転倒した墓地,屋根瓦の被害),石巻(ガラ
スの破損),KIK-NET住田(近くの畜産試験場の牛舎のブレースのボルトが破
損),KIK-NET花巻南(屋根瓦の被害)であったが,どれも大きなものではな
かった.
強震観測地点の多くが高台や崖地にあり,これでは「その地域を代表する強震
記録」とは言えず,設置場所の選定に疑問をもった.田んぼの中,というもの
もあった.
■謝辞
今回記録された強震記録による弾性加速度応答スペクトル,計測震度および提
案する算定法による震度,および地動最大加速度,計測震度,提案する算定法
による震度を用いたマップは,広島大学大学院神野達夫氏に計算,作成してい
ただきました.東北大学大学院前田匡樹先生,井上範夫先生,源栄正人先生,
防災科学技術研究所松森泰造氏に,貴重な情報を提供していただきました.弾
性応答スペクトル,提案する算定法による震度の計算には,防災科学技術研究
所のK-NET,KIK-NETおよび気象庁の強震記録を使用させていただきました.
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