A3. まず提案する震度は高震度が1〜2秒の,低震度が0.1〜1秒の弾性応答を基にしていますので,地震動が決まれば全く一意的に決まります.即ち,現在の計測震度と同様に全く「入力」のみから決まります.

 ただし1〜2秒という周期帯は,1993年釧路沖地震以降の強震記録+周辺被害データを基に決められている(強震記録と周辺被害データ双方が揃っているのは1993年釧路沖地震以降しかありません)ので,ほぼ現在の建物の耐震性能に基づいていると言えます.1〜2秒応答と震度の対応(例えば,1〜2秒応答が具体的にいくつの時に震度6弱とするか,即ち,震度の被害関数)も同様です.ですから,将来建物の耐震性能が向上すれば,例えば提案する震度で想定している,震度7(6.5以上)は被害率30%,震度6弱(5.5以上)は被害率1%以上といった被害率の数字は減少していくでしょう.1〜2秒という値も見直しが必要になるかもしれません.ただ,建物全体の耐震性能や周期分布が急激に変わるとは考えられず,改正の目安と言われる10年ごとに見直していけばいいのでは,と考えています.

 ただ問題なのは,歴史地震の震度との対応です.歴史地震の記述は当然,地震発生当時の被害に基づいていて,当時と現在の建物の耐震性能は明らかに異なりますので,歴史地震の震度は,提案する震度とは対応していません(しかしそれは,現在の計測震度も同様です).つまり,A1で述べたように建物の耐震性能の建設年代によるキャリブレーションが必要となります.建物の耐震性能が向上したのは戦後になってからであり,戦前は一律と考えてもいい,という意見もあり(鹿島武村さん談),現在,対象とする建物の耐震性能が戦前の建物であったら,提案する震度がどのようになるのか,あるいは,震度の中に建物建設年をパラメタとして含めることの作業を進めています.ただ,建物建設年には,建物の老朽化と耐震規定の改正という2つのファクターが含まれており,また,例えば現存する古い建物は,耐震性能が優れているからまだ残っているものもある(東大生産研目黒先生談*)などという要因もあり,問題は単純なものではありません.

 歴史地震の震度との整合性はもちろん重要ですが,これからの地震防災を対象とするのであれば,当面現在(具体的には1990年代)存在する建物を対象とする,ただし10年ごとに見直していく,というのでとりあえずはいいのではないでしょうか?明日,いや今日にでも大地震が日本のどこかで起こってもおかしくないような状況で,今の計測震度では被害状況の把握を誤る可能性が高く,一刻も早い対応が必要と考えています.そういう大地震が来たら,主張が正しいことが証明されるよと,と言ってくださる方もいらっしゃるのですが,それでは遅いのです.

*この部分に関して,目黒先生から詳しいコメントをいただきましたので,ここに掲載させていただきます.目黒先生ありがとうございました.

 <目黒先生のコメント>
 現存する古い建物の耐震性は全体として低いわけではなく,著しく低いグループと,それなりに高い耐震性を有するグループに分類される.前者は説明の必要もなく,老朽化が進んだ低品質の建物である.問題は後者であるが,現存する古い建物の中に耐震性能に優れているものが少なくないわけは,それらの建物が現在まで残っている理由として,それらがいい材料を使って,しっかり建てられていること,またメインテナンスがいいなどが挙げられる.このような建物は,結果的には耐震性能にも優れている.つまりこれらの古い建物は,様々な意味での性能がいいから,状況がいいから残っていると言うでことある.そして,このように性能や状況がいいものが現存する同じ年代の建物全体に占める割合は,建物群の築年が古くなるほど大きくなる.

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