A12. これは震度の定義,即ち,例えば震度6弱はどういう被害がどれだけ出るのかという定義の問題であり,どう定義すべきかという問題でもあります.

 震度は,震度計が設置されている市町村の値として発表されていますが,厳密には震度計が置いてある「点」の値でしかありません.しかしそれでは地上に無数に震度計を設置する必要があり,そんなことは事実上不可能なので震度計の周りの「ある程度の広さ」を震度計が置いてある点とほぼ同じ揺れと見なすことにしています.問題はどの程度の広さを同じ,あるいは同程度の揺れと見なせるかでしょう.

 これを一意的に決めるのは難しいのですが,数百m離れると全く異なる揺れをすることもあるので,一応半径200m以内を同じ揺れとみなすことにしています.半径200mという広さはその中に被害率を計算できるだけの統計的に充分な数の家屋が存在することが多い,ということもあります.

 つまり被害調査は,地震計が置かれていて地震の記録が取れた強震観測点の周り,半径200m以内が対象としています.ですから,大きな被害が無い,という記述は,強震観測点の周り半径200m以内のことです.

 また大きな被害とは,「人命を損なう可能性がある」被害を想定し,家屋の倒壊としています.自治体の罹災調査ではなく,自分の目で見て判断しています.今回の地震では,強震観測点の半径200m以内には幸いにもそのような被害を受けた家屋はありませんでした.震度6弱は,倒壊家屋が1〜8%,6強は8〜30%というのが定義で,震度6の被害レベルになるには,倒壊家屋が存在することが条件になりますから,倒壊家屋がなければ被害レベルは震度5以下となるわけです.

 震度の定義は,防災上非常に重要な問題を多く含んでいて,それ自体が研究の対象にすらされています.震度の定義のよりどころとなっているのは,1996年の計測震度以前の震度判定の表です.

表1 震度の定義

 この表を見ると,震度が大きくなるに従ってその対象が「人体感覚→室内物品の動き→建物の中小被害→大きな建物被害」と変化していることがわかります.人体感覚は0.25秒,室内物品は0.5秒,建物の中小被害は0.5〜1秒,大きな建物被害は1-2秒の地震動の揺れと相関が高く,表1を計算で再現するには,震度の大きさに従って,対象とする地震動の周期を変化させなければならず,それが本来の震度の再現が難しいとされている理由です.実際,現在の計測震度は,対象とする地震動の周期を0.1-1秒と固定してしまっているので,短周期のみに比重が置かれ,地震動の1-2秒の揺れと相関がある大きな建物被害を再現できなくなっています.

 しかし,もし震度が大きくなるに従って「人体感覚→室内物品の動き→建物の中小被害→大きな建物被害」と対象,即ち,地震動の対象周期帯を変化させることができれば地震動の強さを「1つの」指標として表現するものとしては理想的なものと言えるでしょう.提案する震度算定法はそういうものを目指しています.なぜなら,震度5以下では大きな建物被害は全く生じず,一方,人体感覚は震度4〜5で頭打ちになる(それ以上揺れが大きくなっても人には区別できない)と言われており,対象を限定するとカバーできる震度の範囲も限定されてしまうからです.

 また,表1の震度の定義はコンセプトとしては理想的なものですが,もちろん完全なものではなく,震度は本来どうあるべきかという観点から見直しも必要と考えています.例えば,人体感覚は震度4〜5で頭打ちになると言われていますが,表1の震度5,6には,人体感覚の記述が残っています.具体的な数字が書いてあるのも震度7の家屋の倒壊30%だけです.

 しかし,震度6の判定にはやはり倒壊家屋の存在が不可欠と考えています.倒壊家屋の存在とは,たまたまとても古い家屋や施工不良のものが倒壊するという偶然性を排除するために有意に必然として存在する量として1%以上としています.震度6強だと8%以上です.8%というとさほどでもないと思われるかも知れませんが,例えば半径200m以内に家屋が500棟あったとすると40棟倒壊ですので,そこかしこに倒壊してしまった家屋が存在するというレベルです.

 震度6の上には震度7しかありません.震度7の家屋の倒壊率30%というのは,現場に立てばわかりますが,はっきり言って壊滅状態です.例えば私がこの目で見たものには,1995年兵庫県南部地震で最も被害が大きかった「震災の帯」の中,1999年台湾集集地震の中寮がそうでした.震度6というのは,それに次ぐ被害レベルなのです.残念ながら亡くなる方もかなりの数出てきてしまうと思います.

 揺れの強さが今まで経験したことがないほどものすごいものであったとしても,それ「だけ」で人が死ぬことはありませんが,家屋が倒壊すれば中にいる人は亡くなる可能性があります.震度6というのは,そういう被害レベルなのです.

 2003年5月26日に発生した宮城県沖を震源とする地震や7月26日に発生した宮城県北部を震源とする地震,特に7月26日に発生した宮城県北部を震源とする地震では,非常に狭い範囲でしたが,かなりの被害がありました.でもこれでやっと震度5レベルなのです.つまり震度5でもかなりの被害レベルということなのです.

 1996年以前は震度5という発表があると驚いて被害調査に出かけたものです.1996年以降は震度6の大バーゲンセールです.震度観測点が増えたとは言え,明らかに1996年以前と以後では震度が不連続になっています.震度6の上には震度7の「壊滅状態」しかなく,「壊滅状態」の次のレベルが頻発するのはどう考えても不自然で,早く本来の震度に戻すべきだと考えています.

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