木造,鉄筋コンクリート造建物の実耐力

 ある方から木造と鉄筋コンクリート造の実耐力はどのくらいなのか?という質問というか投げかけがあり,いい機会なので現状わかっている範囲でまとめてみたので,ここで公開しておきます.

 まずは木造ですが,参考にしたのは,

境有紀, 飯塚裕暁, 非線形地震応答解析による地震被害推定を目的とした平均的な木造建物群モデルの構築, 日本地震工学会論文集, 第9巻, 第1号, 32-45, 2009.2.

で,これは木造建物の微動計測結果を基に耐力分布を作成したのですが,その際,降伏点剛性低下率αyが必要になる(つまり,降伏点剛性低下率αyがわかれば,単純な物理式で周期を耐力に変換できる)のですが,このαyと全壊するときの塑性率を変化させ,復元力特性モデルを木造建物の挙動を再現するようにTakeda-slipモデルを修正したモデル(飯塚裕暁, 境有紀, 木造建物における一自由度系地震応答解析のための復元力特性モデルの提案, 日本地震工学会論文集, 第9巻, 第1号, 113-127, 2009.2.)で一自由度系の非線形建物群を作成して地震応答解析を行い,研究室で収集した強震観測点回りの被害と比較したものです.

 この論文のp.42の図13で,一番上にある耐力分布を見ると,強震観測点回りの被害を説明できるαyが0.2〜0.3のところを見ると平均でベースシア係数0.6くらいに見えます.この後,検討が進んでいて,変動係数は,0.2〜0.3程度で,αyは0.3だとちょっと大きくて0.2くらい(その分,許容塑性率が大きくなる)ということを考えると,0.5±0.1(±は変動係数幅σ)といったところでしょうか.

 一方のRCですが,

熊本匠, 境有紀, 鉄筋コンクリート造建物の非構造部材を考慮した実耐力分布, 日本建築学会大会学術講演梗概集,構造II, 311-312, 2007.8.

の図5を見ると3階建で1.0±0.3,12階建で長戸川瀬も参考にすると0.5±0.1といったところでしょうか.

 弾性周期は,木造が2階建てで0.2〜0.5秒,RCも3階から12階程度だと同様の範囲だと思いますが,木造の場合は,RCと違って単一材料の構造,つまり,周期と耐力に依存性があって,耐力が高い建物は周期が短く,低い建物は長いということで,

境有紀, 飯塚裕暁, 非線形地震応答解析による地震被害推定を目的とした平均的な木造建物群モデルの構築, 日本地震工学会論文集, 第9巻, 第1号, 32-45, 2009.2.

のp.42の図13は,それを含んだ分布ということですから,RCのように階数(周期)ごとに分布しているのではなく,周期が長いところの耐力が低くなることを考えるとRCのように右下がりになると思います.

 ということで,ざっとですがこんな感じじゃないかと描いたのが以下の図です.

 次に,これを応答スペクトルと比較して実際の被害と対応しているかどうかを見るのですが,上の図は「弾性周期とベースシア係数の関係」ですから,これと比較するのは,弾性加速度応答スペクトルではなく,必要耐力スペクトルということになります.必要耐力スペクトルは非線形の収束計算が必要なのですが,弾性加速度応答スペクトルを周期の伸びと塑性化による減衰の増大で大まかに描くことができて,具体的には,ざっくり周期の伸びが5倍(αyが0.25で,全壊大破するときの塑性率が6だと割線周期で4.89倍),塑性化による等価粘性減衰が20%として,最も簡単なheq=1.5/(1+10h),heqは減衰定数5%からの低減率,hは減衰定数を使うと0.5倍となるので,これを使って,弾性加速度応答スペクトルを縦に1/2,横に1/5縮めれば,大まかな必要耐力スペクトルを求めることができます.

 これと逆のことをすれば,つまり,上の図の「弾性周期とベースシア係数の関係」を縦に2倍,横に5倍拡大すれば,弾性加速度応答スペクトル(h=0.05)と比較することができます.これは即ち上の図の縦軸と横軸を読みかえればいいわけで,矢印の先が読みかえた数字です.

 これに1995年兵庫県南部地震のJR鷹取と2011年東北地方太平洋沖地震のK-NET築館の弾性加速度応答スペクトルを描いてみたのが黒い線です.

 このように非常に大雑把な計算ですが,JR鷹取では,多くの木造が全壊,RCも耐震性が低いものは大破するのに対して,K-NET築館はほとんど何ともないと,実被害を説明できる大小関係になっています.

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