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計測震度が対応する周期帯について

 周期0.5秒以下の極短周期地震動が発生すると被害の割りに計測震度が大きめに出てしまうのに対して,1〜2秒の中周期(やや短周期)地震動が発生すると額面通り,あるいは,逆に小さめに出ることがあるので注意が必要です.例えば,今年の岩手宮城内陸地震や岩手北部地震で最大震度6強であるにも関わらず,建物被害がほとんどなかったからと言って,それは建物の耐震性能が充分なわけではなく,たまたまそういう性質の地震動だったということ,そして,そういうことが起こってしまう原因は,計測震度が主として0.1〜1秒という短周期を基に計算しているためです.このことは,境有紀, 神野達夫, 纐纈一起, 建物被害と人体感覚を考慮した震度算定方法の提案, 第11回日本地震工学シンポジウム論文集, CD-ROM, 2002.11.以来,一貫して主張し,実際数多くの被害地震と調査でそのことを確認してきました.

 計測震度が主として0.1〜1秒という短周期を基に計算しているかどうかについていくつか議論があるようですので,ここでその基になったデータを示しておこうと思います.

 計測震度は,波形をフーリエ変換,フィルター処理,逆フーリエ変換,これを3成分で行ってベクトル合成し,その地動最大加速度を河角式に代入し,更に継続時間を考慮した修正を行う,という非常に複雑なもので,フィルターの形を見ただけではどの周期と対応しているかはわかりません.特に,計算の最終段階で河角式を使うために地動最大加速度を抜き出すため,結果的に短周期に重きが置かれてしまうことに注意する必要があります.

 そこで,計測震度が応答スペクトルのどの周期帯と相関を持っているかを単純に解析したのが,現在の震度の問題点と代替案の提案で出てくる図1です.

     図1 弾性速度応答と現行の計測震度との相関係数

 これを見ると下限周期0.1秒,上限周期1秒,即ち,応答スペクトルを0.1〜1秒まで積分したものと計測震度が最も相関が高いため(相関係数0.99),つまり,0.1〜1秒という周期帯の応答スペクトルさえわかればほぼ(相関係数0.99で)計測震度が計算できることから「計測震度が主として0.1〜1秒という短周期を基に計算している」としてきたわけです.しかしながら,図1をよく見るとこれ以外の周期帯でも,例えば,1〜2秒でも相関係数にして0.90程度はあることがわかります.これは,図1が2001年12月2日までにK-NETにおいて観測された地震のうち,最大震度が震度5弱以上を観測した地震の全ての記録(5481記録)という非常に多くの記録を用いていて,その多くが低震度で振幅が小さく,スペクトル特性もフラットで,そういう地震動の場合,計測震度に限らずあらゆる指標は,どの周期帯とも相関をもつことになり,多くのそういう記録の中に重要な1〜2秒の大振幅パルスの記録が埋もれてしまっていることが考えられます.

 そこで,主として被害を引き起こした重要な記録,具体的には,境有紀, 神野達夫, 纐纈一起, 震度の高低によって地震動の周期帯を変化させた震度算定法の提案, 日本建築学会構造系論文集,第585号, 71-76, 2004.11.の表2, 3の強震記録(提案する震度算定法の最新版作成に用いたデータセット)を用いて上の図を再作成したのが図2です(これも広島大学の神野先生に作成いただきました).

     図2 弾性速度応答と現行の計測震度との相関係数(高震度を記録したデータセット)

 これを見ると計測震度が最も相関をもつ周期帯(相関係数0.9以上)は,少しずれはありますが,図1とほぼ対応しているのに対し,それ以外の周期帯の相関係数は図1よりかなり小さくなっていることがわかります.例えば,計測震度と1〜2秒応答との相関係数は,0.75〜0.78程度になってしまっています.相関係数0.75〜0.78というと相関がないというほど低くはありませんが,実際の被害を推定する際には,建物の耐震性能のばらつきなどの要因から1〜2秒応答でも相関係数0.8程度のばらつきは生じますから(図3),

図3 提案する算定法(1-2秒応答)による震度と実際の建物被害の対応

大まかに計算すると(0.75〜0.78)x0.8で被害との相関係数は0.6程度となってしまい,図4の計測震度と実際の建物被害の対応と整合します.

図4 現行の計測震度と実際の建物被害の対応

 以上のことから,現行の計測震度は,0.1〜1秒という短周期と相関を持ち,それ以外の周期帯との相関は相対的に有意に低い,つまり,0.1〜1秒という周期帯の応答スペクトルさえわかればほぼ計測震度が計算でき,それ以外の周期帯からは高い精度で計算できないということから「計測震度が主として0.1〜1秒という短周期を基に計算している」と考えています.

 なお,繰り返しになりますが,私(境有紀)は現在の震度算定法を批判しているのではなく,変えるべきと主張しているわけでもありません(変えるかどうかを決めるのは私ではありませんから).ただ,震度6強,6弱という高震度が記録されたにも関わらず,建物被害がほとんどなかった原因が建物の耐震性が充分ということではなく,極短周期が卓越したという地震動の性質にあるということ,つまり,計測震度が建物被害と対応したものになっていないということを述べて,近い将来必ず来る1〜2秒が卓越して大きな被害を引き起こす「本物の」震度6強,6弱に対する対策を決して怠らないように,ということが言いたいだけです.

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