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キラーパルスについて

 最近,特に2007年能登半島地震のとき以来,キラーパルスという用語がマスコミなどで広く用いられるようになりました.しかし,この用語は最近のものではなく,死者6000人以上という甚大な被害を引き起こした1995年兵庫県南部地震のときには専門家の間では既に使われていました.1995年兵庫県南部地震ではまさに1秒程度の大振幅パルスが発生し,それが大きな被害に結びついてしまいました.

 ここで注意しないといけないのは,どういう要因で1995年兵庫県南部地震で「キラーパルス」が発生したのか,ということです.1995年兵庫県南部地震の後,強震動研究者によって解析が進み,キラーパルスは,震源断層面でのすべり分布と断層面近傍の地下構造によって再現されることがわかってきました(例えば,■ここ■).つまり,本来のキラーパルスの発生要因は,震源にあるわけです.

 それで,キラーパルスという用語が使われるようになった2007年能登半島地震(のK-NET穴水)と2007年新潟県中越沖地震(のK-NET柏崎)ですが,これもまだこれからの検討が必要ですが,その生成要因は震源ではなく,表層地盤によるものという見方が大勢を占めていますし,私もそう思っています.つまり,発生した地震動は非常によく似た1〜2秒程度が卓越したもので,甚大な被害を引き起こすという点も同じですが,その発生要因は異なるわけで,厳密には,キラーパルスとは,震源破壊過程が原因で発生した1秒程度の大振幅パルスというのが本来の正しい使い方ですのでご注意ください.キラーパルスという用語は非常にインパクトがあるらしく,私はこの用語は正直あまり好きではないのですが,使ってくれと頼まれ(例えばここ),それで1〜2秒のやや短周期地震動の恐ろしさが認知され,地震対策が進むのならとも考えて,無理矢理使うこともありましたが,今後は使わないことにします.

※追記: その後検討が進み,柏崎の2秒程度が卓越したパルスの生成原因が表層地盤というよりは震源にあることがわかってきました.つまり,柏崎で発生した地震動は本来の意味でのキラーパルスであったということになりそうです.

↑1995年兵庫県南部地震のJR鷹取における波形(震度7,周辺の木造建物全壊率59%)

↑2007年新潟県中越沖地震のK-NET柏崎における波形(震度6強,周辺の木造建物全壊率5%)

↑2007年能登半島地震のK-NET穴水における波形(震度6強,周辺の木造建物全壊率19%)

↓比較対象として,2003年十勝沖地震のK-NET広尾における波形(震度6強,周辺には大きな被害なし)

謝辞

 強震記録は,防災科学技術研究所,鉄道総合技術研究所より提供いただきました.

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