研究成果の解説

 【What's new】
 ・キラーパルス(1〜2秒成分を多く含んだ地震動)が発生する確率(200819)
 ・震度や地震の揺れと被害に関する基礎知識(200806)
 ・大地震時の建物損傷度を単一加速度センサーから判定する安価な装置の開発(200805)
 ・津波警報が出て津波が来るのは8回に1回(200728)

※このページをポータルサイトにして,順次リンクを貼って行くことで研究成果を公表して行きたいと思います.とりあえず,研究テーマの概要を書きました.

 地震動の性質と建物被害の関係を探求し,それを地震災害軽減に結びつけるための研究をしています.主な研究テーマは以下の1.〜6.のように分類されます.

1. 地震動の性質と建物被害の関係に関する研究

 建物被害は,震度が大きくなるほど大きくなるという単純なものではありません.がたがたと小刻みに揺れる,ゆっさゆっさとゆっくり揺れるといった「周期特性」(周期: 一往復に要する時間)によって震度が同じでも被害が大きく変わること,具体的には,1〜2秒という周期成分が多いほど大きな被害に繋がることを指摘しています.

 震度や地震の揺れと被害に関する基礎知識(200806)
 震度や地震の揺れと被害に関する記事

 研究方法としては,強震観測点回りの調査による実被害データと強震記録を使った分析,コンピュータを使った非線形地震応答シミュレーション解析,鉄筋コンクリート造建物を対象とした超縮小模型を開発することで様々な地震動を入力する振動実験,木造建物の実大振動実験などを行っています.

 最近の成果としては,周期特性だけではなく,周期特性と繰り返し特性の組み合わせが重要で,周期1.5秒程度以上の場合,1995年兵庫県南部地震のようなパルスより,繰り返し回数が多い地震動の方が大きな被害を引き起こすことがわかってきました(過去にも発生しているがたまたま周辺に建物が少なかったがすぐ横の建物は大きな被害).

 また,木造建物は,周期と耐力の依存性がある(耐力を高くするために壁を多く入れると固くなって周期が短くなる)ことから,0.5〜1秒応答が大きくなると,耐力が高い建物の方が被害を受けてしまうこと,2016年熊本地震の益城町の記録はそのようなものであったことを指摘しています.

2. 地震発生直後の被害推定に関する研究

 1.の成果に基づき,震度の代わりに1-2秒応答を使うことで,地震発生直後により正確に被害推定(250mメッシュ)を行うことを目的とした研究を行い,被害推定システムを運用し,結果を公表しています.東日本大震災などの過去の大地震において,より正確に実際の被害を再現することができました.

 研究内容としては,限られた情報から建物の周期や耐力を算定する方法と,どこにどのような建物があるのかを国勢調査の人口密度データなどから推定する方法の開発(人口密度が高いほど木造より非木造,低層より高層建物が多くなる),木造家屋1棟とマンション1棟では被害の受ける人数が大きく異なるため,「建物内人口」で被害をアウトプットする方法の考案などがあります.

 1-2秒応答は,建物が大きな被害を受けるときの等価周期という物理的背景をもつため,この手法は,将来耐震性能が変化した場合や海外の建物についても適用可能なもので,そのような検証もしています.

 地震被害推定に主眼を置いた研究全体の概説

 また,震度5弱以上を記録した場合,その地震動を解析した地震動レポート過去のもの)を公表しています.

3. 地震被害推定のための非線形建物群モデルの構築(現存する建物の耐震性能に関する研究)

 過去のデータに基づいて経験的に求める震度や1-2秒応答と被害率の関係(被害関数)ではなく,現存する建物の周期や強さ(ベースシア係数)といった耐震性能を基に非線形建物群モデルを物理的背景に基づいて構築する研究をしています.その結果,実際の建物が保有する耐力(強さ)は,設計基準から求められるものと大きく異なるものであること,木造建物では経年劣化を考慮しないと実際の被害データを説明できないことがわかってきました.

 そのためには,現存する建物の耐震性能を調べることが必要なのですが,建物は人間が設計し建設するものであるにも関わらず,出来上がった建物がもつ耐震性能はよくわかっていません.そこで,構造図面や様々なデータを分析したり,実大木造建物の振動実験などを行ったりすることで,現存する建物の耐震性能を把握する研究をしています.

 スリットを入れるな!(コラム)

4. 将来発生する大地震の被害想定に関する研究

 1-2秒が出れば,大きな被害になってしまうのですが,そのような地震動がどのような震源や地盤の組み合わせによって発生するか(例えば,首都直下地震で1-2秒が出るのか出ないのかなど)について研究しています.その結果,全国に存在する活断層の中でも,1-2秒が出る場合と出ない場合があることがわかってきました.

5. 強震観測点回りの地震被害調査と地震動の分析

 地震動の揺れの性質と建物被害の関係を検討するためのデータ収集,そして,実被害データと揺れの記録の双方をもつ貴重なデータを後世に残すことを目的として,強震観測点回りの地震被害調査を行っています.過去に調査を行ったものはこちらにあり,そのほとんどを日本地震工学会の論文集に投稿しています.

6. その他の地震防災に関する研究

 1.〜5.以外に様々な地震防災に関する研究をしています.いくつか例を挙げると,
大地震時の建物損傷度を地震終了時の自由振動を捉えることで,建物に取り付けた単一加速度センサーから判定する安価な装置の開発
・震度や津波警報などの防災システムの定量的評価: 1-2秒成分が多く含まれる地震動が発生すると,計測震度は同程度でも実際の被害は大きく異なるが,そのような地震動の発生割合を検討した結果,1割程度であること,津波警報が出たとき,想定される津波高さの津波が発生する割合も1割程度で,どちらも正常化の偏見(狼少年)になりやすいことを指摘
・耐力が高い木造建物の方が被害が大きくなる地震動が過去に1割程度発生していることを指摘
などがあります.

キラーパルス(1〜2秒成分を多く含んだ地震動)が発生する確率【NEW】
津波警報が出て津波が来るのは8回に1回
10回に1回
津波警報と避難について(コラム)

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