6/20'08
6/20付けの朝日新聞朝刊1面トップの記事について

 今日(6/20)付けの朝日新聞朝刊1面トップに「揺らぐ震度判定」と題して記事が載りました.そこに私(境有紀)のコメントが載っているのですが,舌足らずになっている感じがするので,ここで補足説明をしておこうと思います.

 まず『「5強」が妥当』というところですが,これは被害を見て判断したのではなく,被害と対応する提案する震度算定法では5強以下だったということです.つまり,強震記録と提案する算定法からどの程度の被害が出ているかが被害というアウトプットではなく,強震記録というインプットであらかじめ判断できていたということです.そして,強震観測点周りの被害調査を行って,実際の被害もそうだったことを確認しました

 次に『気象庁の計算式では数字が大きめに出る傾向があり』というところは,正確には『気象庁の計算式では数字が大きめに出ることがあり』です.つまり,いつも大きめに出るのなら単に数字を減らす,即ち,6強を6弱,6弱を5強と読み替えるなどして対応表の方を修正すればいいのですが,それは最悪の対処方法で,地震動の性質,具体的には,周期特性によって,大きめに出たり,数字通りに出たり,あるいは,小さめに出てしまう(これが最も危惧されるケース),つまり,現在の算定法による震度の「精度」が残念ながら十分ではない,ということです.同じ震度6強でも今回のようにほとんど建物被害が生じないこともあれば,例えば,昨年の2007年能登半島地震のK-NET穴水のように甚大な被害(木造建物の全壊率19%)が生じる場合もあります.最悪の場合は,1-2秒の周期帯が卓越して震度が小さめに出てしまい,例えば,震度5強でも6弱以上の被害が出てしまうこともありうるわけです.実際,1995年兵庫県南部地震のJR神戸駅周辺では,震度6弱にも関わらず,木造建物全壊率16.1%という震度6強に相当する被害が生じてしまいました.

 最後の『システムを改めるべきだ』に関しては,5年以上前から,被害を的確に推定できる震度算定法を提案していますが,実際に変えるには,いろいろ難しい事情もありますから,ここ数年は,「改めるべき」とはあえて主張してきませんでした.そのスタンスは,基本的に今でも変わらないのですが,震度計ネットワークが10年以上経過して耐用年限を迎え,リプレースの時期になってきたこともあり,今回はあえてこういう形でのコメントとなりました.もちろん,実際に変えるのには,早計な判断は禁物ですし,より詳細な検討も必要でしょうが,大きな被害が生じ,震度が小さめに出てしまって初動が遅れ,助かる人命が助からないということが起こってからでは手遅れになってしまいます.

 なお,これもいろんなところで繰り返し述べているのですが,現在の震度算定法を批判するのは,私の本意ではありません.10年以上前,現在の強震観測網もまだなく,被害データもほとんどない中で,地震直後に各地の震度が伝えられるという世界初のシステムを構築されたのは画期的だったと思います.震度算定法自体についても同様です.しかし,その後,震度計ネットワークや気象庁,防災科学技術研究所の強震観測網が整備され,この10年あまりで,貴重な強震記録と被害データが蓄積されたおかげで,ようやく被害と対応する算定法を裏付けるデータが蓄積されてきたということだと思います.

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