A1. 私も最初はそう思っていました.しかし,今の社会的状況を考えると,震度を変えるのが現実的だと思うようになってきました.

 理由を述べる前に,まず,変えようとしているのは現在の計測震度であって,震度そのものではない,ということを申し上げておきたいと思います.むしろ,本来の震度から乖離してしまった,現在の計測震度を本来の震度に戻してやろうというのがその主旨なのです.

 さて,震度(現在の計測震度)を変えるべきと考えている理由ですが,1番大きな理由は,震度が現実として地震防災に使われている,ということです.例えば,震度6弱以上を記録すれば,首相官邸に災害対策本部が設置され,地方自治体の防災対策も多くが震度に基づいています.世間を賑わせている東海地震,東南海地震の地震危険度確率予測地図も震度マップが中心になっています.それは即ち,震度が被害と相関をもっている,というのが前提になっているわけですが,被害が生じる震度6,7レベルでは,現在の計測震度は被害と相関がありません.実際,2000年の新島・神津島近海における地震,鳥取県西部地震では,震度6弱を観測しては,災害対策本部設置し,NHKでは緊急番組を流しはじめ,しかし,調査してみると被害は震度6弱で想定しているレベルではなかった,ということが繰り返されました.

 被害がなかった,つまり現在の震度が安全側ならそれでいいじゃないか,という人もいるかもしれませんが,そういうことを繰り返していると,狼少年のように.震度6弱って大したことないんだな,ということに必ずなります(実際,そういう声もちらほらききます).本当は震度6弱は木造家屋の1〜8%が倒壊するレベルなのです.

 全体をシフトしたらいいのでは?(震度6弱を震度5強に,震度6強を震度6弱に)ということ言う人もいますが,とんでもありません.今の震度は精度の悪さを安全率でカバーしているので,そんなことをすると,震度5強,震度5弱なのに大きな被害が生じてしまう,といった一番避けなければならない事態が起こる可能性があります.被害を正確に予測できる指標があるのに,面倒だから予算がかかるから運用し始めてまだ時間が経っていないからなどと言って,今の震度を使い続ける,というのは,行政の怠慢だと言われても仕方ないと思うのですが...

 2つ目の理由は,指標が複数あるのは社会的混乱を招く,ということです.震度の他に「被害指標」のようなものを作り,震度を単に人が感じる揺れの強さを表すものですよ,ということにして,地震直後の対応は,この「被害震度」で行ってください,ということになると,逆にじゃあ震度の目的はなんなの?ということになり,混乱を招くと思います.

 3つ目の理由は,震度は一般の人にも非常になじみがあるもので,例えば震度5は,揺れは大きいが被害はそんなにない,震度6はかなり被害が出る,震度7は1995年兵庫県南部地震のような壊滅的な被害だ,という認識はかなり浸透しています.旧震度(本来の震度)は,低震度では人の感覚や室内物品の動き,高震度では被害,となっていて,確かに制御が難しいですが,非常に理にかなった考えで,指標をどれか1つだけ,というのなら,震度は最も適切な指標と言えるのではないでしょうか.

 4つ目の理由は,過去の震度との連続性です.1995年以前の震度6以上は,主として被害で定義されていて,今の計測震度は,高震度で被害と対応していない,ということは,今の計測震度は旧震度との連続性が失われていると言えます.旧震度が運用されたのは,戦後になってからですが,歴史地震の貴重な資料は,旧震度が運用されている時期に作成されたので,その震度も全て旧震度に基づいたものになっています.つまり,ここわずか5年くらいの震度は過去数百年の震度と異なるということになります.ただしQ2で後述しますように,建物の耐震性能は戦後飛躍的に向上したので,建物の建設年代によるキャリブレーションは必要となります.

 過去との連続性を維持するために,震度は変えちゃだめだ,という意見もいただきました.それはその通りで,そうであるからこそ,旧震度と乖離している今の計測震度を旧震度に戻す必要があり,提案する震度は,旧震度に対応することを目指しています.

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