5/16'08
中国四川省で発生した地震について

 2008年5月12日,中国四川省で発生した地震では甚大な被害が生じてしまいました.現在(16日)確認されているだけで2万人近く,最終的には,5万人を超えるかもしれないという大惨事です.日本でも近い将来,大地震の発生が危惧されているように,対岸の火事とすべきではないというのは当然のことですが,それは単に日本も地震国であるというだけではなく,多くの共通点,即ち,同様のことが日本でも起こりうると感じています.

 まず,大きな被害を受けている建物のほとんどは,近年の中国が急激な経済成長から取り残された古い脆弱な建物だと言われていますが,それは日本も同じです.日本にも20世紀後半の高度成長期,耐震工学の発展から取り残された建物がなんと1000万棟以上あります.即ち,古い木造家屋など,耐震偽装されたマンション以下の耐震性能しかもたない建物が大量に野放しになっています.確かに今の日本は耐震工学において世界のトップレベルにありますが,それは,1980年以降の話であり,それ以前に建てられた建物のほとんどは,現在の耐震規定を満たしていない,いわゆる既存不適格建物です.私はもう20回くらい被害調査に出かけていますが,大きな被害を受けるのは,決まってそういう建物です.それは,甚大な被害を引き起こした阪神・淡路大震災ですらそうだったのです.言い方を変えると,甚大な被害を引き起こした阪神・淡路大震災においてすら,現在の耐震規定を満たしている建物で大きな被害を受けた建物は非常に少なかった,ということです.これはとりも直さず,現在の技術をもって対策すれば,地震被害は圧倒的に減るということです.

 次に,学校建物の被害が大きい,即ち,他の建物に比べて耐震性能が低いというのも実は日本も同じです.これも私の被害調査の経験ですが,周りには被害建物がほとんどないのに学校建物だけが被害を受けていた,というケースが数多くありました.少し専門的になりますが,学校建物の平面計画上,廊下側の桁行き方向の柱が短柱化しやすくせん断破壊してしまうということもあります.予算の問題もあるでしょうが,将来のある子供たちが過ごす,更には,避難所となるなど地域の拠点ともなるべき学校建物の耐震補強が一向に進んでいないのはゆゆしき事態です.

 実は,ここ20年くらい,地震が頻発するようになって日本で起こっている地震のほとんどは,休日,春休みや夜など子供たちがたまたま学校に居ない時間帯に起こっています.しかし,それは単に運が良かっただけであることは言うまでもありません.今回の中国四川省で発生した地震のように平日昼間の時間帯に地震が発生すれば,子供たちが被害に巻き込まれてしまうことは大いにあり得ます.

 今回の地震が山岳地帯で救助活動が難航している,ということも日本も事情は変わりません.日本の国土の70%は山地です.つまり,70%の確率で今回のような状況になりうるということです.実際,2004年新潟県中越地震のときは,今回の地震のように道路が寸断され,旧山古志村が完全に孤立したことは記憶に新しいところです.私も被害調査に行きましたが,移動するだけで大変でした.

 最後に,今回の直下でマグニチュード8クラスという規模の地震が日本でも起きうるか,ということですが,今回の300kmという断層長さは,日本最大の断層,糸魚川−静岡構造線の140kmの倍以上というものですが,1891年に濃尾地方で発生した直下地震であり,7000人以上の死者を出した濃尾地震のマグニチュードは8.0と推定されています.ですから,マグニチュード8クラスの直下地震は日本でも起こりうると考えるべきでしょう.

 ある1人の人間にとってみれば,その一生の間に,生死に関わる地震に遭遇する確率は確かに大きくはないかもしれません.しかし,遭遇してしまえば,今回のような大惨事に巻き込まれてしまいます.これは人間の本能だと思うのですが,被害は甚大だが確率は低いことには目をつむってしまう,考えないようにしてしまう傾向があると思います.それは原始時代からの,心平穏に暮らしていくための精神的防御だと思うのですが,人口が爆発的に増え,都市部などに集積して居住し,経済活動を営むようになった現代では,その本能が通用しなくなってきています.「怖いことには目をつむる」では,対策は一向に進みません.

上のページへ