地震動による建物被害と震度との対応
 
今回の地震では,地盤災害,ライフラインの被害が甚大であった.しかしなが
らその一方で,地震動による建物被害は,震度の大きさの割に少ないという印
象をもった.それは,昨年の三陸南地震宮城県北部地震2001年芸予地震
もそうであった.現在の震度算定法が0.1〜1秒という短周期に重きを置いてい
るために,今回のように,短周期が卓越する地震動が発生すると震度が過大に
なってしまう.逆に,建物の大きな被害を引き起こす1〜2秒というやや長い
周期帯が卓越した地震動が発生すると震度が過小に評価される危険性もある.
 
本来の震度7は家屋の全壊が30%以上(1995年兵庫県南部地震の震災の帯),
震度6強は家屋の全壊が10〜30%,6弱でも1〜10%という甚大な被害である.
例えば,想定される東海,東南海,南海地震ではマグニチュードが8クラスと
大きく,1〜2秒というやや長い周期にパワーをもった地震動の発生する可能
性が高い.1995年兵庫県南部地震のように直下地震であっても震源メカニズム
によって1〜2秒が卓越してしまうこともある,「本物の震度6,7」が来る
前に,被害を的確に予測できるように震度算定法を再考すべきと考えている.
 
また,現在の震度算定法(計測震度)になり,震度6以上の大きな震度を記録
する回数が急激に増えている(1997年の鹿児島県北西部地震,2000年の新島・
神津島近海を震源とする地震,鳥取県西部地震, 2001年芸予地震,2003年の
三陸南地震,宮城県北部地震,2004年新潟県中越地震).しかしいずれの地震
でも短周期地震動が発生するケースが多く,震度6レベルの被害(家屋の全壊
率10%程度)は生じていない.「本物の震度6」は甚大な被害であり,「震度
6の被害とはこんなものか」という誤った認識が定着しないうちに震度算定法
を修正すべきではないだろうか?実際の被害と対応する震度算定法の修正案の
提案
を行っているので参照していただければ幸いである.
 
ちなみに波形が公開された防災科学技術研究所の震度6弱以上の観測点につい
て,今回の地震の計測震度(現在の震度),提案する算定法による震度と実際
の被害との対応関係を以下に示す.
 
       計測震度 提案震度 実際の被害
 
K-NET小千谷  7    6強   6弱(全壊家屋あり,ただし10%以下)
K-NET十日町  6強   5強   5強(全壊家屋なし)
K-NET長岡支所 6強   6弱   6弱(全壊家屋なし,中小被害多数)
KiK-net加茂  6弱   5強   5強(全壊家屋なし)
K-NET小出   6弱   5強   5強(全壊家屋なし)
K-NET長岡   6弱   5強   5強(全壊家屋なし)
※なお,震度とは「揺れの強さ」を表現する指標であるため,家屋の倒壊とは,
 地震動の揺れによるもののみを対象としており,崖崩れなどの地盤被害に伴
 うものは含んでいない(K-NET長岡支所周辺には崖崩れによる2棟の全壊家
 屋がある).
 
提案する算定法による震度は,計測震度(現在の震度)より,実際の被害と対
応していることがわかる.ただし計測震度ほどではないが,K-NET小千谷では
やや大きめの値となっている.この観測点は田んぼの中に盛り土をしたサイト
であり,やや周辺より地震動が増幅された可能性もあり,今後の検討が必要だ
ろう.
 
なお,以前と比べて震度観測点が増えたため大きな震度を記録する点が増えた
という説明は当たっていない.なぜなら,もしそうであるならばそのような観
測点の周りでは,それに対応する大きな被害が局所的に生じていることになる
が,実際に被害調査を行った結果では,そのような大きな震度を記録した観測
点周りでも対応する被害は生じていないからである.
 
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