7/26'2003
updated on 7/27,28,29,31,8/1'2003
2003年7月26日に発生した宮城県北部を震源とする地震について
■被害調査速報
境有紀(筑波大学機能工学系),纐纈一起(東京大学地震研究所)
坂上実(東京大学地震研究所)
※とりあえず速報です.内容は修正されることがあり,順次更新していきます.
何かご意見などありましたら,また内容の一部を引用される場合もメールで
ご連絡ください.
今回の地震の大きな特徴は,震度6以上を観測した地震が同じ日(7/26)に3
回(0:13, 7:13, 16:56,それぞれM5.5, M6.2, M5.3)も続いたことであろう.
震度6以上を観測した地点の各地震の震度を一覧にすると以下のようになる.
鳴瀬 矢本 南郷 鹿島台 河南 桃生 涌谷 小牛田
00:13 6弱 6弱 5強 5強 5弱 4 5弱 4
07:13 6強 6強 6強 6弱 6弱 6弱 6弱 6弱
16:56 4 4 5強 − 6弱 5弱 5強 4
特に7:13の地震では3点で震度6強が観測され,震度6弱以上の点も8点にも
及んだ.
震度6強は,家屋の1割が倒壊,震度6弱は,家屋の1%が倒壊(あるいは,
6強は,家屋の2割,震度6弱は2%が全壊)するほどの甚大な被害が想定さ
れている.しかし,震度と実際の被害が対応していない例がここ数年数多く見
られるのも事実である.
そこで,震度が観測された地点とある程度同じ強さの揺れであったと考えられ
る,観測点周り(具体的には半径200m)の建物被災度を調査し,震度と実際の
被害の対応性を見るための被害調査を行った.その他にも大きな被害を受けた
いくつかの鉄筋コンクリート造建物の概略的な調査を行った.
各調査地点(上が北)
調査日程:各調査地点にリンクが貼ってあります
○7/27(日)
10:50 東大地震研 纐纈一起氏,坂上実氏 東大地震研を出発
12:00 境有紀とつくば市内で合流し,つくばを出発.
16:40 鳴瀬町役場着(6弱,6強,4)
()内の3つの数字は,それぞれ0:13, 7:13,16:56の震度(以下同じ)
鳴瀬町役場周辺の建物被災度を調査
17:45 矢本町役場着(6弱,6強,4)
矢本町役場周辺の建物被災度を調査
18:50 矢本歩道橋脇の全壊した家屋.既に撤去されていた.
○7/28(月)
04:08 に最大震度5弱の余震
08:15 K-NET石巻(石巻市立大街道小学校)周辺
周辺に被害を受けた建物は見当たらない
08:55 南郷町役場着(5強,6強,5強)
南郷町役場周辺の建物被災度を調査
震度計から300mほど南西の位置に,大きな被害を受けて取り壊し中の
家屋が1棟.
13:30 地震計の設置に時間がかかり,南郷町役場から2kmほど南にある,
大きな被害を受けた家屋数棟を見に行く.
15:40 涌谷町役場着(5弱,6弱,5強).
涌谷町役場周辺の建物被災度を調査
5/26の地震よりは被害が出ているが,被害は屋根瓦,外壁の落下.
16:25 小牛田町役場着(4,6弱,4)
小牛田町役場周辺の建物被災度を調査
被害を受けた建物は見当たらない
17:55 矢本東小学校着.地震計を設置.
18:10 矢本第一中学校着.
東西に長い校舎の柱にせん断ひび割れ.中破と判定.
19:40 鳴瀬町役場着.地震計を設置.
○7/29(火)
07:50 河南町広渕着
08:15 河南町役場着(5弱,6弱,6弱)
河南町役場周辺の建物被災度を調査
地震計を設置
09:10 北村小学校着.
校舎建物の1階柱の多くがせん断破壊し大破.
09:40 公立深谷病院着
北側の建物の2階柱の多くがせん断破壊.
09:55 広渕小学校着.特に大きな被害無し
10:35 桃生町役場着(4,6弱,5弱)
桃生町役場周辺の建物被災度を調査
被害を受けた建物は見当たらない
11:40 矢本東小学校で設置した地震計をチェック
12:30 南郷小学校で設置した地震計をチェック
13:10 鹿島台町役場着(5強,6弱,−)
鹿島台町役場周辺の建物被災度を調査
家屋の被害はは屋根瓦の被害(青いシート)以外特に見られない.
鉄筋コンクリート造建物には,半径200m以内に大きな被害を受けた
鹿島台国保病院がある
13:35 鹿島台国保病院
15:15 K-NET古川
周辺に被害を受けた建物は見当たらない
19:10 つくば市着.東大地震研 纐纈一起氏,坂上実氏と別れる
○まとめ(仮)
・今回の地震は,5/26の地震に比べてマグニチュードが小さい(前回: 7.0,
今回: 6.2)ものの,震源が浅く(前回: 約71km, 今回: 約12km),局所的に
前回より大きな被害が出ているが,被害が生じている範囲は非常に狭い(半
径5〜10km程度)
・震度6強を観測した3点(矢本,鳴瀬,南郷)周りの被災度は,いずれも震
度5相当以下であった.ちなみに,震度6強,6弱に相当する被害とは,家
屋の大破率がそれぞれ8%以上,1%以上.これは自治体の罹災調査の全壊
にすると16%以上,2%以上に対応.詳しくは■ここ■か■ここ■.
・震度6弱を観測した地点もいずれも震度5あるいは4相当以下の被災度であ
った.特に小牛田,桃生の震度観測点周りにはほどんと被害がなかった.
・全体を通して主な被害は家屋の瓦屋根であった.屋根瓦の被害が最も大きか
った震度計周辺地域は矢本町役場周辺であった
・調査した中で,最も被害が大きかった地域は,河南町の震度計が置いてある
河南町役場から4kmほど南の河南町広渕で,倒壊家屋が10数棟,大破以上の被
災レベルの鉄筋コンクリート造建物が数棟あった
・調査した中ではこの他に大きな被害を受けた鉄筋コンクリート造建物は,鹿
島台役場のすぐ隣の鹿島台国保病院,やや大きな被害(中破)建物としては
矢本第一中学校があった
謝辞
被害調査の際,現地の方々は,被災されていたにもかかわらず,快く応対して
いただき,様々な資料も提供していただきました.また強震計の設置の際,各
学校の先生方に便宜をはかっていただきました.日本建築防災協会岡田恒男先
生,千葉大学小谷俊介先生,東京都立大学北山和宏先生,東北大学前田匡樹先
生にご意見,情報等いただきました.
■発生した地震動について
境有紀(筑波大学機能工学系),神野達夫(広島大学大学院)
纐纈一起(東京大学地震研究所)
防災科学技術研究所のK-NET, KIK-NETを用いて,震度マップおよび提案する被
害と対応する算定法による震度マップを作成した.しかしながら,今回は震源
が浅く,大きな揺れを観測したのが非常に狭い範囲だったため,K-NET, KIK-N
ETでは,K-NET石巻,K-NET古川の5強が最大だった.
(1) 地動最大加速度 (2) 計測震度
(主として体感のみを考慮)
(3) 提案する算定法による震度 (4) 1-2秒応答を基にした
(体感と被害を考慮) 提案する算定法による震度
(被害のみを考慮,被害震度)
※なお,これらの図は各強震観測点の値を補間してコンターを求めています.
そのため,各強震観測点の外側の部分は外挿となり精度に欠けますので注意
してください.例えば北海道の太平洋側でやや震度が大きくなっているのは
それが原因と考えられます.
5/26の地震と比べると強い揺れの範囲は非常に狭いことがわかる.また今回は,
強い揺れが生じたのがK-NET, KIK-NET観測点の間に挟まるような非常に狭い範
囲だったので,K-NET, KIK-NET観測点だけによるマップでは,被害の生じた範
囲を表現できていない.しかし全体的に見れば,計測震度より被害震度や提案
する算定法による震度は小さく,今回も短周期が卓越した地震動が発生し,震
度が大きめに出たのではないか,と考えられる.
前回(5/26)と今回の地震によるK-NET石巻,K-NET古川の加速度,速度波形,加
速度応答スペクトル,震度,提案震度などを以下に示す.
両点とも震度6強,6弱を記録した地点からはやや離れているが,スペクトル
特性的には前回と今回は非常に似ていて,どちらも短周期が卓越している
謝辞
弾性応答スペクトル,提案する算定法による震度の計算には,防災科学技術研
究所のK-NET,KIK-NETの強震記録を使用させていただきました.
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