大地震時の建物損傷度を単一加速度センサーから判定する安価な装置の開発

 研究の目的は,地震発生直後に建物の損傷度を機械的に判定できないかということです.現在,建物の損傷度判定は,応急危険度判定によって人海戦術で行われていますが,大地震になると判定を終えるのに数週間から1か月程度を要することもあり,それでは本震で大きな損傷を受けた建物が余震によって倒壊し人命の損失に繋がってしまうことを回避できない可能性があります.

 このいわゆる「損傷判定」の研究は,様々な研究者によって精力的に行われていますが,建物のベースと上部の2箇所(以上)にセンサーを設置するのが基本です.それは,建物の損傷度は,建物の応答/地震動の入力によって決まるからですが,複数のセンサーを使うとそれを繋いでデータを集めて計算をしないといけなくなりそれなりの装置と費用がかかってしまいます.

 そこで,単一の加速度センサーを建物上部に取り付けることで,損傷判定ができないかということになります.建物が損傷を受けると周期が伸びるのでそれを捉えることで損傷度を判定できる可能性があります.かなり安価で高性能の加速度センサーが開発されていますので,処理部などの回路もMEMSで組んでしまえば,原価数千円程度で装置を作成することが可能です.

 この研究もいくつか見られますが,落とし穴があって,上部の揺れは,地震の揺れと建物の揺れが重なったものですので,長周期地震動のような周期が長い揺れが入力すると,それが損傷によって建物が長周期化したのか,入力が長周期なのかが区別できません.

 そこで,地震終了後,建物が自由振動することが使えないかと考えました.地震の揺れが収まった後も,建物はしばらく揺れ続け,そこには地震の揺れの影響はないので建物が損傷によって長周期化していれば,それを捉えることができるのではないかということです.

 ポイントは,地震の終了をどうやって判定するかです.地震が終了して自由振動になるとサイン波に近くなってフーリエスペクトルのピークが鋭くなるので,この尖鋭度から地震終了を判定し,フーリエスペクトルのピークの位置から周期を計算して損傷度を判定しようというものです.

 問題は,地震終了の尖鋭度の閾値をどう設定するかで,閾値を大きくし過ぎると振幅が小さくなってしまう(センサーの感度との兼ね合い),閾値を下げ過ぎると地震がまだ終了していなくて,地震の揺れの影響が入ってしまうということになりますが,いくつかの実大振動実験などから最も正確に損傷度を推定できる閾値を決定しています.あるいは,装置に調整機能を付けることも考えられます.

 この研究は大学で特許を取得していますが,使用を制限するつもりは全くないので,装置を実用化してみたいという場合は,ご連絡ください.

論文: 田中佑典, 境有紀, 建物に取り付けた単一加速度センサーから大地震時の建物損傷度を判定する方法に関する研究 (その1) 縮小模型振動実験のランニングスペクトルを用いた変形角の推定, 日本建築学会大会学術講演梗概集,構造II, 31-32, 2007.8.
 田中佑典, 境有紀, 建物に取り付けた単一加速度センサーから大地震時の建物損傷度を判定する方法に関する研究 (その2) 地震動の周期による判定結果への影響と地震終了後の自由振動, 日本建築学会大会学術講演梗概集,構造II, 263-264, 2008.9.
 汐満将史, 境有紀, 建物に取り付けた単一加速度センサーから大地震時の建物損傷度を判定する方法に関する研究 その3 実大木造建物振動実験データを用いた地震前後の周期の伸びによる最大変形角の推定, 日本建築学会大会学術講演梗概集,構造II, 1017-1018, 2010.9.
 汐満将史,境有紀,単一の加速度センサーを用いた地震前後の周期の伸びによる建物損傷度の推定,第13回日本地震工学シンポジウム論文集,2010.11.
 中井久美子,汐満将史,境有紀,建物の損傷度判定を目的とした自由振動を捉える方法と建物固有周期を推定する方法の検討,日本建築学会大会学術講演梗概集,構造II,973-974,2015.9.

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