3/20 '05
Updated on 3/21, 22, 23, 24, 25 '05
福岡県西方沖地震で発生した地震動と被害速報
境有紀(筑波大学システム情報工学研究科)
小杉慎司(筑波大学第三学群工学システム学類)

2005年3月20日10時53分頃,福岡県西方沖を震源とするマグニチュード7.0(推定値)の地震が発生し,最大震度6弱を観測しました.震度計,防災科学技術研究所K-NETおよびKiK-netの強震観測点で,本震で震度5強以上を記録したものは以下の通りです.

震度6弱
 ・福岡県: 福岡東区東浜,福岡中央区舞鶴, 前原市前原西,
        K-NET福岡(FKO006)
 ・佐賀県: みやき町北茂安
震度5強
 ・福岡県: 福岡中央区大濠,福岡西区今宿,福岡早良区百道浜,春日市原町,
        須恵町須恵,福岡新宮町緑ヶ浜,久山町久原,粕屋町仲原,二丈町深江,
        福岡志摩町初,碓井町上臼井,穂波町忠隈,久留米市津福本町,大川市酒見
        K-NET前原(FKO007),K-NET久留米(FKO011)
 ・佐賀県: 七山村滝川,上峰町坊所
 ・長崎県: 壱岐市芦辺町芦辺
※太字は周辺の被災度調査を行った観測点

波形が公開された防災科学技術研究所K-NETおよびKiK-netの強震記録を用いて,発生した地震動の性質を調べて被害を予測し,その後,強震観測点周りの被害調査を行って,実際の被害との対応性について検証します.

発生した地震動の性質と予想される被害
0.5秒程度の短周期が卓越していて,建物の大きな被害を引き起こす1-2秒の周期帯のパワーは小さく,震度6弱を記録したものの強震観測点周辺では大きな被害は生じていないことが予想されます.

強震観測点周りの被害状況(先見調査)
先見調査の結果,大きな震度(震度6弱)を記録した観測点周りでは予想通り大きな被害は見られませんでした.より綿密な調査,および,定量的なデータを収拾するため,主として強震観測点周りの被害状況の調査を行いました.また,甚大な被害となってしまった玄界島の被害調査も行いました.以下は,その速報です.

■強震観測点周りの被害状況(本調査速報)
 ・福岡東浜震度計(震度6弱)
 ・K-NET久留米(震度5強)
 ・みやき町北茂安震度計(震度6弱)
 ・福岡舞鶴震度計(震度6弱)
 ・K-NET福岡(震度6弱)
 ・前原市震度計(震度6弱)
 ・K-NET前原(震度5強)

玄界島の被害状況(速報)

玄界島以外の福岡本土で震度が大きい(震度6弱)のにあまり被害が出ていないのはなぜか?という問い合わせが何件かありました.現在の震度は1996年から計測震度となり,波形データからコンピュータで計算しています.その際,地震動の主として0.1-1秒という比較的短い周期帯をターゲットとして計算しています.この0.1-1秒という周期帯は,人体感覚(人がどのくらい揺れを強いと感じるか)や室内物品の動きに対応しています.ですから,0.1-1秒という比較的短い周期帯が卓越した地震動が発生すると震度が大きい割には被害が生じない,ということになります.

今回の地震で発生した地震動も0.5秒程度の短周期が卓越したものだったので,震度が大きい割にはさほど大きな被害が生じなかった,と考えられます.このような傾向は,1997年鹿児島県北西部地震,2000年新島・神津島を近海とする地震,2000年鳥取県西部地震,2001年芸予地震2003年三陸南地震2003年宮城県北部地震,川口町,山古志村以外の2004年新潟県中越地震でも見られました.

つまり,現在の震度は,人の感じ方,室内物品の動きと対応し,揺れの強さを表現する1つの目安であって,必ずしも被害と対応しているものではないということを認識しておく必要があるということです.気象庁サイドも気象庁震度階級関連解説表はあくまで参考情報であり,その注意事項の中で「震度が同じであっても、対象となる建物、構造物の状態や地震動の性質によって、被害が異なる場合があります。この表では、ある震度が観測された際に通常発生する現象を記述していますので、これより大きな被害が発生したり、逆に小さな被害にとどまる場合もあります。」とはっきり明記しています.被害と対応する地震動の周期帯は1-2秒という比較的長い周期で,1995年兵庫県南部地震や2004年新潟県中越地震の川口町や山古志村ではこの周期帯に大きなパワーがあったために大きな被害が生じました.

今回の地震では0.5秒程度の短周期地震動が発生したため大きな震度を観測したにも関わらず被害はさほどでもありませんでしたが,大きな被害を引き起こす1-2秒にパワーのある地震動が発生すれば震度は同程度でも甚大な被害が生じます.実際,1995年兵庫県南部地震では,震度6弱でも16.1%の家屋が全壊したケース(神戸駅前周辺)もあります.そのような地震動はマグニチュードが大きなM8クラスの海洋地震(想定東海,東南海,南海地震など)で発生が危惧されており,マグニチュードが7クラスでも1995年兵庫県南部地震や2004年新潟県中越地震の川口町,山古志村のように震源の破壊メカニズムの影響や表層地盤によっては発生する可能性があるので注意が必要です.

今回の地震は,地震動の性質上,たまたま被害が少なくて済みましたが,地震活動度が非常に低いと考えられていたところで発生しました.福岡は地域係数0.8(建物の強さが日本の大部分のところに比べて2割小さくてよい)という日本本土では最も耐震規定がいわば「甘い」ところです.私(境)は福岡出身で,生まれてから20年福岡で育ちましたが,地震の記憶はありません.思い起こせば,大きな被害を引き起こした1995年兵庫県南部地震,2004年新潟県中越地震もいずれも予想されていないところで発生しました.やはり日本国中いつどこで大地震が起こってもおかしくないと考えるべきでしょう.

謝辞
被害調査の際,現地の方々は,被災されていたにもかかわらず,快く応対して いただきました.強震記録は,防災科学技術研究所,気象庁,鉄道総合技術研究所より提供いただきました.被害調査は東京大学地震研究所纐纈一起先生,三宅弘恵研究員と共同で行い,諸費用は東京大学地震研究所に負担していただきました.被災された方々が1日も早く元の生活に戻れるよう心より祈念しております.

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