超縮小模型を用いた簡易振動実験手法
 
構造物は人間が作るものですが,その地震時の挙動はまだわかっていないこと
だらけです.それは地震が滅多に発生せず,またいつどこに来るかわからない
ことが大きな要因の1つだと思います.実際の地震によって構造物が大きな被
害を受けて壊れていく様子をモニターした例は未だにないのが現状です.
 
地震時の構造物の挙動を把握する非常に有効な手段の1つとして振動実験があ
ります.しかし振動実験はその実施に大きな経費と労力を要します.実際の構
造物に近い大きな試験体を作製する場合はもちろんですが,小さな縮小模型を
使う場合も鉄筋コンクリート(以下,RC)造の場合は横補強筋の間隔が非常に
細かくなってしまい,施工が非常に困難になります.
 
そこで,近年開発が進められてきた高靭性繊維補強セメント複合材料(以下,
HPFRCC: High Performance Fiber Reinforced Cement Composite)に着目しま
した.HPFRCCとは,モルタルやセメントペーストにポリエチレン繊維やポリビ
ニルアルコール繊維などの補強繊維を混入したもので,横補強筋によって拘束
されたコンクリートと類似の材料特性を示すことが報告されています.横補強
筋を配する代わりにHPFRCCを用いれば,配筋は主筋のみで施工が非常に容易に
なり,横補強筋を配する必要がないので縮小率を上げて数多くの試験体を容易
かつ安価に製作することが可能になります.
 
そこで,HPFRCCを用いた超縮小模型によってRC造を模擬し,その動的挙動の把
握,検証を行う簡易振動実験手法の開発研究を進めています.まず第一段階と
して,曲げが卓越する柱(3cm角!)を対象として実際に超縮小模型を作成し,
RC造のような剛性が徐々に低下し,履歴ループを描くような復元力特性が得ら
れるかどうかを検証しました.下図は復元力特性の一例です.RC造特有の復元
力特性が描けていることがわかります.
 


 
↑正負交番繰り返し載荷を行った場合
 


 
↑地震動を入力した場合
 
今後は様々なRC部材の想定する様々な復元力特性「メニュー」を得るための
「レシピ」の作成を行っていきたいと思います.
 
以下のメンバーで共同研究を行っています.
 
 共同研究者:真田靖士(東京大学地震研究所)
       徳井紀子(東京大学大学院)
       福山洋(独立行政法人建築研究所)
       諏訪田晴彦(国土交通省国土技術政策総合研究所)
       山内成人(東京大学生産技術研究所)
       中埜良昭(東京大学生産技術研究所)
       楠浩一(独立行政法人建築研究所)
       松森泰造(独立行政法人防災科学技術研究所)
       向井智久(独立行政法人建築研究所)
 


↑コンクリート打ちの様子.これで35体です(^^).
 


↑コンクリート打ちの様子.中央が端部スタブ,右下が端部プレート試験体)
 


↑加振の様子
 
参考文献
 
閑田徹志: 高性能繊維補強セメント材料の設計技術の現状,コンクリート工学,Vol.38,No.6,pp.9-16,2000.6.
 
福山洋, 倉本洋: スマートコンクリート−高靭性コンクリート−,コンクリート工学, Vol.39,No.1,pp.104-109,2001.1.
 
諏訪田晴彦,福山洋,梁一承: セメント系部材の履歴コントロールに関する基礎研究,コンクリート工学年次論文集,Vol.24,No.2,pp.1597-1602,2002.
 
既発表の文献
 
境有紀, 徳井紀子, 真田靖士, 山内成人, 中埜良昭, 諏訪田晴彦, 福山洋, 超縮小模型を用いた鉄筋コンクリート構造の簡易振動実験手法の開発−超小型模型による鉄筋コンクリート造の復元力特性の再現性−, 日本建築学会構造系論文集,第584号, 2004.10.
 
Tokui, N., Sakai, Y., Sanada, Y., Yamauchi, N., Nakano, Y., Suwada, H. and Fukuyama, H., Simplified Shaking Table Test Methodology Using Extremely Small Scaled Models, Proceedings of the 13th World Conference on Earthquake Engineering, 2004(printing).
 
徳井紀子, 真田靖士, 境有紀, 中埜良昭, 鉄筋コンクリート部材の復元力特性を模擬した超小型模型の挙動, コンクリート工学年次論文報告集, Vol.26, No.2, 1189-1194, 2004.7
 
徳井紀子, 山内成人, 真田靖士, 境有紀, 中埜良昭, 諏訪田晴彦, 福山洋: RC部材を模擬した超小型試験体の振動台実験, 日本地震工学会大会-2003梗概集, pp.286-287, 2003.11.
 
境有紀, 徳井紀子, 山内成人, 真田靖士, 中埜良昭, 諏訪田晴彦, 福山洋: 高靭性繊維補強セメント複合材料を用いた超小型模型試験体による簡易振動実験手法の開発(その1)研究のコンセプトと試験体概要, 日本建築学会大会学術講演梗概集 構造IV, 857-858, 2003.9.
 
真田靖士, 徳井紀子, 山内成人, 境有紀, 中埜良昭, 諏訪田晴彦, 福山洋: 高靭性繊維補強セメント複合材料を用いた超小型模型試験体による簡易振動実験手法の開発(その2)試験装置および入力計画, 日本建築学会大会学術講演梗概集 構造IV, 859-860, 2003.9.
 
徳井紀子, 山内成人, 真田靖士, 境有紀, 中埜良昭, 諏訪田晴彦, 福山洋: 高靭性繊維補強セメント複合材料を用いた超小型模型試験体による簡易振動実験手法の開発(その3)実験結果, 日本建築学会大会学術講演梗概集 構造IV, 861-862, 2003.9.
 
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