キラーパルス(1〜2秒成分を多く含んだ地震動)が発生する確率

 まず最初にキラーパルスという用語ですが,明確な定義ないと思います.繰り返し回数が少ないパルスで,その周期が1〜2秒程度になると建物に甚大な被害を引き起こすということなんですが,1995年兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)でこのタイプの地震動が発生し,主としてメディアで使われるようになりました.

 どういうメカニズムでキラーパルス(1-2秒成分を多く含んだ地震動)が発生するかについては,稿を改めて書きたいと思いますが,ざっくり言うと,震源,深部地盤構造,表層地盤の組み合わせによって決まるのですが,1995年兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)の場合は,主として震源や深部地盤構造といった(表層地盤ではなく)基盤レベルで1-2秒が出ていたということで,そういうものをキラーパルスと呼ぶようになったということがあります.

 つまり,表層地盤の影響で1-2秒が出ても(例えば,2007年能登半島地震のK-NET穴水)キラーパルスとは呼ばないということなんですが,構造物被害という観点からすると,地震動がどういう周期特性などの性質をもっているかが重要であって,その生成要因は関係ありません.そういう意味では表層地盤によって生成された1-2秒のパルスは,キラーパルスと同じの性質をもつのですが,キラーパルスとは呼ばないわけです.

 それで,本題のキラーパルス,正確には,1〜2秒成分を多く含むため多くの建物に大きな被害を引き起こす地震動が発生する確率ですが,ここでは,地震動をその周期特性によって4つに分類します.

1. 0.5秒以下の極短周期を多く含んだ地震動
2. 0.5-1秒の短周期を多く含んだ地震動
3. 1-2秒のやや短周期を多く含んだ地震動
4. 2-5秒のやや長周期を多く含んだ地震動

 それぞれの特徴としては,1.は震度や地動最大加速度(いわゆるガル)は大きくなるが被害はあまり大きくならない,3.は木造や中低層非木造といった日本のほとんどの建物に甚大な被害を引き起こす,4.は高層建物や免震建物に被害を引き起こす,ということがあります.2.はあまり注目されていませんが,中小被害と対応があるとともに,耐震性能が高い建物に被害を引き起こします.このように地震動を4つに分類すると,過去に発生した地震動でその内訳はどうなっているのかということです.

 この4つの周期帯の成分の大きさから1.〜4.の分類を行うのですが,問題は,多くの地震動の応答スペクトルが右下がりの傾向にあるので,応答スペクトルの値で比較することができないことです.

 そこで,震度という「基準化した」物差しで比較することにします.1-2秒震度と0.5-1秒震度は,既に提案してる計算方法があるのでそれを使います↓.

 次に,1.の0.5秒以下に対応した震度ですが,計測震度が0.1-1秒応答と対応していることを利用して,計測震度(0.1-1秒震度)から0.5-1秒震度を「差し引く」ことで求めます↓.

 そして,2-5秒震度ですが,この周期帯は,高層建物や免震建物の被害と対応付けて定義します.具体的には,既存の免震建物のクリアランスの平均が±50cm,減衰定数が20%であることから,一方向(平均方向)の減衰定数20%の2-5秒変位応答がクリアランスに達すると震度7の下限の6.5,その半分の25cmで震度6弱の下限の5.5としました↓.

 これを高層建物に当てはめると,減衰定数を2%,最大層間変形角が全体の変形角の2倍とすると,最大層間変形角にして震度7の下限の6.5が1/50,震度6弱の下限の5.5が1/100となって,後者が構造設計指針のレベル2と対応します↓.

 これで4つの周期帯を震度という同じ尺度で測ることができるようになったので,あとは,過去に発生した地震動,具体的には,1993年1月-2016年5月のK-NET,KiK-net,震度計,JMA観測点で観測された計測震度6弱以上の記録(N=512)について,その発生割合を計算しました.その結果が以下の通りです↓.

 まず言えるのは,多くの地震動は,建物被害とは関係のない0.1-0.5秒に大きな成分を含んだ地震動であることがわかります.具体的には,震度6弱の地震動が発生したとき,0.1-0.5秒震度が6強以上のものが80%,6弱以上だと99%です↓.

 では,キラーパルスのような1-2秒成分を多く含んだ地震動の発生割合はどのくらいかと言うと,震度6弱の地震動が発生したとき,1-2秒震度が6強以上なのは8.2%,6弱以上だと28.1%であることがわかります↓.

 つまり,震度6弱を記録しても,実際に大きな被害が生じるのは,木造家屋の全壊が始まる震度6弱の下限を基準にすると28.1%,木造家屋が8%程度全壊する震度6強の下限だと8.2%ということです.

 あと特筆すべきは,2-5秒震度が大きい地震動が少なからず既に発生していることです.具体的には,2-5秒震度で7以上でも1.8%,6強以上だと4.1%にもなり,免震建物でも必ずしも安全とは言えないことがわかります↓.

 そういう地震動(2007年新潟県中越沖地震の刈羽村震度計や2016年熊本地震の西原村震度計など)が発生した周辺に免震建物や高層建物がなかったので実際に大きな被害は発生しませんでしたが,2016年熊本地震ではクリアランス近くまで応答した免震建物はありました.

謝辞: 強震記録は,防災科学技術研究所,自治体,気象庁より提供して頂きました.

論文: 江藤大貴, 境有紀, 地震動の周期特性による発生割合の定量的な検討, 日本建築学会大会学術講演梗概集,構造II,457-458,2017.8.

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