震度や地震の揺れと被害に関する基礎知識

 震度や地震の揺れと被害に関した簡単な基礎知識について書いておこうと思います.

 まず,地震の揺れの強さを表す指標として,震度が用いられますが,これは,自治体が設置した震度計でとれた記録を基に計算して気象庁が発表しているもので,こちらに詳しく書いていますが,「人がどれだけ強い揺れだと感じるか」を測っています(現在の計測震度ができる前,人が体感で判定していたことに由来します).

 普通に考えれば,人が強い揺れと感じるのなら,建物被害も生じると考えがちですが,そうはならないことが多いです.それは,人が感じやすい周期(0.1-1秒)と,建物が大きな被害を受ける周期(1-2秒)が異なるからです.人が感じやすい0.1-1秒だけが出るケースが多い(全体の80〜90%くらい)ので,そういう場合は,震度が大きくても建物被害はさほどでもないことになります.

 一方,全体の10〜20%くらいは,1-2秒が出るので,注意が必要です(例えば,1995年兵庫県南部地震や2016年熊本地震の益城町).つまり,全体80〜90%の震度だけが大きくなる地震で,被害が小さくて済んでも安心してはいけないということです.

 どういう周期の揺れかは,応答スペクトルを見ればわかります.応答スペクトルは,横軸が周期,縦軸が揺れの強さを表していて,下図の一番下の地震波形が様々な周期の振り子に入力したときの最大値を線でつないだものです.

 わかりやすい例として,2011年東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)で震度7を記録したMYG004(築館)(全壊率0)と1995年兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)のJR鷹取(震度6強にも関わらず全壊率59.4%)を比較したのが下図です.築館は1秒以下の短周期が卓越している一方で,JR鷹取はスペクトルの1-1.5秒程度の値が大きくなっていることがわかります.

 そして,応答スペクトルにおける1-2秒の大きさと被害の大きさが対応するので,その部分(下図の緑の四角の部分)を見るとJR鷹取は,築館の5倍以上になっていて,1-2秒応答の大きさが被害と相関があることがわかります.

 じゃあ,どうして築館が震度7でJR鷹取が震度6強だったかと言うと,震度は人体感覚と対応した0.1-1秒(下図の緑の四角の部分)を測っているからです.

 このように,地震動のどの周期成分が大きいかによって,起こる現象も異なってきます.1秒以下の成分が大きいと,人が強い揺れだと感じるので震度が大きくなります.また,屋根瓦がずれる,ブロック塀が倒れる,室内物品が動く,ひび割れが入るなどの被害が増えます.斜面崩壊などもこの周期成分の影響が大きい1)という検討結果があります.

 1-2秒の成分が大きいと全壊・大破といった建物の大きな被害につながります.1-2秒の根拠は,過去の被害を説明できるということもありますが,物理的背景として,木造,10階建て以下の非木造といった多くの建物の周期は,0.2〜0.5秒程度ですが,大きな被害を受けるときに周期が伸びて1-2秒程度になる,ということがあります.

1) 神田和紘,境有紀,地震による斜面崩壊と地震動の周期帯の関係の検討,第13回日本地震工学シンポジウム論文集,2010.11.

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