津波警報が出て津波が来るのは8回に1回

 タイトルを見て,ほんとかなと思う人もいるかもしれませんが,津波警報は時々出るけど,実際に人命の損失を伴う津波が発生することはほとんどない(この50年では,2011年東北地方太平洋沖地震,1993年北海道南西沖地震,1983年日本海中部地震)ので,それを定量的に表した数字としてなるほどと思う人が多いのではないでしょうか.

 まず最初に申し上げておきたいことは,津波警報が出ても津波が来るのは8回に1回しかないという津波警報の精度の低さを批判しているのではありません.津波警報が出ずに人命の損失を伴う津波が発生してしまうことを避けるためには,今の手法ではこれが限界ですし,地震の揺れを伴わずに津波が来る津波地震もあり,津波警報の発信は極めて重要です.

 そして,防災的見地からしても「津波警報が出て津波が来るのが8回に1回」というのは「ちょうどいい」とすら思っています.どういうことかと言うと,津波警報が出たときに「避難訓練」ができると思うからです.今は例えば,3/11とか,年に1回くらい避難訓練が行われていると思いますが,参加されている住民の方は残念ながら一部というのが実情でしょう.

 でも,何となく「津波警報が出ても津波は来ない」ではなく,「津波警報が出たら8回に1回は津波が来る」ということをしっかり認識していれば,津波警報が出たときに避難することで,ある程度の危機感をもって「避難訓練」ができると思います.そして,警報が解除されるまでは,高台から降りてはいけないなど,普通の避難訓練とは違ったリアルな訓練にもなります.

 避難訓練は,年に1回程度行われていると思いますが,津波警報が出るのは,もっと少ないと思うので,そんなに負担にもならないでしょう.たとえ津波警報の的中率が100%になったとしても,警報が出ていきなり避難するのではなく,事前の避難訓練が必要で,それなら,現状の8回中7回の「空振り」を避難訓練と考えるのも一法だと思います.

 これは,津波警報に限らず,水害も同様です.ポイントは,警報の精度を定量的に示すことでしょう.そうでないと,何となく「警報が出ても大丈夫」という狼少年になってしまいます.20回に1回以下だと厳しいと思いますが,的中するのが5〜10回に1回程度で,警報が出るのが年に1回程度なら,何とか避難訓練だと思って避難してもらえるようにならないでしょうか.

 さて「8回の1回」の根拠ですが,いわゆる「基準化の問題」になります.

 対象とした地震は,津波警報が発令された以下のものです.

 表の中に発令予報区とあるのは場所のことです.2011年東北地方太平洋沖地震では,発令された予報区が66と非常に多いことがわかります.

 地震が発生して津波が来そうなところに発令されるのですが,これをそのまま足し算すると多くの場所に発令がされた2011年東北地方太平洋沖地震の傾向が全体を大きく支配することになり,正しく基準化されません.

 ここがずれて,例えば,見かけ上の精度が3回に1回とかになったとしても,実際は,もっと空振りが多くなるので,話が違うじゃないかとなって,人々はそのうち避難しなくなってしまうでしょう.

 そこで,全ての地震が均等な重みづけになるようにデータを基準化しました.こうすれば,多くの地震の傾向を公平に評価することができ,実際の空振り回数に近づきます.

 また,場所を表す予報区は,1999年に細分化されているので,この点の補正も行いました.津波警報が出て何mの津波が来たかの割合を示したのが以下の図です.

 いわゆる津波警報には,大津波警報,津波警報,津波注意報の3つがあり,想定している津波高さは,それぞれ,3m以上,1m以上,20cm以上です.つまり,大津波警報が出て3m以上の津波が来た,あるいは,津波警報が出て1m以上の津波が来たら「的中」ということになります.

 その部分は,上の図で言うと,大津波警報が赤の部分,津波警報がオレンジの部分で,大津波警報が出たら,3割近い確率で3m以上の大津波が,津波警報が出たら,8回に1回の確率で1m以上の津波が来たことがわかります.

 この論文では,タイトルにあるように津波警報が出ても想定する高さの津波が来ない空振り(地震発生前10年が対象)と避難率の関係も分析しています.避難率のデータが存在する以下の地震の予報区から

データ数が多い津波警報を対象として空振り回数と避難率の関係を描いたのが以下の図です.

 空振りが増えるに従って,避難率が下がっているように見えますが,赤丸で囲んだオホーツク沿岸の地震(同じ予報区で空振りが続いて避難率もわかっているという貴重なデータ)を除くと明確な傾向は見られませんでしたが,特筆すべきは,やはり,その避難率の低さ(多くは10〜30%程度)でしょう.

論文: 江藤大貴, 境有紀, 津波予報システムの現状と予報の空振りが避難率に与える 影響, 日本建築学会大会学術講演梗概集,構造II,2016.9

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