1995年兵庫県南部地震の神戸海洋気象台の強震記録について

 1995年兵庫県南部地震の強震記録には様々なものがありますが,甚大な被害を引き起こしたものとして,例えば1995年兵庫県南部地震の代表のような形で使用する場合には注意を要します.よく用いられるものには,以下の3記録がありますが,

・気象庁による神戸海洋気象台(以下,神戸JMA)
・大阪ガスによる大阪ガス葺合供給所(以下,葺合)
・JR総合技術研究所によるJR鷹取駅(以下,JR鷹取)

やはり最もよく用いられるものは神戸JMAでしょう.ただし,これら3記録の計測震度はいずれもほぼ6.5で震度7に近いですが,その破壊力は大きく異なっていることに注意する必要があります.以下に3記録の弾性加速度応答スペクトル(水平2方向合成,減衰定数5%)を示します.



          弾性加速度応答スペクトルの比較

 これを見ると計測震度が対象としている0.1-1秒の範囲は3記録ともほぼ同レベルですが,建物の大きな被害を引き起こす1-2秒の範囲を見ると,神戸JMAはJR鷹取の半分程度に過ぎません.実際,この3記録の中で震度7の震災の帯の中のものはJR鷹取のみで,葺合でぎりぎり,神戸JMAは震度7の震災の帯の全く外です.実際の被害も神戸JMA周辺の家屋全壊率は3.2%に過ぎません.これに対して,葺合の周辺の家屋全壊率は20.2%,JR鷹取に至っては59.4%です.

 つまり,1995年兵庫県南部地震の甚大な被害を代表するものとして使用する場合は神戸JMAではなく,葺合やJR鷹取を使用する必要があるということです.おそらく神戸JMAが最も早い段階で公開され,気象庁という公的機関から配布され入手もしやすいことから,神戸JMAが使われることが多いのだと思います.しかし入手が容易とかそういう事情で地震動の選択が行われてはいけないのは言うまでもありません.例えば地震応答解析や振動実験を行って神戸JMAに耐えたからと言って,1995年兵庫県南部地震で震災の帯の中にあっても大丈夫だったとは言えないのです.

 ただし,JR鷹取については注意を要する点があります.それは,地震計設置の向きと揺れの卓越方向がずれていることです.これは地震計設置の問題ではなく単なる偶然性の問題です.JR鷹取は西の方にあるため震災の帯が東西方向から北東−南西方向に傾いているため,北西−南東方向が卓越している,ということです.



     左からJR鷹取,葺合,神戸JMAの加速度コンター

 神戸JMAや葺合は,たまたま南北方向が卓越しているため南北方向の1成分を用いても大きな影響はありませんが,JR鷹取を用いる場合は,1方向のみ(例えば南北方向)を用いると神戸JMA,葺合より地震動の破壊力を過小評価してしまうので注意を要します.2方向を用いるか,1方向のみの解析を行うのなら2方向ベクトル合成した最大方向を用いる必要があります.

 2004年10月23日に発生した新潟県中越地震でもその地震動を1995年兵庫県南部地震の神戸JMAと比較している報告がいくつかありました.もちろん「神戸海洋気象台の記録」と比較するのが意図なら問題はないですが,1995年兵庫県南部地震の甚大な被害を引き起こした地震動と比較するのなら,神戸JMAではなく,JR鷹取や葺合を用いる必要があると考えています.

 神戸JMAを入力して,「阪神・淡路大震災でも大丈夫」とか「震度7でも大丈夫」と言った謳い文句?をよく見かけますが,それは「都合のいい」記録を入力してそれで大丈夫と言っているだけでとても問題です(というか,そもそも震度7は計測震度6.5以上と青天井の設定なので「震度7でも大丈夫」ということは絶対にありえません).ちゃんとJR鷹取を2方向入力したのか,1方向なら最大方向を入力したのか確認しましょう.震度は実際の被害とは厳密には対応していませんから,同じ震度7でも実際の破壊力は大きく異なる場合が多いです.同じような例としては,2004年新潟県中越地震の震度7で大丈夫と言っている場合は,それが小千谷のもの川口町のものかしっかり確認しましょう.川口町の記録は「本物」の震度7ですが,小千谷の記録の破壊力は遥かにそれに及びませんし,実際の被害の大きさも全く違います

謝辞

 JR鷹取,葺合,神戸JMAの強震記録は,それぞれJR総合技術研究所,大阪ガス気象庁より提供していただきました.

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