ワークショップ「震度データと震度情報ネットワークの活用」
             (第3回震度研究会)議事録
                            作成:神野達夫
 
日時:平成16年3月10日 13:30〜17:30
出席者(順不同、敬称略)
纐纈一起、境有紀、林康裕、清野純史、武村雅之、太田裕、西前裕司、松浪孝
治、川上洋介、翠川三郎、神野達夫、嶋悦三、畑山健、久田嘉章、中村友紀子、
功刀卓他
 
1.主旨説明
 纐纈より本ワークショップの主旨説明があった。今回は、第3回震度研究会
をワークショップ「震度データと震度情報ネットワークの活用」という形にし
て誰でも参加できるものにした。
 
2.話題提供
(1)近畿圏における震度情報ネットワークの現状と活用
・松浪より近畿地区大都市圏強震観測ネットワークの概要とその活用例の1つ
 として彦根市の観測点周辺の地盤震動特性と強震記録の解析について発表が
 行われた。
・近畿地区大都市圏強震観測ネットワークのデータは、
  http://wwwsms.rcep.dpri.kyoto-u.ac.jp/index.html
 で閲覧可能である。
(2)SK-netデータによる増幅率スペクトルインバージョン
・川上よりSK-netで観測された強震記録を用いた地盤増幅率のスペクトルイン
 バージョンについて発表があった。
・フィリピン海プレートと太平洋プレートではQ構造が異なるため、震源域に
 よって分けて解析をするべきではないか。この影響が地盤増幅率に含まれて
 いる可能性がある。
・短周期領域と長周期領域を分けて解析したのはなぜか。
 → 短周期領域は設計用入力地震動の加速度一定領域、長周期領域は速度一
   定領域であり、設計入力地震動への適用を意識したしたためである。
・地震研究所の岩盤サイトを基準点に使わなかったのはなぜか。
 → もともとK-NETのデータのみで解析を行っており、その後、SK-netのデ
   ータも利用するようになったためである。
・求められた地盤増幅率の誤差範囲は震度にするとどの程度の幅になるのか。
 たとえば、同じ地形分類にある地点で震度の取りうる幅はどのくらいになる
 のか。
(3)計測震度計の設置環境の評価指針について
・西前より計測震度計設置地点の周辺の環境の評価するための基準について発
 表があった。
・10月頃を目途に評価結果を公表する予定である。
・評価の詳細(得点表など)も公開するのか。
 → 隠すつもりはない。問い合わせには応じている。状況を見て公開するか
   を検討する。
・不適切な地点はどのくらいあるのか。
 → 設置した時点ではなかったと認識しているが、その後どのように環境が
   変化したかは分からない。
・「不適切」という言葉の使い方には注意をするべきである。目的によって「
 不適切」かどうかは異なる。
 → 「震度情報を得るのに不適切である」と言わないと自治体は動いてくれ
   ないという背景もある。
・震度計は防災上の代表点に設置すべきであり、それが不可能であれば地盤の
 情報を付して公開するべきではないか。
 → 必要であるとの認識はあるが、優先順位としてはそれほど高くないと考
   えている。
(4)近接2地点の震度差
・太田より近接した2地点の震度や被害の差について、さらに各自治体、国な
 どによる被害想定結果の相違について発表があった。
・鳥取県西部地震時に境港測候所と境港市役所ではその差が600mしかないにも
 関わらず、震度は6.0、5.6と大きく異なっていた。被害にも大きな差があっ
 た。
・境港測候所と境港市役所のアンケート震度は、それぞれ5.7、5.1であった。
・この違いはどの地震でも現れるのか。
 → 余震観測記録によると全体的に境港測候所の方が震度は大きい。平均で
   は1.08大きい。
・高い震度領域では少しの震度の違いが大きな被害の差を生む可能性が高い。
・地域の被害想定結果について、本来であれば過去の東海地震、東南海地震の
 被害分布を参考にすべきではないか。
 → 当該地域は少し前まで原野であり、過去の記録はない。
・自治体等の被害想定結果をそのまま信じてはいけない。ケアレスミスがその
 まま残っており、トレースできないものがある。被害想定はトレースが可能
 なように作成すべきである。
(5)地震被害の定義の変質:把握できない被害の真相
・武村より宮城県北部を震源とする3つの地震の被害調査結果をもとに被災度
 判定基準の変質のについて発表があった。
・被災度判定基準が変わってきているため、過去の方が構造物が強いという結
 果になってしまう。
・自治体の被災度判定と応急被災度判定を同時にやるべきでは。一定の基準に
 のっとって行われるべきである。
(6)宮城県北部地震における被災木造建物の耐震性能評価
・林より宮城県北部地震で被災した木造建物の耐震性の評価について発表があ
 った。
・この地域の木造建物には小壁(たれ壁)がある場合が多いが、この重さは耐
 震的に不利にならないのか?
 → 確かに重量はあるが、それ以上に強い。
・建築年代によってシロアリや腐朽による影響が大きいとの指摘もある。
 → 宮城県北部ではメンテナンス状態がいいとはいえないが、被害に影響を
   及ぼすほどではなかった。
(7)震度の高低によって地震動の周期帯を変化させた震度算定法の提案
・境より、震度の工程によって震度算定に用いる地震動の周期帯を変化させる
 震度算定法、および歴史地震への震度の対応について発表があった。
・木造建物の耐震性は本当に向上しているのか。
 → 耐震性は向上していると考えられるが、それを数値化するのは困難であ
   る。
・木造建物の地域性は考慮しなくていいのか。
 → 本研究では考慮しないことを仮定している。しかし、最近の調査結果を
 見ると木造建物の小さき差は思ったほど大きくない。
・1950年代以前の木造構造物の耐震性能はあまり大きく変化していない。
(8)地震計周囲の環境が観測記録に及ぼす影響について
・清野より観測点周辺に段差、ポール、建物がPGVや震度に及ぼす影響を2次元
 FEM解析を用いて検討した結果について発表があった。
・2m程度の盛土で震度は0.2程度変わる。
・震度は0.5刻み程度で用いるのが良い。あまり細かいところまで見るのはど
 うか。
・段差の影響によって震度は必ずしも大きくなるわけではない。
・モデル化のメッシュサイズや境界面での反射の影響は完全に取り除くことは
 できないため、何もないフラットな状態でも計算結果は多少ばらつく。
・入力地震動を変えて計算する必要はあるだろう。
(9)まとめ
・翠川より本ワークショップについてのまとめが行われた。
・このような研究が行えるのも観測記録が増えたからであり、防災に関わるよ
 り多くの研究が行われれば、維持管理をする自治体等にも存在意義について
 の説明が可能となる。
 
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