どうして1-2秒が出ると建物に大きな被害が生じるのか

 大きな地震が発生し,震度7や6強といった強い揺れが起こると建物の大きな被害に繋がる場合もありますが,繋がらないことの方が多いです.その割合は,繋がらない場合が8〜9割で,繋がるのは1〜2割です.1995年兵庫県南部地震や2016年熊本地震の益城町,2024年能登半島地震の穴水,輪島,珠洲では,その1〜2割のことが起こってしまったことになります.このことが意味することとしては,震度の大きさだけを見ていると,被害が出ているかどうかの判断を見誤る可能性が大きいということです.

 では,どうしたらいいかですが,周期1〜2秒の成分がどれだけ出ているかを見る必要があるということになります.このことは,もう何十年も前から申し上げていて,2004年新潟県中越地震のあたりで,認めてもらえるようになり,最近は,かなり浸透してきていると思います.

 それは,1-2秒で実際の被害の有無を説明できるという「論より証拠」ということが大きいですが,物理的背景も明確で,「非線形共振」が起きているということです.注意すべきは,「非線形共振」とあるように「共振」ではないということです(このことを間違って説明されている方が多いので,筆をとっています).

 なぜなら,木造家屋や10階建て以下の非木造中低層建物といったほとんどの建物の弾性周期は,0.2〜0.5秒なので,共振で建物が被害を受けるのなら,この周期の成分が多い揺れ,具体的には,東日本大震災や2024年能登半島地震で震度7を記録したK-NET築館(栗原市震度計)やK-NET富来(志賀町)などの,極短周期地震動で,大きな被害が生じるはずですが,実際は,これらの観測点周辺では,全壊・大破といった大きな被害は全くありませんでした.

 では,「非線形共振」というのは,何かというと,建物が全壊・大破するときの周期(この周期が弾性周期から5倍程度伸びることも構造実験からわかっています.0.2〜0.5秒を5倍するとだいたい1-2秒になります)で「共振のようなこと」が起こるということです.つまり,建物は,壊れる前から壊れた後の周期に反応して揺れるという直感的には理解しがたいことが起こっているのです.何とも不思議な現象ですが,非線形の微分方程式を解くと,ちゃんとそういう解が出てくるので,これが違うということは,ニュートン力学や微積分といった解析学が間違ってるということになってしまいます(さすがにそれはないでしょう).

 このことを建築構造の人に話すと,なるほど,まずは,0.2〜0.5秒の成分で少し壊れて周期が伸びたところに1-2秒が来ると大きく壊れるんですね,と言われるのですが,それも違っていて,0.2〜0.5秒の成分は,「要らない」のです.極端な話,1-2秒の成分「だけ」もった地震動,例えば,1-2秒のサイン波が来ても弾性周期が0.2-0.5秒の建物は,一瞬にして大きな被害を受けるわけで,実際,1995年兵庫県南部地震で発生した地震動は,そのような周期1-2秒のパルスでした(いわゆるキラーパルス).

 この「非線形共振」ですが,直感的には,理解しがたい現象なのですが,機械系の人に話すと,すんなり受け入れていただけるというか,機械系では,常識らしいです.

 詳しくは,もう10年以上前(2009年)に日本地震工学会の会誌(p.12からの記事)に書いたので,そちらをご覧ください.

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