A5. まず,現在の計測震度の算定方法は非常に複雑で理論的背景も明確ではないと思います.具体的には,波形をフーリエ変換,フィルター処理,逆フーリエ変換,これを3成分で行ってベクトル合成し,その地動最大加速度を河角式に代入し,更に継続時間を考慮した修正を行う,という非常に複雑なものです.プログラムも1000行近くに達します.一番重要な意味をもつのはフィルターですが,その設定根拠もよくわかりません.実際,震度改正作業中に1995年兵庫県南部地震が起こり,震度7の震災の帯の境界に位置する葺合の記録を説明できるように,フィルターの修正がなされたという話をきいたことがあります.

 これに対して,提案する震度は,1〜2秒における水平2成分合成の平均弾性応答スペクトルを求め,その値を簡単な1次式に代入するだけです.弾性応答スペクトルは,地震動の性質を見るのに非常によく使われていて,一番なじみのあるものでしょう.弾性応答スペクトルが必要なのでパソコンとプログラムが必要となりますが,それは現在の計測震度も同じです.プログラムの長さはわずか100行程度で現在の計測震度より遙かに短く,計算時間もパソコンで0.5秒程度ですから一瞬です.

 どうして1〜2秒なのか,ということに関しても,強震記録と周辺被害データから求めるとそうなった,という結果だけではなく,日本の建物を調べてみると,その50%が木造家屋,30%を占める鉄筋コンクリート造建物もその大半が中低層(10階以下,10階建ての鉄筋コンクリート造建物の弾性周期がほぼ0.5秒)で,その周期分布は非常に特定の周期,具体的には0.2〜0.5秒に8割集中していて,1〜2秒は,それらの建物が壊れるときの周期,いわゆる等価周期に対応し,物理的意味も非常に明確です.

 さすがに,地動最大加速度,地動最大速度ほどシンプルとは言えませんが(ちなみにスペクトル強度とは,着目する周期帯が異なるだけで,シンプルさでは全く同じです),地動最大加速度は被害との相関が全くないのは今や常識ですし,地動最大速度は,地動最大加速度に比べれば被害との相関は高いですが,1999年台湾集集地震で300cm/sもの大速度を記録したにもかかわらず,被害レベルは中程度だったことなどから,5〜10秒の非常に長周期が卓越する地震動が発生したときに判断を誤る可能性があります.そんな長周期地震動が日本で発生するのか,ということですが,関東平野などの堆積盆地でそのような地震動が発生することが強震動研究者によって予測され,実際に観測もされています(例えば消防研の座間さん,東大地震研の纐纈先生,工学院大の久田先生など).

 また地動最大速度は,実際に求めるのに問題があります.現在設置されている強震計のほどんどは加速度計で,地動最大速度を求めるのには波形を積分する必要があります.しかし,記録には必ずと言っていいほどノイズが含まれ,原記録をそのまま積分すると,ノイズが蓄積して速度波形は正しく得られません.ノイズを1つの決まったやり方で除去するのは,非常に難しく,強震計によって3本折れ線で近似したり,移動平均を使ったりなど,試行錯誤でやっているのが現状です.1〜2秒応答は,0.5秒以下の短周期に比べてその地震応答は安定しており,いろんな付帯条件に左右されない,というメリットもあり,記録にノイズが少々はいっていてもその値はほどんど影響を受けません.

 地動最大速度,地動最大速度にはシンプルさに加え,純粋に入力のみから決まるという理論的美しさがある,という人もいます.でも私が考えるに,地震防災に使うわけですから,最も重要なのは,理論的美しさではなく,被害と合うかどうかなのではないでしょうか?

前のページへ