現段階(2/27時点)で得られた情報を基に得られた(私の)知見をまとめておきます.
今回の地震で大きな被害を引き起こした原因は,地震の揺れと建物の耐震性の双方から考える必要があります.まず,地震の揺れについては,マグニチュードが6.3とさほど大きくないにも関わらず,震源がクライストチャーチの市街地に近く,しかも浅かったことに加えて,1995年兵庫県南部地震でも見られた1-1.5秒という建物の大きな被害を引き起こす周期のパワーが強い地震動が発生してしまったことが大きな原因と考えられます.
クライストチャーチ市街地で記録された強震記録を見ると,その1-1.5秒のパワーは,1995年兵庫県南部地震のJMA神戸に匹敵します.なぜ1-1.5秒のパワーが大きくなってしまったかは,震源近くでは,0.5秒以下の極周期が卓越していること,市街地で液状化現象が数多く見られていることから,表層地盤の影響と予想されます.従って,今回発生した地震動は,キラーパルスではありません.キラーパルスは,震源から1-1.5秒程度の周期のパルスが出ているというのが定義ですが,成因はともかく,破壊力のある地震動という点では同じです.
建物の耐震性については,ニュージーランドは,日本,アメリカと並ぶ,耐震工学の先進国であり,耐震規準の不整備が原因とは,考えられません.1992年のNZコードを見ましたが,この規準に従って設計施工された建物なら,JMA神戸に匹敵する地震動でも大きな被害を被ることはないでしょう.考えられるのは,「既存不適格建物」の存在です.
世界の耐震工学が発展したのは,20世紀後半であり,それが設計規準に反映されるようになったのは,1980年頃からですから,それ以前に建設された建物は,規準を満たしていない「既存不適格建物」である可能性が高いです.耐震偽装された建物は,現行法に違反しているので取り壊しになりましたが,法は遡って適用されないので,既存不適格建物は,現行法を満たしていないにも関わらず,大量に野放しになっていて非常に問題です.実際,地震が発生したときに被害を受けるのはこういう建物です.1995年兵庫県南部地震のとき,大きな被害を受けたのもそういう建物がほとんどで,当時の規準を満たしている建物で大きな被害を受けたものはほとんどありませんでした.
つまり,日本と事情が酷似していて,同じことが日本でも起こりうるということです.日本の場合,全体の2〜3割が既存不適格建物と言われ,数にして1000万棟近くにもなります.早急な対応が必要です.日本は地震活動期に入ったとされ,今後30年の間に高い確率で発生する大地震が,首都直下,東海,東南海,南海,宮城県沖と目白押しですし,今回のようなマグニチュード6〜7の直下地震は,日本のいつどこで起こってもおかしくありません.
木造家屋の場合,耐震補強をすると150万程度かかりますが,30年使うのであれば,一月あたりにすれば4000円余りです.人間は,滅多に来ない非常に大きな恐怖を無視しようとするという性質があります.本能的に行動していては,地震で命を落とすことになります.
・ニュージーランド クライストチャーチ直下の地震(コラム)