9/2'08
uploaded on 12/4'08
震度に対する考え方

 こういう記事をもう3ヶ月ほど前に書いていたのですが,公開していなかったので,一応公開しておこうと思います.あくまで「私(境)個人の意見」です.

 今年発生した2008年岩手・宮城内陸地震,岩手沿岸北部を震源とする地震で,多くの観測点で震度6弱以上,最大震度6強という大きな震度を記録したにも関わらず,建物の被害がほとんどなかったことについて,既に5年以上前から指摘していることが今更のように少しは議論になっているようです.ただ,いくつかの議論の中で少し気になることがあるので,ここでコメントしておこうと思います.

 提案する震度算定法に関するQ&A の6番に関係することだと思うのですが,岩手・宮城内陸地震では,大規模な地盤被害が起きて多くの人命も奪ってしまったことから,最大震度6強でも妥当なのではないか,という議論があります.しかし,建物被害とは合わなかったが地盤被害と合えばいいということにならないのは言うまでもありませんが,それ以前に,大きな地盤被害が発生した近傍(少なくとも数百m以内)には強震記録がないので,そもそもあれだけの地盤被害を引き起こした地震動の震度がいくつだったかもわかっていない状態で,議論することはできません.ただここでは,その議論は置いておいて,地震動の性質と被害の対応性の議論を行うことにします.

 地盤被害も建物被害も含めてありとあらゆるものを対象として,その全ての被害を的確に表現できる万能な指標は存在し得ません.それは,対象が変われば対応する周期も変わるからです.

 例えば,現在の計測震度は,0.1-1秒という周期と相関が高いですが,これは人体感覚と対応しており,地動最大加速度(いわゆる「ガル」で表現されるものです)は,もっと短い極短周期(理論的には0秒)と対応しています.最近,時々出てくる地動最大速度は,長い周期に対応していて,超高層建物や石油タンクなどの大規模構造の被害と相関があります.いわゆる長周期地震動は,地動最大速度が大きくなって,これらの構造物の甚大な被害を引き起こしますが,木造家屋など低層の建物にはあまり影響がありません提案する震度算定法で用いている1-2秒という周期帯は,日本の建物の大部分を占める木造家屋や中低層建物が大きな被害を受けるときの周期と対応しています.全ての周期帯を万遍なくカバーする指標も提案されていますが,結果としては,どれともそこそこ合うが,どれともあまり合わないということになってしまいます.

 そこで,震度はどうあるべきか,ということになるのですが,ありとあらゆるものはカバーできないので,何に重きを置くべきか,という議論になります.そして私が重きを置くべきと考えているのは,やはり人命の損失です.岩手・宮城内陸地震では,残念なことに地震によって発生した土石流により多くの人命が失われてしまいましたが,過去の大地震による被害を分析してみると,震度が対象としている地震の揺れに起因する被害で最も人命を奪っているのは,やはり建物の倒壊です.このことは,1995年兵庫県南部地震の例を見るまでもなく,都市部に人口が集中していることを考えても当然の成り行きと言えます.そして,多くの人命を奪ってしまうのは,単純に数が多い,日本の建物の90%以上を占める木造家屋や中低層の建物ということになります.つまり,人命の損失を重要視するなら,震度はこれらの単純に数が多く,たくさんの人が住んでいる建物が大きな被害を受ける周期帯にターゲットを当てるべきだと考えています.

 なお,ここで書いたことはあくまで一研究者としての意見です.実際にどうするかは私が決めることではありません.また,木造家屋や中低層建物で亡くなる人の数が多いというのは,これらの耐震性が低くて危険ということではなく,単に数が多くたくさんの人が住んでいるので,もし倒壊すれば多くの人命を奪ってしまう,ということです.

トップページへ