1/27'14
updated on 1/28, 2/4, 2/6 and 2/12'14
既存不適格木造家屋に高震度大加速度をもつ極短周期地震動や
やや短周期地震動を入力する振動実験

 過去の地震において,高震度大加速度をもつにも関わらず,その観測点周辺で大きな被害が見られなかったケースが数多くあります(例えば,東日本大震災).そのような地震動は,極短周期が卓越しているという性質をもっているのですが,そういった地震動を耐震性能が最低レベルの既存不適格木造家屋に入力し,実際の被害が再現できるかどうかの振動実験をつくばの防災科学技術研究所の大型震動台で行っています(共同研究者: 防災科学技術研究所 松森泰造,京都大学 五十田博,建築研究所 荒木康弘).見学を希望される方は,境(sakaixx@kz.tsukuba.ac.jp,xxを削除)までご連絡ください.

 日程は以下のようになっていますが,進行状況により多少変更の可能性がありますので,事前のご連絡の際,あるいは,このページを毎日更新しますのでご確認ください.

 1月27日(月) 加振(2003年宮城県沖の地震 JMA大船渡,極短周期地震動)
 1月28日(火) 試験体補修
 1月29日(水) 加振(2011年東北地方太平洋沖地震 鹿島台震度計←変更,極短周期地震動,2007年能登半島地震 K-NET穴水,やや短周期地震動)
 1月30日(木) 試験体解体・撤去
 1月31日(金) 予備日
 2月 3日(月) 試験体組立
 2月 4日(火) 試験体組立・計測器取付
 2月 5日(水) 計測器取付
 2月 6日(木) 加振(2011年東北地方太平洋沖地震 JMA古川三日町←変更,極短周期地震動)
 2月 7日(金) 予備日
 2月10日(月) 試験体補修
 2月12日(水) 加振(1995年兵庫県南部地震 尼崎高架橋,2007年能登半島地震 JMA輪島,やや短周期地震動,やや長周期地震動)
 2月13日(木) 試験体解体・撤去
 2月14日(金) 架台・支持架構撤去

■1月27日(月)の速報

 加振前の様子↓

 入力は,2003年宮城県沖の地震で震度6弱を記録したものの周辺で全壊・大破した建物がなかったJMA大船渡の50%,100%,150%です.150%は震度6強,加速度は1.2Gですが,建物はいわゆる既存不適格建物の中でも最低レベルの耐震性能しか有していないにもかかわらず大きな損傷はありませんでした(筋交いの引張側の釘が少し抜けたくらい).

 実際の被害が再現されるとともに,東日本大震災のように極短周期が卓越し,震度や加速度が大きい地震動で被害が生じないのは,建物の耐震性能が高いからではないことが示されました.

 加振後の様子↓(ほとんど変化なし)

 再三,このサイトで書いているように,東日本大震災のような大地震で古い木造家屋が大きな被害を受けなかったのは,耐震性能が充分なわけではなく,地震動が震度や加速は大きくなるが建物に損傷を与えない性質のものだったというだけで,同じ震度レベルでも阪神・淡路大震災のような性質の地震動が発生すれば,ひとたまりもありません.

 次は,阪神・淡路大震災のときと似た性質をもったやや短周期地震動である2007年能登半島地震のK-NET穴水(周辺の木造建物全壊率20%)を入力します.

■1月29日(水)の速報

 補修(筋交い端部の釘打ちを全て打ち直し)した後,パルス加振で周期を確認したところ,JMA大船渡50%を入れた後と同じことを確認して(JMA大船渡50%を再び入力しないで),

2011年東北地方太平洋沖地震 鹿島台震度計100%
2007年能登半島地震 K-NET穴水50%
2007年能登半島地震 K-NET穴水100%

の3波を入力しました.

 鹿島台震度計(震度6強,周辺全壊・大破率0)は,極短周期地震動で継続時間が長いもの,K-NET穴水(震度6強,周辺全壊・大破率18.8%)は,1-2応答が強いやや短周期地震動です.

 結果は,鹿島台震度計では,筋交い引張端部の釘が抜けた程度の軽微な損傷だったのに対して,K-NET穴水は,1階筋交いが座屈破断して全壊に至りました.

K-NET穴水100%加振後の全景.前面左側の筋交いが座屈して破断↓

筋交い端部の板は,実際の建物には外装材がついていて筋交いが座屈しなければ脱落しないことを再現するためのカバーで,土台,あるいは,梁のみに固定されていて,柱や筋交いとは接触していない

裏面の筋交いも前面と同様に座屈破断↓

 2011年東北地方太平洋沖地震における,震度が大きくて継続時間が長くても極短周期地震動では,耐震性能が非常に低い木造家屋ですら,軽微な被害に留まりましたが,同じ震度レベルで継続時間が短くても1-2秒が卓越した地震動では,全壊に至りました.これは,実際の強震観測点周辺の被害とも対応しています.

■2月6日(木)の速報

 2体目の試験体(1体目と全く同じで,耐震性能が最低レベルの既存不適格木造家屋)を製作後,2003年宮城県沖の地震JMA大船渡の50%を入力して,中小地震を受けた既存建物の状態を再現してから,2011年東北地方太平洋沖地震で強震観測点周りで最も大きな被害(木造建物全壊率2.7%)を受けた

2011年東北地方太平洋沖地震 JMA古川三日町100%

を入力しました.この記録は,基本的には極短周期地震動ですが,木造や中低層非木造建物の大きな被害と相関がある1-2秒の成分もある程度あって,でも振幅はそれほど大きくはないものの継続時間は長くて,低減衰では大きな1-2秒応答,でも,大変形時の等価減衰相当の高減衰下では,それほど大きくない(木造全壊率2.7%に対応した程度)というかなり特殊な地震動です.

 結果は,K-NET穴水と同様,1階の3箇所の筋交いが座屈し,全壊相当の被害となりました.詳しい解析はこれからですが,加振後の損傷度はK-NET穴水ほどではありません.ちなみに,K-NET穴水との1-2秒応答の大小関係は,5%減衰なら三日町>穴水,20%減衰なら三日町<穴水となっています.

 正面左側の筋交いの座屈破断↓

 裏面から見て右側の筋交いの座屈破断↓

 裏面から見て左側の筋交い自体には破損はないが面外変形は見られる↓

■2月12日(水)の速報

 2体目の試験体を補修し,1995年兵庫県南部地震 尼崎高架橋(震度6弱,木造全壊率2.4%)と2007年能登半島地震 JMA輪島(震度6強, 木造全壊率4.7%)を入力しました.尼崎高架橋は,1-1.5秒応答が2007年能登半島地震 K-NET穴水50%とほぼ同じであるもののスペクトルが右上がり,JMA輪島は,1.5〜2秒くらいのやや長い周期が卓越して,古い木造家屋に被害があった記録です.

 結果は,尼崎高架橋で1階筋交いの座屈破断が生じ,1-1.5秒応答が同程度の2007年能登半島地震 K-NET穴水50%より有意に大きな被害となりました.つまり,より正確な被害推定にはスペクトル形状も考慮に入れる必要があるということです.

 正面から見て左側の筋交いの座屈破断↓

 裏面から見て右側の筋交いの座屈破断↓

 補修を行い,具体的には,1階筋交いを全て取り替えてJMA輪島を入力した結果です↓

 正面から見て左側の筋交いの座屈破断↓

 裏面から見て右側の筋交いの座屈破断↓

 裏面から見て左側の筋交いの座屈破断↓

 直交方向の管柱の損傷↓

 1階層間変形は250mmと200mm程度だったK-NET穴水100%やJMA古川三日町より更に大きな最大応答,損傷となりました.建物は,既存不適格建物でも最低レベルのものですから,上で書いたように想定通りの結果です.

 なお,ここで書いた内容はあくまで速報なので,細かいところや結果の解釈などは後ほど修正される可能性があります.詳しくは,今年,神戸大で開催される日本建築学会大会で発表予定です.

上のページへ