発生した地震動の性質と予想される被害
 
本震(17:56頃)の防災科学技術研究所によるK-NET, KiK-netによる強震記録
の中で,震度6弱以上の大きな震度を記録した地点(図1)の地動最大加速度
(PGA),地動最大速度(PGV),計測震度を表1に示す(PGA,PGVは水平2方
向ベクトル合成).参考のため,甚大な被害を引き起こした1995年兵庫県南部
地震のJR鷹取,葺合(周辺でそれぞれ木造家屋の60, 20%が倒壊),および,
震度6弱を記録したにかかわらず,その周辺で被害のなかった2003年三陸南地
震のJMA大船渡
も併せて示している.また,弾性応答スペクトル(水平2方向
ベクトル合成,減衰定数5%)を図2に,加速度波形を震度6強以上を記録した
3点(K-NET小千谷,K-NET十日町,K-NET長岡支所)について図3に示す.
 
表1 計測震度(Ij),地動最大加速度(PGA,cm/s2),地動最大速度(PGV,cm/s)
 
   地震名   観測点名    code  PGA   PGV   Ij
2004年新潟県中越 K-NET小千谷  NIG019 1500.7 133.4 6.73(7)
2004年新潟県中越 K-NET十日町  NIG021 1746.5  65.6 6.19(6強)
2004年新潟県中越 K-NET長岡支所 NIG028  912.0  71.4 6.10(6強)
2004年新潟県中越 KiK-net加茂  NIGH06  412.0  28.8 5.65(6弱)
2004年新潟県中越 K-NET小出   NIG020  639.3  39.7 5.54(6弱)
2004年新潟県中越 K-NET長岡   NIG017  542.7  51.0 5.50(6弱)
1995年兵庫県南部 JR鷹取      -   742.7 161.9 6.49(6強)
1995年兵庫県南部 葺合       -   834.0 139.8 6.48(6強)
2003年三陸南   JMA大船渡     -   1106.9  32.2 5.84(6弱)
 

図1 強震観測点位置
 
    
    
図2 弾性応答スペクトル(水平2方向ベクトル合成,減衰定数5%)
 

NS成分

EW成分

UD成分
             K-NET小千谷

NS成分

EW成分

UD成分
             K-NET十日町

NS成分

EW成分

UD成分
             K-NET長岡支所
 
          図3 加速度波形
 
2003年5月26日に発生した三陸南地震と同様に0.5秒以下が卓越した短周期地震
動が多く,計測震度,PGAが非常に大きな値となっている一方で,PGVもかなり
大きな値となっている.特に,K-NET小千谷は0.5-1秒とやや長い周期が卓越し
ていて,PGAのみならず,PGVも1995年兵庫県南部地震の葺合に匹敵するもので
あることがわかる.計測震度も震度7相当となっている.K-NET小千谷,K-NET
十日町,K-NET長岡支所と1995年兵庫県南部地震のJR鷹取,葺合,および,200
3年三陸南地震のJMA大船渡の弾性応答スペクトル(水平2方向ベクトル合成,
減衰定数5%)を比較して図4に示す.
 
    
図4 弾性応答スペクトル(水平2方向ベクトル合成,減衰定数5%)
   過去の地震との比較
 
K-NET十日町,K-NET長岡支所は0.5秒以下の短周期が卓越する一方,K-NET小千
谷は0.5-1秒とやや長い周期が卓越している.しかし,建物の大きな被害に影
響を与える1-2秒を見ると,甚大な被害を引き起こした1995年兵庫県南部地震
のJR鷹取と葺合は,これらより更に大きな値となっている.
 
よって,今回の地震(本震)の多くの記録は,人体感覚,室内物品の動きに対
応した計測震度が非常に大きくなっている一方,建物の大きな被害に影響を与
える1-2秒を見ると,甚大な被害をもたらした1995年兵庫県南部地震のJR鷹取,
葺合ほどではないことがわかる.
 
今回の地震(本震)について,
 
・0.1-1秒(計測震度(人体感覚,室内物品の動き)に対応),
・0.5-1秒(建物の中小被害に対応),
・ 1-2秒(建物の大きな被害に対応)
 
3つの周期帯に基づく震度を1995年兵庫県南部地震のJR鷹取,葺合,および,
2003年三陸南地震のJMA大船渡と併せて表2に示す.今回の地震(本震)の多
くは,JMA大船渡(2003年三陸南地震)と同様,短周期地震動であり,建物の
大きな被害に対応した1-2秒震度より計測震度(人体感覚,室内物品の動き)
に対応した0.1-1秒震度が大きくなっている.これに対して,甚大な被害を引
き起こした1995年兵庫県南部地震のJR鷹取と葺合では建物の大きな被害と相関
が高い1-2秒震度が0.1-1秒,0.5-1秒震度に比べて大きくなっている.今回の
地震(本震)の多くは0.1-1秒震度が大きい短周期地震動だが,K-NET小千谷は,
0.1-1秒震度とともに0.5-1秒震度も大きくなっている.1-2秒震度も6.29と6
強相当となっているが,1995年兵庫県南部地震の葺合,JR鷹取ほどではない.
 
      表2 0.1-1秒震度,0.5-1秒震度,1-2秒震度
 
  地震名    観測点名  0.1-1秒 0.5-1秒 1-2秒
                震度  震度  震度
 
2004年新潟県中越 K-NET小千谷  6.79  6.61  6.29
2004年新潟県中越 K-NET十日町  6.03  5.24  5.24
2004年新潟県中越 K-NET長岡支所 6.15  5.74  5.75
2004年新潟県中越 KiK-net加茂  5.76  5.32  4.58
2004年新潟県中越 K-NET小出   5.58  5.02  5.02
2004年新潟県中越 K-NET長岡   5.44  4.86  4.93
1995年兵庫県南部 JR鷹取     6.10  5.78  6.63
1995年兵庫県南部 葺合      6.15  5.90  6.40
2003年三陸南   JMA大船渡   5.67  4.97  4.73
 
明日(10/25)から,これらの震度6弱以上を記録した強震観測点を中心とし
た被害調査を行う予定である.

※0.1-1秒震度,0.5-1秒震度,1-2秒震度とは
地震動の周期成分を0.1-1秒,0.5-1秒,1-2秒という3つの周期帯で「震度」
という統一の指標で見比べることができるものです.
 
0.1-1秒は現行の計測震度(人体感覚,室内物品の動き),
0.5-1秒は建物の中小被害,
 1-2秒は建物の大きな被害
 
と対応があります.0.1-1秒震度が大きければ計測震度,即ち,人が強いと感
じる地震であった,1-2秒震度が大きければ建物の大きな被害が生じる地震で
あった,などという見方ができます.詳しい計算方法は日本建築学会構造系論
文集11月号,および,本ホームページで掲載予定です.
 
謝辞
 
防災科学技術研究所のK-NET,KiK-netの強震記録を使用させていただきました.
1995年兵庫県南部地震のJR鷹取,葺合はそれぞれJR総合技術研究所,大阪ガス
より提供していただきました.JMAの強震記録は気象庁より提供していただき
ました.