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地震防災のプライオリティ

 新たに書くことは特にないと書いたのですが,やっぱりちょっと気になることが....

 阪神・淡路大震災から15年ということで,メディアなどでいろんな番組が放送されているのですが,その報道の仕方が「地震は天災なのだから大惨事になるのは仕方がない,問題は来たときどうするのかだ」という風潮になってきたのが気になります.地震災害は天災ではなく人災です.ちゃんと対策をすれば防げる(劇的に軽減できる)ものです.

 繰り返しになりますが,日本の耐震技術は世界一です.技術的には「防ぐ」(劇的に減らせる)ことが可能です.でも既存不適格建物の耐震補強は一向に進まない.理由は,事実誤認ということもありますが,一言で言えば,「いつ来るかわからない大地震に対して100〜200万円なんていう大金をかける気になんかならない」ということでしょう.

 でも,家ですから何十年も住むものです.例えば,これから15年住むとすると,耐震補強に150万円かかっても1年に10万円です.30年住むならたったの5万円です.つまり,車の維持費の方が遙かに大きな額なわけです.それでも耐震補強なんかせずに車をもっていたいし,車検が何回か来れば新車に買い換える.車がなければ生活ができないからでしょうか?ほんとにそうですか?地震で家が倒壊したらほんとに生活できなくなりますよ.

 結局,生活全体の中に占める地震防災のプライオリティの問題だと思います.大地震は滅多に来ませんから,本能的に判断すれば,普段の生活の方を優先してしまうのが人間です.でも,本能のみで動く動物とは違って,知能をもった人間なのですから,それではあまりに情けないと思いませんか?

 私が地震防災の専門家だから,我田引水的に地震防災が重要だと主張してるだけではないか?と思われるかもしれません.でも,社会全体を見たとき,その中での様々なことのプライオリティがおかしいと感じているのは私だけでしょうか?

 工学は,一言で言えば,世の中を便利にするために発展してきました.でも,もうそろそろ「いい線」まで来てると思います.車ってこれ以上必要ですか?カラーテレビが普及してから40年経って地デジになって,劇的な変化があったでしょうか?10兆円近くかけて中央リニアが計画されているようですが,それだけのお金をかけて,東京〜大阪間の2時間半を1時間にする意味があるのでしょうか?

 そもそもこれ以上経済発展なんかする必要があるのでしょうか?夢が必要?もっと足下をしっかり見た方がいいのでは?こんなに便利な世の中になったのに,その一方では,地面が30秒揺れただけでそれが水泡に帰す.バランスがおかしくないですか?

 莫大なお金をかけて,今よりほんの少し世の中を便利にすることより,もっと大事なことがあるのではないでしょうか?もっと便利にすることばかりを追い求めて,何の対策もしていない状態で,ある日突然,大地震がやってくれば,足下から全部ひっくり返されます.世の中をこれ以上ほんの少し便利にすることより,何があっても今の生活をしっかり守ることの方が遙かに重要なのではないでしょうか?

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