震度について思うこと
 
私は,今回の新潟県中越地震,昨年の宮城県沖や宮城県北部地震,あるいはも
っと以前から,震度と建物被害が対応していないのでその算定法を変えるべき
だ,という発言をこのホームページ,あるいは,テレビ,新聞などのマスコミ,
学会,講演会など様々な場所と媒体でしてきました.そして,それを快く思っ
ていない方がいらっしゃることも認識しています.面と向かってやめてくださ
いと言われたこともあります.
 
現に地震動予測地図,ハザードマップの作成や全国に何千台とある震度計のプ
ログラム,その他,様々な防災システムが計測震度をベースに作られていて,
計測震度が変わると困るというのはよくわかります.計測震度ができてまだ10
年も経っていないのでころころ変えるわけにはいかない,というのもその通り
でしょう.
 
計測震度を批判するのは実は私の本意ではありません.地震動と建物被害の関
係に関する研究は,いろんな意味でこの10年で飛躍的に発展したと思います.
1995年兵庫県南部地震の分析が進んだこともありますし,何と言っても,防災
科学技術研究所によってK-NET, KiK-netの強震観測網が全国に整備されたこと
が大きく寄与していると思います.そういう意味では計測震度が作られた10年
前と今とでは状況が全く違います.10年前の非常にデータが少ない状況で現在
の計測震度を非常に苦労されて作られた方々に私が大いなる敬意を払っている
のは言うまでもありません.私が個人的に面識のある方も多く,日頃から慕い
尊敬申し上げている方々ばかりです.
 
計測震度自体も1秒以下の比較的短い周期をベースとした地震動強さを測る指
標として非常に有効なものです
.この周期帯はだいたい人が地震の揺れの強さ
をどう感じるかという人体感覚と対応していますので,計測震度の大きさは人
が感じた揺れの強さとほぼぴったり対応していると思います.有名な震度階級
説明文(下表)がありますが,これは「参考情報」であって厳密に対応するい
わゆる計測震度の定義ではありません.ですから5強,6弱などの震度がどの
位のものに対応しているのか,というのにこの表を引用するのは参考にする程
度に留めておくべきだと言えます.
 
            震度階級説明文


 
ただ,この震度階級説明文は非常によくできていて,難点は定性的な文章なの
でこれを定量的に「計測」できれば理想的だと思って,私はこれまでこの説明
文に書かれたことを定量的に「計測」する方法の検討を行ってきた,というこ
とになります.特に,震度6,7のいわゆる高震度は,大きな被害が生じてい
る可能性が高く,地震直後の即時対応に使われるため,実際の被害と対応する
必要があると考えていました.
 
ですが,実際に震度算定法を変えるということになると,実社会のことも考え
なければならないのは言うまでもありません.私の本意はもちろん社会を混乱
させることではなく
,今のタイミングで計測震度を変えるのがよくないという
のもよくわかります.ただ一研究者として,被害を正確に予測する方法がある
以上,それを自分に与えられた機会の中で述べるのは最低限必要なことだと思
っていました.つまり,私は微力ながら,地震によって亡くなってしまう方の
数を1人でも減らしたい,と思っているだけなのです

 
しかし,私が知らない間に想像を超える注目を浴びるようになってしまって反
響の大きさに自分でも驚いています.こういう考え方をもっている一研究者も
いる,というささやかな心づもりがいつの間にかこういうことになり,社会的
責任の重さも実感しています.私のホームページにはこの1週間ほどで2万を
越えるアクセスがありましたし,様々な人から問い合わせもあり,いろんな意
見も頂戴しました.そういう状況でもっと慎重に発言すべきだったと思います.
 
これからは震度算定法を変えるべきだ,と主張するのではなく,「1秒以下の
比較的短周期の地震動強さを表現する指標」として計測震度に言及したいと思
っています
.はっきり言ってもう疲れました.ですが,被害を的確に予測する
指標の検討は学術的には追求していくべき重要な問題であるとは思いますので,
研究活動は続けていきたいと思います.少なくとも「言論の自由」は憲法で保
証されていますので.
 
最後になりますが,今回の新潟県中越地震や過去の様々な地震で被災された方
々に心よりお見舞い申し上げますとともに,1〜2秒という建物の甚大な被害を
引き起こす周期帯にパワーをもった地震動が発生する大地震が起こらないこと
を切に願っています.
 
 
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