第1回震度研究会議事録
作成:神野達夫
1. 日時:平成15年3月25日 14:00〜17:30
2. 場所:東京大学 地震研究所 第3会議室
3. 配布資料:
・新しい震度階級の話(北川)
・東濃地震科学研究所報告Seq. No.4 地震防災の数理化に関する総合研究
(1)−報文・文献資料集録−(太田)
・組合せ震度の提案・定式化とその応用について(清野)
・計測震度の工学的吟味と組合せ震度導入の意義(清野)
4. 出席者:
太田裕、神野達夫、北川良和、清野純史、工藤一嘉、纐纈一起、境有紀、
翠川三郎(五十音順敬称略)
5. 打合せ内容
(A)研究会の設立経緯・概要について境、ならびに纐纈より説明があった。
・本研究会のメンバーは、本日ご欠席の岡田成幸、武村雅之、林康裕、目
黒公郎(五十音順敬称略)を含め、12名である。
・研究会開催の頻度は特に決めず、メンバーの方々の予定を考慮してでき
るだけ多くの方々の参加できる日を選ぶこととする。
・研究会の名称は「震度研究会」とする。
・予算措置は「大都市大震災軽減化プロジェクト」から受けられることに
なっている。
(B)研究会を進めるにあたっての方針として
・「震度」というキーワードにしたがって、自由闊達な意見交換ができる
ことが望ましい。(境)
・震度は分かり易く身近なものなのでコンセンサスを得ることが大切であ
るが、最終的に気象庁を動かすのは容易ではない。そこでまずは研究者
の間で十分な議論を行い、気象庁の動向を見ながら進めるべきであろう。
(纐纈)
・境がメンバーである目黒が主催する研究会で気象庁長官に直訴したこと
もあり、気象庁も勉強会を立ち上げようとしている。(纐纈)
・この研究会は論理的な検討を行う内向きの議論と活用を促すような外向
きの働きかけの両輪を大事にすべきであるが、とりあえずは別々に考え
るべきである。(太田)
(C)北川より「現在の計測震度の成立経緯について」の話題提供があった。
・太田より震度問題研究会(1995年3月発足、座長:宇津徳治)の概要に
ついて補足説明があった。
>現行の計測震度算定方法を発表する際にはそのアルゴリズムや用いる
パラメーターの公開、あるいは非公開について様々な議論があった。
(太田)
>国の方針として現行の計測震度算定方法は変えることができないが、
震度の意味を解説した「解説表」は変更が可能である。(太田)
>気象庁、実務担当者、研究者の間には温度差があるので、あまり気象
庁の動向を気にしすぎると自由な議論ができない可能性がある。
(太田)
>本来、計測震度は点の情報であったが、各省庁の思惑が様々に絡むこ
とによって広がりを持ったいわゆる面の情報になってしまった。
(太田)
・震度の算定方法は出力の情報から決められていた旧算定方法から入力情
報から決められるものへとシステムそのものが変わったのではないか。
(工藤)
・境らの方法は「解説表」に計測される震度を合わそうと試みている。
(工藤)
>本来、震度を計測するのが目的であるならば入力情報だけで決めるべ
きであるが、可能であるならば現状の「解説表」にも合わせた方がい
いのではないか。(境)
・従来の震度との継続性を考えた上で計測震度算定に必要なパラメーター
が決められていると判断していいのか。(清野)
・境らの方法は、もとになるデータの少なさなどが影響して計測震度算定
に必要なパラメーターが的確でないと考えられるため、その代案として
新たにこのパラメーターを提案したものなのか?(清野)
>震度算定方法そのものを提案しているが、突きつめて言えばどのよう
なフィルターを用いて1つの指標に集約するかが問題である。(境)
・現行の計測震度は、6弱と判定された際に6強の被害はないというよう
に安全側に設定されている傾向がある。(境)
>被害の大きくなるような震度帯域では情報が少ないので必ずしも被害
とよく対応するわけではない。そのため安全側なるようにというよう
な処理が行われたのではないか。(太田)
>しかし、震度を用いて防災対策が立てられているのが現状なので、や
はり被害との対応は重要である。そもそも、震度とは何なのかという
議論も必要なのではないか。(境)
>「震度は防災の基本情報として非常に有用である」というのも気象庁
の見解の1つである。(太田)
>今までの継続性もあり、かつ入力だけで決まるような計測震度があれ
ばよいのではないか。(境)
・次に震度7に相当するような被害が出ないと震度算定方法の見直しとい
う話は出てこないのではないか。(太田、翠川)
・気象庁が震度を改正しようとした場合に代替案をすぐに出せるように準
備をしておくことには大きな意義がある。(翠川)
・震度は変わったという認識のもと、それに対応する行政の仕組みなどを
変えるような研究は必要ではないのか。(纐纈)
>これは震度と被害対応用の指標と2つの指標が存在することになり混
乱を招くのではないか。(境)
・現行の計測震度算定法のパラメーターを変えても被害と対応させること
は難しい。(境)
・計測震度から震度階級へ変換する際の敷居値を変える事で対応はできな
いのか。(工藤)
>現在の敷居値を変えると危険側に判定される可能性がある。(境)
・現行の計測震度は地震動強さの指標としては非常に単純明快であるが、
これを旧震度階にあわせるためには各震度帯域によってフィルターを変
えなければならず、これは地震動強さの指標ではない。(翠川)
・地震動強さの指標として震度を位置付け、被害と対応する指標は別に設
ける。その上でその違いが明確になるように名前を付けるなどすること
で対応できないか。(工藤)
・諸外国のように構造物の対象を明確化した震度解説表にすればいいので
はないか。(太田)
(D)太田より「震度情報の理解と活用について」の話題提供があった。
(E)清野より「組合せ震度」について話題提供があった。
・震度算定アルゴリズムは現行計測震度と同じだが、用いる波形は短周期
震度では短周期、中周期震度は速度、長周期震度では変位波形を用いる。
(清野)
(F)境より「応答スペクトルを用いた地震動強さの指標」について話題提供
があった。
・現行計測震度が提案震度の下限を押さえているのは震度を現行と同等あ
るいは小さくしたいという意図の表れなのではないか。(翠川)
>提案震度は被害とよく対応しているという前提に立っているので提案
震度と現行計測震度の対応という形で検討をしているが、提案震度を
実際の被害率と置き換えてもこの傾向は変わらない。(境)
・Waldの方法も震度帯域によって見る周期帯を変えており、そのつなぎ方
は参考になるだろう。(翠川)
・調査結果の大破、全壊の定義も様々あることに注意しなければならない。
(翠川)
・提案震度と現行計測震度の対応で震度5.5付近のばらつきが大きいの
は低震度と高震度の境界であり、ここで不連続が起きているのが原因で
はないか。これは低震度と高震度の間を滑らかにつなぐことで解決でき
るのではないか。(太田)
・低震度側の式と高震度側の式のそれぞれから算出された震度の平均を求
める際に双方に重みをつける方法も考えられる。(太田)
・提案震度と現行計測震度の差が大きい地震に周波数コンテンツ的(地震
のタイプなども含めて)に違いがあるのではないか。(太田)
・兵庫県南部地震を中心とするデータセットでは最大速度でも被害との相
関は良くなるが、長周期が卓越するような地震が発生した場合はその限
りではない。(境)
・海溝型巨大地震では、短周期よりも長周期が卓越することが考えられる
が、この場合、現行計測震度は小さめに、提案震度は大きめに出てしま
うことはありえないのか。(太田、翠川)
>ありえるとは思うが現時点で確認はできない(境)
>中央防災会議や地震調査研究推進本部が推定する南海トラフ地震など
の結果を参照することで検証できるのではないか。(工藤)
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